表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/101

第46話『馬鹿みたい』

 父の来訪に続いて唐突だったので、つい動揺してしまったけれど。

いつものペースを取り戻して、私は挑むような目線で彼らに向かい合う。


「皆さんお久しぶりです。一方的な置手紙のみとなり、大変失礼をしました。涙がどうこうというお話ですが……。つい懐かしくて。それだけですから、もう帰らせて」


冷たい声でスムーズにしゃべると、シヴァさんが静かに答える。


「ヒヨさあ、それが本来のお前ってアピールしたいんだろうけど。ハイそうですかって、納得するヤツいないぜ?」


「この結婚に関わる話は、私が嫌だと言えば取り()めてもらえると、何人の方からお聞きしましたが。人間との約束なんて、破っても平気ですか?」


即座に伏羲(フーシー)さんが否定してくる。


(いや)(たが)える気は無い。だが……()の前にどうしても話し合いたい。どうか(おび)えずに向き合ってはくれぬか」


まあ、そう答えるだろうなとは思ってた。


「怯えてはいけませんか? かつて好まれた存在とまるで異なる事に、幻滅される日々を送らなければいけない義務はありませんよね」


(オレ)……ぼくは今の方が好みだって、言ったけどおー?」


「テンプレトリックスターは黙っててくれる? あなたには特に、二度と会いたくないと言ったでしょう」


ピシャリと返せば、ロキは「すげえ面白(おもしれ)ぇー!」と満足そうだ。


「……日和(ひより)ちゃん。僕たちやり直したいんだ。仲良くなった子がこんなに傷ついてるのに、放っておけない」


(いた)わるように話しかけてくれるエンキさん。

同情してくれてるとは思ってたけど、その優しさが私にはあまり響かない。

そんな風に言ってもらえる資格がないから。


「世の中にはもっと困っている人が大勢います。神が贔屓(ひいき)するのは、如何(いかが)なものかと」


「…………おれは、ずっとえこひいきしてたし。今更だし」


長く(だま)してしまった月読(つくよみ)さんが、悲しそうに言う。辛かった頃、ずっと私を守ってくれた存在を裏切ってしまった。

彼の紫の瞳を見ることは出来ず、かろうじて言えたのは「他の女性にして下さい」という事だけだった。


その途端、白い空間に鈴の音が響き渡った。

続くのは(りん)とした、安定感のある女性の声。


(わたくし)天照(あまてらす)。“人類救済計画”を()とした主神が一柱(ひとはしら)。《黄金律に目覚めし者》、日和よ。此度(こたび)は降りることなど許されぬ」


我ながら不遜(ふそん)とは思ったけれど、名乗りもせずに(とが)めるような口調で問い(ただ)す。


「なぜでしょうか。私は選ばれるに足る存在ではございません。降りる自由もあると伺ってます」


「理由を知らぬは道理。そなたは春に届けた虹色の便りを、最後まで読まずにいたのだから。今一度伝えよう、日和。選ばれたのは《(けが)れ無き罪人》であったからだ」


その言葉を聞いた途端、ひゅ、と息が止まった気がした。罪人。


(おの)が人生の訂正を望んだそなたは、その欲望を認めることも出来ず、母の人生をやり直さんとすることで自らを(いつわ)った」


「わ、私は別に」


やり直したかったのは、私の人生……?

そんな、そんな馬鹿なことが──!?

私は母に少しでも()びたかっただけ……。

足元がグラリと揺れる。


「その(ひと)()がりな贖罪(しょくざい)こそ、人類の(ごう)を体現している。人世(ひとよ)を救うか否かを問うに相応(ふさわ)しい娘の一人と我らは考えた」


「人類の、業……。では結婚相手を選べというのは、」


「この者たちも神。そなたが詰まらぬ存在であれば、最終的に応えることなど有りはしない」


元々おかしいとは思っていた、なぜこんなにも都合の良い話なのだろうと。

私という人間は罪深く、試されていたということなのか。

これはある種の罰だったということなのか。

七人全員とは言わないけれど、思い当たる(ふし)が無いことも無い。


「日和よ。(おのれ)を見つめ直し、愛を探すのだ。それこそが母への贖罪の第一歩となる……分かるだろう?」


「──それ、は。だからですか……? 降りる事が許されない、というのは。私のためにも……?」


地獄のような日々に耐えてくれていた母。

あの人は、私に愛を知ることを望むのだろうか。……尋ねるまでも無い気がした。

天照様は最後に優しく告げる。


「……いずれとも結ばれぬなら、人の子は滅びるやもしれぬ。だがその時は、最期まで(わたくし)がそなたの(そば)にいよう。愚かで愛しい、わが娘よ」


彼女の声が()み、私は恥ずかしさで消え入りそうだった。

()()()である頃は、善良な人間でいられたと思い上がっていたのに。

それすらも罪だったということだから。


◆◆◆◆


 (うつむ)く私に声をかけてくれたのは、アポロンさんだった。


「話、驚いた……。俺たち全員でヒヨリを試してたわけじゃないよ?」


「……あなたは駆け引きが、絶望的に下手ですもんね」


引きつっていたかもしれないけれど、笑顔で答えてみる。彼はホッとした様子だ。


眼前の七人を改めて見つめる。

どういう訳か、初めて会った気すらした。


私は彼らに無条件で愛されない。

私が彼らを愛さない理由もない。

ようやくスタートラインに立ったのか。


何かが溶け出したようだった。

()り固まった私という(かたまり)から、(おり)のように(よど)んでいたものが。


視界がボヤけながらも幾らかマシな心持ちになれた頃、静かに語り出したのは敬愛する死者の国の神。


「日和さん、もう一度始めよう。貴女(あなた)のことを教えて欲しい。私たち全員がきっと、それぞれに誤っていた。もう二度と同じ失敗はしないから」


オシリスさんは愛らしい顔とは異なる節くれだった指で、私の目元を拭う。

……涙が流れていたなんて。

私は彼ら一人一人に目を向けて、宣言した。


「では自己紹介をさせてください。──初めまして、私は蒼野日和。人の愛し方すら知らない未熟な存在です。でも今度こそ変わりたい……変わらなくては。これからどうか、宜しくお願いします」


そして更に言う。


「明日は土曜日だから……早速ロキなのね。あなたに対しては遠慮なんて、しないから」


「ハハッ、こんなに興奮すんのは久しぶりだな。0時ピッタリに行ってやるよ」


まるで恋なんて始まりそうにないお互いのやり取りに、何人かが溜息をつく。

遠くにある丸い鏡は、相変わらず虹色を映していた。醜いノイズの走る頻度も同じままに見えて、安堵(あんど)する。


(私が愛を知らないままなら、人類が滅びるって? ……何なのそれは、馬鹿みたいだね。こんな私が任されるなんて。せいぜい壊れないで、待っていて)

※次回は同日2/7(土)19:10&19:20に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ