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第20話『火曜日/シヴァ ➁-1』

 電気を消してガラス(びん)を前に二人でこそこそと、おしゃべりをする。

やわらかい月と星の光がわたしたちを包んで、心まで明るく照らされた。

彼からほんのり漂うお香も心を落ち着かせてくれる。


前にも思ったけど月読(つくよみ)さんは聞き上手。

エンキさんやオシリスさんは、わたしを理解するためなのか、なんとなく分析してる気がするけど──彼にはそういう意図は一切ないみたいで。

「えっ、そうなんだ」とか「それ面白いね」とか、純粋に話を楽しんでくれている。


そのせいかうっかりしゃべりすぎて、気づけば夜十二時までもう少し。


「…………おれ、そろそろ帰らないとだ」


「はっ、もうそんな時間でしたか!」


月読さんは寂しそうに言った後、ちょっとだけ意地の悪そうな声を出す。


「そういえば火曜日にアルバイト入れたんだね。シヴァ、ちょっとは困ればいい」


「お子さんがいらっしゃるから、どのみち朝しかお会いできないですよ」


たまたまだけど都合が上手くかみあった結果だった。


「…………そっか。でもとにかく、あいつは手が早いから気を付けて。グーでいっていいよ、嫌なときは」


「そ、そんなことしませんよ! もしかしてお嫌いなんですか?」


グーとは穏やかじゃない。

神様同士の仲って気にしたことなかったものの、相性があっても不思議じゃないかも。


「…………嫌いじゃない、割といいやつ。でも、すぐ兄貴(づら)する。七人の中だと自分だって、せいぜい真ん中のくせに」


口を(とが)らせながらも彼を慕っているみたい。

『大嫌い』と言えばいい、じゃなくてグーを提案してるあたり二人の関係の良さが垣間(かいま)見えた。


◆◆◆◆


 月読さんとは恒例となった窓での別れの後、「たしかにシヴァさんはすぐキスしてきたな」と思い返す。


恋をしようとは決心したけど、わたしの大人の階段を勝手に減らすのはやめてもらわないと。

うーんと悩んでいると、我ながら良いアイディアを早々に思いついたので安心して眠りにつく。


そして早朝──マダムたちが現れるより先にゴミ出しを終えて室内で待っていると。

華やいだ女性陣の声が遠くに聞こえてきたので、到着が近いことを知る。

やっぱり程なくしてインターフォンが鳴った。


「おはようございます、シヴァさん」


「お、おう。どうしたそれ、風邪ひいたのか」


わたしは便利グッズ、マスクを装着してみた。

さらにオデコ対策として前髪にヘアピンを数本差している。これで簡単にはめくられない。


「いえ、そういうわけではありません。伝染(うつ)ることはありませんから、ご心配なさらず」


「オレ、神だぜ!? そりゃそうだろ!………って……んー? 声が生き生きしてるな~、イイことでもあったか?」


「心境の変化があったんです。……みなさんのお陰です」


先週の時点では分かっていなかったけど、シヴァさんにも大切なものを示してもらった。

《愛情深い父親》という自分のパートナーにいつか求めるかもしれない形を。

本当はこの世にいないのかもしれないと、疑っていたものを。


前回はご馳走していただいたので朝食を用意する。野菜スープと白身魚のソテー、ごはんという簡単なものだけど。

「うまい!」と言いながらぺろりと平らげてもらえた。


食後のお茶を飲みながら、だらっとした時間を過ごす。

すでに彼のタトゥーは気にならなくなっていて、圧迫感も半分くらいに感じるのは不思議。

赤茶けたクセのある長い髪がよく似合ってるなと思う。

まあこれだけ整った顔なら、大体なんでも板についちゃうんだろうけど。


「やっぱ人にメシ作ってもらうのは有難いよなあ。家事ってのは毎日こまごまあるから地味にシンドイ」


「ふふ、シヴァさんは一番人間っぽいかもしれませんね」


親しみを込めて言えば、本人はきょとんとした顔で答えた。


「そうかー? エンキじゃないのか? ……そういや結局なんでまたマスクしてんだよ。マジで元気みてーだし」


「…………これはですね。距離感を(つか)めない、どなたかの対策です」


スルーすることもできたかもしれないけど、意思表示も必要かなって。

そう思ったのが失敗だったのかもしれない。

せっかくの精悍(せいかん)でカッコいい顔をニヤリと(ゆが)めたのを見て「嫌な予感しかしない!」と後ずさる。


「ヒヨはキスできるのが、顔だけだと思ってんのか~? 初々(ういうい)しいなあ、他のトコロでも楽しめるんだぜ~?」


そう言いながら大きな体でじりじりと距離を詰めてくる。ほらねやっぱり!

「また『大嫌い』って言いますよ!」と必死に威嚇(いかく)すると、


「……ク、ククク……悪かった、冗談だよ。もう勝手にしない、約束する」


シヴァさんは意外にもアッサリと引いてくれて逆にびっくりしてしまう。だけど次には。


「してほしいって言わせる方が燃えるしな?」


と言いながら大きな手でわたしの(あご)を軽くつかんで、


「必ず、言わせてみせるし」


目を見ながら自信満々に告げた。

耳まで真っ赤になってるのが隠せそうにもなくて悔しい…!


「ホラ、すぐ可愛くなった」と耳をくすぐりながら、からかわれてしまって。思わず変な声を出してしまうと、

「……イイ声」と色気たっぷりの含み笑いまでされて。


(月読さん……!グーはまだ少し早いですよね……? そうでもないです……!?)

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