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第12話『金曜日/アポロン ①-1』

 わたしは伏羲(フーシー)さんに何と言って家に引きあげたのか、まるで覚えてない。

最後のやり取りを思い出すと、またすぐに顔が赤くなってしまうほど動揺していた。


だけど家の中に入れば、もう一度派遣会社から連絡が入っていたことに気づいて、きっちり現実に戻る。


教材用のタブレットを貸与(たいよ)するのでバイト初日までに受け取りにくるように、とのことだった。

レンタル制度があるのが魅力で選んだけど、実感が湧いて幸せな気持ち。

出来れば早速、明日に行こうっと。


金曜日は講義を少なめに取っていてマリちゃんともランチの約束をしているし。なんだか明るい気分が高まってくるのを感じた。


初生徒──小学生の子たちに教えるにあたって、どんなところが要注意かネットの情報をあさりまくる。


(そういえばもう0時だ。……誰も来ないのは良いことだよね?)


振り回されてる気がするのは、みなさんの登場時間がバラバラなせいかもしれない。

来週からはせめて時間を決めさせてほしいと、お願いしてみよう……そう思いながら眠りについた。


そして迎えた金曜日。

スズメの鳴き声が爽やかな、朝。晴天。


「よしっ! いない!」


たかだかワンルームの一室で指差し確認もどうかと思うけど。

月読(つくよみ)さんの例があるから油断はできない。


のんびりと朝食をとって──。

大好きなマリちゃんに褒めてもらうためにおしゃれをした。あと軽くお化粧も。

玄関を出るとき鏡を見れば、まあまあ上手に出来ていると満足する。


一日の始まりがなんだか清々しいのは、エステの効果もあるかもしれない。

体が軽いし肌の調子も良かった。

伏羲(フーシー)さん、本当にありがとうございました。

そう思いながら駅のホームに向かうと……。


「あっ。おはよー、ヒヨリ!」


ハリウッド俳優みたいな、駅にまったく似つかわしくない人がいた。

金髪で(みどり)色の目をした……えーと、あれは、きらきらの飲み物をくれた神様。


「アポロン、さん。どうしてここに」


もちろん聞かなくても分かってるんだけど。

出現場所は家と大学しか想定してなかったので、その途中というのは不意打ちに思えた。

たとえるならゲーム……RPGのフィールドでエンカウントした時の(わずら)わしさなのかな。


【アポロンが一匹 あらわれた!】


目の前の人はこちらの心を知ることもなく、ニコニコと話しかけてくる。


「名前覚えててくれたんだ、嬉しいな~。うん、ギリシャ神話で《医学と太陽と芸術の神》やってるんだ。他にも《牧畜》《弓術》とか色々(つかさど)ってるけど覚えきれないだろうから」


やたらと眩しい笑顔で、自己紹介をされる。


「……担当多いですね。それで、なぜここに」


「なんかさあ、日本の電車って痴漢が出るって知ってね。無事に送り届けようかなって」


「そのお気持ちだけで十分です……。今日は大学の後に寄る場所がありますから、帰宅は少し遅いかと。ぜひご自由にお過ごしください」


あまりにも目立ちすぎる。

この方はシヴァさんと並んで、絶対に電車を一緒に乗りたくない人物。

どの神様もオーラがすごいけど陽のパワーにあふれてるというか……。


彼の姿はどの角度から見ても「美形」という言葉が付きまとっている。

その一切の欠点が無いきらびやかさで、隣にいるだけで疲れそう。


服装はシンプルな白いシャツを着てるだけなのに、少し長い金髪をゆるく結った姿とあわせて完璧な仕上がり。

当然ホームの誰も声をかけてはこないけど、視線が刺さるように痛い。


◆◆◆◆


(ああ、今更だけど日本の都会ってすごいよね? 電車が予定通りにたくさん来る~……)


アポロンさんにお引き取りいただく前に時刻ぴったり到着してくれたので、しぶしぶ一緒に乗り込んだ。


「ヒヨリ、そんなに気を遣わないでよ~。俺も行く方向、同じだからさ」


「………そういうことでしたら、致し方ありません」


ガタンゴトンと鳴る車内で、どうにか聞こえそうなくらいの小声をもってしゃべる。

目線は正面を向けたまま「この人と知り合いじゃありません」という(てい)(よそお)って。


彼が悪いというわけではない。

別に失礼ということでもない。

でも電車中の人がシーンとしているのは、この人の発言に聞き耳を立てている気がしてならないの。


(だってこんなに学生がいるのに……。いつも、もっと話し声するよね!?)


表情筋が死んだような態度のわたしに腹を立てることもなく、アポロンさんは話を振ってくる。空気よんで!


「ねえねえヒヨリ……今日寄るところあるって言ってたけど、どこなの? 前に見た時より可愛くしてるから気になるなあ」


「女友達とランチする。のち、バイト先。です」


褒めてもらえたのはうれしいけど、素直にお礼を言える気分じゃない。

言葉がカタコトになったわたしに彼は少し微笑んで、


「女の子は女の子と出かける時こそ、おしゃれし甲斐があるよね~。ほら、男はセンスないヤツ多いからさ」


そんな模範解答をしてくる。

あっ、わたし、目的の駅に到着しましたよ! 

ではこれにて!


◆◆◆◆


 広々としたキャンパスの中、ひそひそと女子たちの声が聞こえる。


「ねえ、あの人すっごくない!? エグい! 存在感が!」


「白人だからってだけじゃないよね……留学生? あんな美しすぎる人間いる……?」


………うん、本当はうっすら分かってた。

アポロンさんとわたしの方向が同じって、そうかなって。

でもまさかこんなに堂々とキャンパスに入ってくるなんて。


なんでわたしがオドオドして、不法侵入の彼が堂々としてるの? なんか慣れてない?

出来るだけ目立たない場所に誘導して、暗に退去をお願いする。


「アポロンさん。たしかに日本の大学は出入りしやすいです。でも一般人が許可なく立ち入るのは本来許されません」


「………ぷぷ。俺、一般人って初めて言われた……!」


ものすごく楽しそうに笑われてしまった。

でもそうじゃない、そこじゃないんです。

意図がいまいち伝わってないのはハッキリしない言い方のせいかと思って改める。


かつてないほど怖い顔をしてみた。

あれ、意外と出来てる気はする。


「つまり関係者じゃないんですから、出て行ってください。わたし、せめてここでだけは勉強に集中したい」


なのに彼は、あっけらかんと言う。


「ああ。俺、医学部に在籍してるよ?」


だからオッケーだねと、実に綺麗な笑顔つきで。

それはまるで今日の青空みたいに澄み渡るほど、完璧な言い分だった。

アポロン:ギリシャ神話《太陽と医学と芸術と、以下略の神》

183cm/外見年齢22歳

少しウェーブがかった金髪、翠の瞳

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