7.流言蜚語
受付の女性はホッと息を吐き、小声で言った。
「……こっちはこっちで、もう混乱してて。ギルド長がすぐにセイさんと話したいって。ここじゃ絶対に聞かれますから……」
そう言って、さらに奥の応接室へ案内する。
(……聞かれたら火に油、だろうな)
部屋に入ると、既にギルド長と副ギルド長が並んで座っていた。
ギルド長がセイを認識すると立ち上がる。
「ヒカル君の怪我は大丈夫か?」その声には純粋な心配がにじんでいた。
セイは一瞬驚きつつ、短く頷く。「……ヒヨリが応急処置を済ませました。今は家で休んでいます。」
ギルド長は胸を撫で下ろしたように息をつく。
「そうか。それならよかった……あの子は、妙に我慢してしまうところがあるからな」
その横で副ギルド長が数枚の紙束をどさりと机へ置く。
そしてその横にある魔力の残滓を調べ記録できる特殊な水晶を指先で軽く叩いた。
内部の光が揺れ、裏庭の魔力残滓が映し出される。
「裏庭の魔力残を確認した。
反応は…火属性がひとつ、光属性がふたつ、そして氷属性がひとつ。ただし……分かっているのは属性だけだ。誰がどれを使ったかは判別できない」
「氷が……ヒカルのものという確証は?」
副ギルド長は首を振る。
「照合はできない。残滓は個人の魔力波形まで拾えないの。でも、彼女が氷属性であることは登録上の事実…街の者が“灰色だから闇だ”などと言い出さないといいけど…」
セイの拳が僅かに震える。
副ギルド長は紙束を整えながら付け加える。
「魔力の残滓だけでは、この噂を否定する材料もない。むしろ……火と光の残滓が混じっているせいで、何が起きたのか分かりづらいのが余計……」
ギルド長は息をつき、静かに告げる。
「先ほどの騒ぎの前にも軽く説明したが…本来闇の気配がする魔物は全て騎士団に報告する義務がある…しかし事情が事情だ。………ヒカルちゃんと、ヒヨリちゃんにも、後日話を聞かせてもらえないか?」
セイは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
怒りも焦りも、胸の奥に押し込めるように。
「……二人には、俺から話しておきます。ただ……あいつは人前を嫌います。無理をさせるようなら、俺が止めるかもしれません」
副ギルド長がそれを聞き、紙束を胸元で抱え直す。
「分かっている。だからこそ、強制ではないわ。あの子たちの負担にならない方法で進めたいの。」
ギルド長は腕を組んでしばらく考え込むと、ゆっくりと顔を上げた。
「セイ君……明日の夜は空いているか?」
「明日の夜……ですか?」
「うむ。その時間に、少し話をさせてもらえればと思ってね。
もし嫌でなければ……こちらから君たちの家まで伺うつもりだ。ギルドでは噂を耳にする者も多い。余計な火種を作りたくない。…あの子たちが静かに話せる場所の方がいいと思ってね。」
副ギルド長も小さく頷く。
「ここで呼びつければ、また“尾びれ”がつきかねないから……ね。」
セイはしばらく黙っていたが、やがて静かに頭を下げた。
「……わかりました。二人にも話しておきます」
ギルド長は安堵したように微笑む。
「ありがとう。困らせてしまうこともあるだろうが……君たちの味方でいたいと思っている。」
応接室の空気が少しだけ柔らかくなる。
しかし同時に、外の喧騒がかすかに聞こえてくる。
噂は止まらない。




