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第23話『水曜日/エンキ ➁-2』

 片づけをしようとするエンキさんを必死に食い止めて、洗い物をしながら背中越しに会話をする。


日和(ひより)ちゃん、そういえばテレビを置いたんだね。最近の子にしては珍しい?」


「諸事情ありまして……でも何だかんだ楽しんじゃってます」


ロキが「ぼくが払うからいいじゃん」と各種サブスクを入れてくれて、実はけっこう使っていた。


「へえー、どんなの観るの? 便利な時代だよねえ、こんなに色々あるなんて」


その言い方はなんだか本当に年配という感じだったけど。

言ったら傷つけそうなのでスルーして、口ごもりながら質問に答える。


「えっと……それは恥ずかしくて。実家だと観られなかったから……」


「へ? あっ……あーそうだよね! そういうこともあるよね!?」


彼に上擦(うわず)った声を出されて余計な誤解を与えてしまったことに気づき、

「違うんです、違うんです」とスポンジを持ったまま振り向く。


「改めて言うのは照れますが。心機一転して恋をしようと思ったのは良いものの、方法が分からず。──れ、れ、恋愛リアリティーショーというものを観ています」


「……………ふ、ふふふ。あはははっ!」


だ、だから言いたくなかったのに──!

恨めしげにジットリ(にら)めば、

「ごめーん!」とあんまり悪気なさそうに謝られる。


「ふふ、くくっ……。だって、真面目だなあって。なんでも予習するタイプなの? しかも映画とかドラマじゃなくて、恋リアってとこがもう……ツボに入っちゃって」


エンキさんはソファの(ひじ)掛けにしがみつくように体を震わせている。


「だ、だって。夢物語を観ても参考にならないかなって、思うじゃないですかあ……」


「もうやめて……面白過ぎる………」


そこまで笑うことでは絶対ないと思う!

マリちゃんならきっと──ううん、やっぱりさすがに笑うかもしれない。

エンキさんは透き通る銀髪を揺らして散々笑い散らかした後、いつになくキリッとした顔で言った。


「よし、じゃあ一緒に観よう?」


「絶対いやです」


「やっぱりそうだよねえ、失敗したな~」


彼はさらに小声で、

「笑うのは後にすればよかった」

なんて言い放つ始末。


この人……優しいだけの神様じゃないかもしれない。意外とからかうのが好きなのかも。

わたしがぷくーっと(ふく)れていると、なんだか嬉しそうだ。


「ごめんね。可愛いすぎて、つい。もう笑わないからホントに一緒に観ようよ。これでも僕、《知識の神》だから。どこがポイントだったか解説できると思う」


「……むぐぐ」


「恋リアはきちんと観たことないけど、共感できる要素は映画よりも優れてそうだよね。ただヤラセも多いって聞くからさ」


なかなか魅力的な提案に思えてしまう。

確かに観ていて、

「この駆け引きってどういう意味なんだろ?」

とか、

「こんなこと本当にあるの?」

とか、分からない所が多かった。

でもなあー、と悩んでいると……トドメとばかりに言われる。


「テレビ買ったの、ロキでしょう? 彼とは一緒に観るのに……僕じゃダメかあ」


やっぱりおじいちゃんとはイヤだよね、と。

ひどく寂しそうな顔をされては。

そんなことありません、解説お願いしますと頼むしかなかった。


◆◆◆◆


 もうすぐ夜十二時になる頃。

どういうわけか、わたしはやたらと神秘的な見た目の神様と──ソファで並んで他人のリアルな恋愛模様を観ている。


こちらの姿の方が視聴率を取れるんじゃないかな……。

そんなことを思いながら、真夜中においしいチーズケーキまでつつく。


「「……………………」」


ちらっと隣のエンキさんに視線を移すと、見たこともないほど鋭い目つきをしていた。

ブツブツとつぶやいている内容が、


「今のシーンは女性Bが男性Cを本命としていて……あ、ここはヤラセだな。場面の切り替えが甘い、セリフが説明調……これは日和ちゃんにさせたくない……」


なんて内容でなければ、ものすごくカッコいいはずなんだけど。


「あの、あの、エンキさん」


「………うん?」


あまりわたしの声も耳に入っていないらしい。

生返事をされたので、服をクイクイ引っ張って言う。


「そろそろお時間です」


「────あっ!」


やっぱり気づいていなかった。

お仕事のこともそうだけど、集中すると周りが見えなくなるのかもしれない。


「ごめん、まさかこんなに真剣に観てしまうなんて……。すごく面白かった、やっぱり人類ってすごい。僕は誇りに思うよ」


「ありがとうございます……?」


彼はなぜかちょっと涙ぐんでいる。

人類を褒めるポイントおかしくないですかね。

何ともいえない(おも)持ちで見つめれば、エンキさんはいかにも親切そうに言った。


「解説はまた追い追いってことで、いいかな? ──あと、日和ちゃんはもう観なくていいと思うなあ」


「ええー………」


言うことを聞く気はあんまり無いけど今夜はすっかり打ち解けて、今から来週が楽しみになっている。


玄関まで見送りつつ、

「エンキさんはお忙しいから、夜であればお手すきの時にいつでもいらしてください」

と伝えると、顔を輝かせて喜ばれた。


「噂に聞いた日和ちゃんの《神管理システム》が適用されないなんて、いいの!?」


「一体なんですか、その不敬なシステムは。わたしよりずっとバタバタしてる人にワガママ言わないだけですよ」


苦笑いしながら続けて言う。


「あんまり無理はしないでください。次はもう少し長くお話できると嬉しいです」


本心だった。この優しくて茶目っ気のある神様のことが心配だから。

するとほんの少しだけ空気が変わって──。

エンキさんに左手を取られて、軽くキスされた。

「約束する」という言葉と共に。

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