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第48話『土曜日/ロキ ④-2』

 またしてもロキと朝まで遊んでしまう。

今日は彼も見たことが無い隠れた名作アニメを見つけようという話になって、私があらすじだけを見て決めた。


「……ごめん、これは酷いね」


「ホントにな。だから(オレ)は1クールじゃ危ねえって言っただろ」


「12話で終わるなら、上手くまとまってるって思うじゃない。これじゃ何もかもが半端だなあ」


お互いにグチグチと、どこが駄目だったかを容赦なくぶつけ合う。

制作者に対して失礼千万(せんばん)だけれど、私たちがお互いを知るには役立った。


ロキは当初のゆるいイメージとまるで違って、かなり理屈っぽいらしい。

「SFのクセに、基本的な物理法則を無視しすぎだろ」と苛立(いらだ)っている。


私は私で「この一番人気ありそうなキャラは、盛り上げ役として酷い死に方するべきだ」と述べ、物語に没入しないドライな性格だと指摘された。


六時間にも及ぶ一気見(いっきみ)を終え、目をこすりながら私は言う。


「はー、いい加減眠い。……あなたは元気ね。今更だけど神様って、睡眠とか食事とか必要なの?」


「フツーは()らなくても問題ないけど、気持ちイイってのは人間と同じだな。アッチもしかり」


最後は丸っきり無視して、寝る支度を始める。

そういえば予定を決めないと、と思い立って

「来週は朝の七時からにしてね」と言えば、

「いーけど、たまには外に出ようぜ」と返されたので了承する。


……ちっとも帰る気配が無いロキに「眠いんだってば」とせっついた。


「なあ。そんでお前はさ、結局どいつが一番好みなワケ?」


「またそれ? 今回は嘘じゃなくて、本当にまだ分かんないんだけど」


「今回は、ねえ。……じゃあ添い寝してやるよ」


脈絡(みゃくらく)が無さ過ぎる。

露骨に「はあ?」という顔だけで返事をしてみると、


天照(あまてらす)に『愛を探せ』って言われただろ。数年で人類がヤバいって状況は変わってねーぞ? とっとと恋愛脳になったらどうなんだよ」


「友人との間で探す気はないけど?」


至極(しごく)真っ当な回答をする。

そりゃあ彼もビジュアルだけで言えば、文句のつけようがない。でもこの人ロキだし。

一体何を言ってるんだか、と呆れていると。


「……あーあ、ひよりんは相変わらずカタいのねえ? 恋愛なんて肩書でするもんじゃないよ~?」


「そうかもしれないけど、ロキとはしないって」


ハッキリ告げれば、「はいはい、分かりましたあ」という言葉と共にベッドへと肩を押されて向かう事になる。


「添い寝くらい、してもいいだろ。お前が寝ついたら還るからさ。指一本、体には触れない」


「……約束破ったら、承知しないからね?」


「『大嫌い』でも何でも言えよ。ほら、横になれって」


まあ、いざとなればどうにかなるか。

なんだかんだで、この神様たちはそこまで不埒(ふらち)な事をしない。


眠さも限界だったのでベッドにもぐり込むと、(ひじ)をついたロキが向かい合う。

思ったよりも圧迫感が無いのは、男性の割にしなやかな体つきだからだろうか。

クーラーで冷えたシーツが彼の体温で程よく温まって、心地よく眠れそうだった。


◆◆◆◆


 それにしても、まったく約束し甲斐がない人というか、なんというか。

初日もそうだったけど、ロキは手持無沙汰(てもちぶさた)なのが苦手なんだろうか。スリスリと私の髪を撫でたり、指に(から)ませて言う。


「……結構長いのに、指通りがいい」


「ねえ、触らないんじゃなかったの? 髪もカウントされるからね?」


特に下心を感じる手つきではなかったけれど、一応指摘しておく。


「だとしても、ここは頭だろ。胸でも腹でもないから、体じゃない」


「昆虫の話してるの? ……せっかく褒めてもらった所に悪いんだけどさ、髪、バッサリ短く切ろうと思ってるんだ。今の私に似合う気がするし」


するとロキは意外と真剣な声で言う。


「長いのも似合ってる。『心機一転したいから髪切るの~』ってか? 少女漫画のヒロインかよ」


「神様と恋愛しろって言われてるんだから、あながち間違いじゃないかもね」


自分で言ってて、やっぱり馬鹿みたいだと自虐的な笑い方をしていると、

「どうしても切りたくなったら(オレ)に言え。やってやるから」と妙な申し出をされた。


断る理由もあまり無いので、分かったと答えると「あっそ」と言わんばかりの興味なさげな顔をされて、私に負けず劣らず、本当にこの神も(こじ)らせてるなと感心する。


(まあ、この関係は今の私には丁度良いかもしれない。人の愛し方がまだ分からない、から……)


髪をいじられる独特の心地良さに(まぶた)が重くなる。

ああ、もう意識が無くなる──その瞬間、耳に息を吹き込まれ、妖しく(ささや)かれた。


「なあ。月読と(オレ)がやり合った話、知ってるか?」


「……オシリスさんの手紙にあったから。もう、せっかく眠れそうだったのに」


「アイツがどんな風にキレ散らかしたか、聞きたくねえ?」


それは喧嘩した相手から聞いて良いものなのか。何よりも眠る寸前の話題に相応(ふさわ)しくないので、聞き流そうとする。それなのに。


「あるいはこの三か月、(オレ)がどんな気分だったのか……とか」


……暴力的なまでに色のついた表情は、嫌がらせに近い。

これは彼の悪い癖だ。いたずらに相手を揺らして、何を得ようとしてるのか。

友人として注意するべきだと感じて、しっかり目を合わせて言う。


「人を試すような真似をしていたら、真剣に向き合ってもらえないんじゃないかな。今日はもうおしまい。イイコだから帰りなよ」


今の私は早口気味だけれど、あえてゆっくり告げて──。シヴァさんにかつてされた、子供向けのキスを額にしてあげた。

すると、あのロキが「面食らった」と言わんばかりの顔をしていて、少し気分が良い。


「『大嫌い』って言われたい?」と私が微笑めば、彼は額に手をやりながら口の端を少し釣り上げて、

「おやすみ、日和」と言ってパッと消えた。


──ようやく訪れた静寂に私は深く眠る。

天邪鬼(あまのじゃく)との次の土曜日を、初めて心安らかに迎えられそうだと満足しながら。

※次回2/8(日)より通常通り、曜日に沿った各2話の更新(0:10&0:20)となります。

※ここまでお楽しみ頂けてましたら幸いです。

 ブクマや評価など頂戴できると、とっても嬉しいです!

※末席ながら日間・現実世界〔恋愛〕 連載中のランキングに入りました。

 読んで下さってる皆さま、本当にありがとうございます!

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