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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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6.膨れ上がる噂

「ヒカル!ヒヨリ!」

セイが足早に駆け寄る。


二人の姿を見た瞬間、表情が凍った。


ヒヨリが泣きそうになりながらも、事情を説明しようとする。


「……ヒカル。あとで俺が全部説明する。何があった」

怒りを抑え込むように、冷静な声で言う。

だが、ヒカルはそっと首を振った。


「……説明なんて…しなくていいよ」


いつもの静かな瞳のまま…慣れてると言いたげな静けさが宿っていた。


「どうせ……信じてもらえないし…」


小さな呟きに、セイの拳が僅かに震える。

「ヒカル、お前は…被害者なんだぞ…」


「挑発に乗って牽制しようとしたのはあたしだし……ヒヨリに怪我がなかったなら、それで十分」


セイは拳を固く握る。

怒りの矛先は、誰にも向けられない。

冒険者の連中か?偏見か?

それとも——守りきれなかった自分か。


「……わかった」

セイはそう答えたが、目はまったく納得していなかった。


ヒカルは俯く。

「家に帰ろ。……今日はもう、疲れちゃった」


その声はひどく静かで、セイもヒヨリも、それ以上何も言えなかった。


三人の間に流れる沈黙だけが、痛いほど重かった。



三人はラークの大通りへと戻り始めた。

ヒカルの足取りはまだ重いが、ヒヨリが手を取り支える。


そんな中、セイが突然足を止めた。


「……悪い、ちょっと用事を思い出した。二人は先に帰っててくれ」


ヒカルが振り返る。

「セイ……?」


理由を尋ねようとしたが、セイはそれより早く、軽く手を振った。


「大したことじゃない。すぐ戻る。ヒカルも今日は休め。ヒヨリ、頼む」


「う、うん……」

ヒヨリが頷くと、セイは二人が歩き出すのを見届け、背を向けた。




そして誰にも聞こえないほど小さく呟く。

「……あのまま放っておけるかよ」

そのままギルドへと踵を返す。


ギルドの扉を押し開けた瞬間…セイは、思わず足を止めた。


いつもより騒がしい、だがそれは活気とは違った。


怒鳴り声でも、喧嘩でもない。

けれど、浮ついたざわめきと噂話が渦巻いて、

まるで酒場のようにざわざわと音が跳ねている。


「灰色の魔女、人を凍らせようとしたんだって」

「しかもさ、あの冷気、闇属性の魔法らしいじゃん」

「やっぱり灰色って闇の人間なんじゃない?」

「あ〜ありえるわ。灰色って昔から不吉だしな」


——完全に、尾ひれがついている。


実際何をしようとしたかはわからないが、ヒカルの事だ、本当にただ牽制しただけだろう。

(……ほんの数分で、ここまで話が膨らむのかよ)


怒りは熱いのに、胸の奥は冷えていくような感覚。


足を進めかけたその時カウンター内にいた受付員と目があった。

「セイさん!こっち!」と声を出さず、口の動きと身振りだけで必死に合図した。


周りに気付かれないように、セイがカウンターへ近づく。

彼女はわざと雑務に見せかけるように書類を抱え、自然な動作で小声でジェスチャーをする。

「急いで。ここじゃ話せない」


セイは頷き、言われるまま裏の廊下へと入り、扉が閉まった瞬間、喧騒が遠のいた。

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