第1話『結婚なんて、するわけないでしょ』※主要キャラ一挙登場
※別サイトにて完結済のため完走をお約束してます
※第1章のラストから味変・糖度も増します
※乙女ゲー的なマルチエンドです
(わたしの人生、一年目! 二十歳の大学生だけど!)
蒼野日和、朝から自宅ワンルームにて脳内で叫ぶ。……日頃は小声で内気なくせに。
この春からやっと本物の人生が始まった。
それは一人暮らしになったからじゃない。
あの父親と縁が切れたから……!
【誰が食わせてやってると思ってるんだ!】
……ああ、最悪なセリフを思い出しちゃった。血の気が一瞬だけ引いてしまう。
あんな言葉、わたしの人生に二度と登場させてやるもんか。
優柔不断な自分を奮い立たせて、唯一のゆるぎない想いを抱える。
(絶対に手堅く公務員──教師になって、お母さんを守るから)
そして大学へ向かう前に、差出人の無い手紙を容赦なくちぎってゴミ箱に捨てた。
うっかり封を開けた理由は宛名が正しかったことだけじゃなく、見たことないほど美しい繊細な織の入った虹色の紙で出来ていたから。
それは『貴女の結婚が世界を救う』という言葉から始まった奇妙な内容。
さらっと目を通すと、
『曜日制で七人の婚約者を用意した』
『四月の第一日曜日に逢いに行く』
といった気味の悪さで読んだことを後悔した。
一体どういう勧誘なんだろう。
よりによってわたしに《結婚》なんて言葉を送りつけるなんて……。
お母さんは完璧な男性を選んだはずなのに、完璧に失敗してしまった。
人間、外側なんていくらでも繕える。
父親はいつも素敵な人で通ってたもの。
◆◆◆◆
金曜日の朝にふさわしい、ちょっとザワザワ楽しそうな講義室の中で。オシャレでとっても美人な、大学から知り合った桐谷マリちゃんが話しかけてくる。
「オハヨ、ひより! ねーバイト解禁になったんでしょ? 何曜日に入れるの?」
わたしが一人で心細そうにしていたら声をかけてくれて仲良くなった、最高の友達。
「マリちゃんおはよう~。まずは派遣会社の都合を聞こうかなって。シフト自由に決められる人の方が、雇う側も楽でしょ?」
すると彼女はわたしの肩を軽く揺すった。
「なにー!? 相手の都合を優先するなよお、アタシが曜日決めちゃうぞ~?」
「ふふっ。マリちゃんに決めてもらうのも、いいかもね」
笑いながら返事をすると、マリちゃんは、
「も~、そんなんじゃバイト先でトラブルに巻き込まれるってば」と苦笑いして。さらに優しく付け加えてくれた。
「自分じゃ抱えきれないことが起きたら、絶対アタシに言うんだよ? 元気がないから心配だ」
うう、変な手紙のせいで落ち込んでるのがバレちゃうなんて。
大事なマリちゃんのためにも強くなりたい。
それなのにたった二日後、日曜日の夜。
さっそく情けない事態になった。
(明日アルバイトの面接なのに……風邪、引いたのかも。頭が痛いし熱っぽい)
新生活が始まったばかりだからって、薬箱を用意してなかった自分を責めたい。
キャンセルしたら、だらしない人間──家庭教師に向いてないって思われる。
それだけは絶対イヤだと落ち込みつつ、コンビニでスポーツドリンクなどを買おうと外へ出る。
──まさかね、と思いながら出がけにポストを覗くと例の『虹色の手紙』が届いていた。
昨日も破ったはずなのに、これで三通目。
変な人に目をつけられたようで気色が悪い。
マリちゃんに相談してみようかな……。
◆◆◆◆
まだコンビニに到着していないうちから、更にトラブルに見舞われる。
「お~、かわいいJK? JDがいる~」
「その呼び方、多分もう古いっすよ~。…ってマジでイイ! ねー、一緒に飲まない?」
……はぁ、こんな時に酔っ払いオジサンなんて最悪すぎる。
無言で通り抜けようとすると手を引っ張られて、関節に痛みが走った。
「痛いです」と言っても小声のせいか、男の人たちはどんどん歩き出してしまって。
(こういう時って大声出していい!? ……大声って、どう出すんだっけ!?)
通り過ぎる人は心配そうに見てくれているのに助けてと言えない。
いつも以上にグズグズしてるのは、怖くて熱が上がったせいだと思いたい。
手を引かれるままに重い身体を持て余していると、陽気だったオジサンたちが、
「うわ!? なんだお前たち!?」と怯えた声で叫んだ。
(……い、一体なに?)
ぼーっとしながら視線を上げれば。
そこには見たこともないくらい華やかな佇まいの男の人たちが立っていた。
(さんにん……よにん……七人?)
こんなに全員整った顔してることあるのかな。映画の撮影?
全員スーツ姿だけど、他の共通点なんて見当たらないほどそれぞれ個性的。
一人が前に出て、わたしの掴まれた手を無言で優しく解いてくれた。
彼の動きに合わせて気品のあるお香がほのかに漂う。
その綺麗な黒髪をした正統派の美形は、深い紫色の瞳でわたしを見つめる。
………というか見つめすぎ、では。なんで?
もう一人は笑顔で酔っ払いたちの前に立って、追い払うように手を振って。
カッコいいけど首筋や指にもタトゥーが入ってて二メートルくらいありそう。
こっちの方がよっぽど危ない人に見える。
職務質問されそうなタイプ。
七人の人間離れした容姿に酔いが醒めたのか、オジサンたちは
「なんだよ、俳優……? SP?」
「普通じゃない家の子ですよ、ヤバイですって」
と言い合いながら逃げて行ってくれたけど、この状況って一体。
◆◆◆◆
ふらつきながらお礼を言いかけて黙り込んでしまったのは、外国人っぽい男性が多いことに気付いたから。整いすぎてて気付かなかった。
美しい容姿というのは国籍(?)関係なく、行き着く先が同じなのかも。
好みというものを超越した完成度。
それにしてもこれって、何語で話しかければ伝わるの?
「サンキュー……。め、メルシーとか? 謝謝も! ……ありがとう、ございました」
(何それ、日本人らしく堂々と日本語でお礼いいなよ、わたし! しっかりして!)
自分のダメっぷりに脳内で大声を出せば、七人はそれぞれ口を開いた。
オジサンの手を解いてくれた少し長めの黒髪の男性が言う。
「…………かわいい反応。掴まれたところ、痛くない?」
タトゥーだらけの褐色肌をした人は豪快に笑った。
「くっ……くくく! なんで母国語が最後なんだよっ!?」
眼鏡をかけた短めの銀髪の人は窘める。
「もう、笑うなよ? 怖い思いをしたんだから……混乱するのよく分かる」
低い声をした赤い瞳の男性は腕を組む。
「全く。我らが遅れた為、斯様な事になったのだ」
彫刻のような美貌を持つ金髪の男性は、どこか不満げだ。
「えー、ルール決めで一番うるさかったクセにそれ言うー?」
軽薄そうな人は、あざとい口調で口を挟んで。
「おかげで満場一致の結論、だせたけどねえ~☆」
中学生くらいの銀色の瞳の少年が、わたしの顔色に気づいた。
「皆、彼女が困っているだろう? ……具合も悪そうだ」
わたしは「助かった」とばかりに言ってみる。
「そ、そうなんです、わたし……風邪みたいなんです。大したお礼もできずに申し訳ないですが、もう失礼してもよろしいでしょうか?」
上手く言えたと安心したけど、あちらは何かヒソヒソ言い合っている。
「アポロン、ささっと治してあげなよ。たぶんバレないからさ」
「ここじゃ絶対怒られるでしょ……。エンキ、俺たちには結構テキトー言うよね」
「ってかコレ、ちゃんと手紙読んでなさそ~? 迎えに行くって伝えたはず~」
彼らは「やっぱり説明がてら、移動するしかないかな」とか言っている。そして。
「曜日制の七人から一人、結婚相手を選んでほしいんだ」
という、どこかで見たようなセリフを耳にして──。
嫌な予感がした。
ひらひらと夜に散る桜が見えていた視界が、ふっと途切れる。
熱が上がったのかもしれない。
結婚……結婚!? やっと本物の人生が始まったって思ってたのに。
(お母さんを縛って傷つけた結婚なんて、するわけないでしょ……!)
この話に出たキャラがほぼオールです(ヒロイン+男性7人+友人)
4話から曜日ごとに男性を一人ずつ掘り下げるので、一気に覚えなくてOK!




