表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

第16話『日曜日/オシリス ①-1』

※本文の一部にスマホ視聴表示を優先して、見づらい罫線があります。PCユーザーの皆様には申し訳ありません

 (のど)の奥に小骨が引っ掛かったような思いを抱えながら。

そろそろ午後だと気づいてロキの方を向いたら……もういなかった。

あんなに楽な相手なのに、なぜか一人になって考えたいと思ってたからホッとする。


そういえば明日──。日曜日も午前からなのかな? まだ会ってないのは中学生くらいの神様だよね。

……ううん、そんなことばかり考えてちゃダメ。それよりも今は家庭教師の準備しないと、と思い直す。


じっくり時間をかけて教材に自分なりのポイントを足していった。将来の夢に繋がる、わたしにとっても良い経験となるはずのバイト。

こればかりは手を抜けない。


(よし、かなりいい感じかも!)


気づけばもう外は暗くなっていたので日用品を買いに行って、郵便受けをみると。

ごく薄いベージュ色の上品な封筒が入っていた。


宛先は「蒼野日和(あおのひより)様」となっているけど、差出人が「أوزيريس」と書いてあってさっぱり読めない──。って、あ!


部屋に戻ってから開封すれば、やっぱりあの少年……オシリスさんからだった。

スマホで検索するとアラビア文字でこう書くみたい。流麗という言葉がぴったりの達筆で(しる)されていたのは、


────────────────────

前略 日和さん


元気に過ごしていると耳にして安心したよ。

私はオシリス、エジプト神話にある通り《死者の国》を治めている。

これからどうかよろしくね。


ところで、今週は疲れただろう? 

私は日曜の午後にしか逢えない決まりになっている上、仕事で()が落ちるまで国を空けることが出来ない。


その為、当日の午後六時に(つか)いを寄越すから、都合の良い時間にその者と遊びに来るといい。

食事は用意してあるけれど、断ってくれても構わない。無理をしないでね。 草々

                 أوزيريس

────────────────────


「な、なんて完璧な………」


あどけない顔立ちをしてた、あの男の子だよね? 前に話した時も妙に大人っぽいとは思ってたけど。


事前にここまでの気遣いを見せてもらえると思わなかったので恐縮してしまう。

消印がついていないから分からないものの、数日前に送ってくれてたのかもしれない。


◆◆◆◆


 今の時刻は日曜日の夕方五時ちょっと過ぎ。

あらかじめスケジュールを組めたので、土曜日の夜から今まで久しぶりにのびのびと過ごすことが出来た。


(やっぱり来週から予定を組むように、神様たちにお願いしよう!)


当たり前の要求のはずなのに、人間離れした華やかさに押し負けていたと実感する。

何があっても、わたしはわたし。

弱いからこそ、これだけは忘れないようにしないと。


それにしても「国を空けることが出来ない」って……。そこはエジプトってことなのかな。

常識で考えたら日本にもおうちがあって、そっちに招かれてるんだろうけど、よく分からない。


なんにせよ、お呼ばれとなってはあまりにラフな格好は気まずい。かといって入学式の時に着たスーツもおかしいし。

あれやこれやと色々悩んだ結果。


マリちゃんが「なんかあったときのために、シンプルなワンピは一着あると便利だよ」とアドバイスをくれて、去年一緒に選んだ襟がかわいいワンピースを着て待っている。


フレアスカートがちょっと乙女っぽすぎたかもしれない。

自分の好みのはずなのに、似合っていないかも……となんだか落ち着かない気持ちでいたら、夜六時になった。


「ピンポーン」


インターフォンが鳴ったので向かうと……。

あれっ? ドアスコープに映らない……?

神様の使いだからかなあ?

怪訝(けげん)に思いながら扉を開けると、そこにいたのは──。


「犬………きつね………?」


どちらにも見える背中だけが黒っぽい子がお行儀よく座っている。

つけている首輪にはヒエログリフのようなデザインが()められていた。


(はっ、このマンションはペット不可だったはず!)


とにかく入ってもらった方がいいよね!? 

遣いってこの子ですよね……?


おいでと言えばしずしずと入ってきて、そのまま玄関にぺたんと座る。

フローリングに上がるのを躊躇(ちゅうちょ)しているらしい。なんて賢い子なんでしょう。

でもこれは、どうすれば連れていってもらえるのか。


「あの、準備が出来ましたので、よろしくお願いします」


靴を履いてから頼んだ後、もし人違い(?)だったらとんでもなく恥ずかしいのでは……と我に帰ったら。

きつね犬の瞳が銀色に変わって、まるですすり泣くように悲しい鳴き声を上げる。


「アオオオォォ…」


そして(またた)きをすれば──。目の前に広がるのは見知らぬ幻想の世界だった。


濃紺の闇に金色の星が輝いて、ラピスラズリのような色使い。ゆったりと流れる河は鏡のように空を映している。

静かだけど水の音や(ひそ)やかな声、はるか向こうから遠吠えも聞こえて……。


「ようこそ、日和さん。ここは《ドゥアト》──死者の国だよ」


ゆっくりこちらへ歩いてきたのは、銀色の瞳の愛らしい少年。

《死者》という響きにほんの少し、根源的な恐怖を覚えたけど。まるでこの人──オシリスさんそのもののように思える美しさに、安心する自分がいた。

オシリス:エジプト神話《死者の国の神》

162cm/外見年齢15歳

青く見える黒髪ショート、銀色の瞳

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ