40.何事もなかった朝のふり
言葉を選びながら、必要な事だけをかいつまんで話す。
リビングに静寂が訪れる。
セイは何も言わずに…ただ、眉間に深く皺を寄せたまま、黙って考え込んでいる。
さっきまでの説教めいた圧とは違う。
今度の沈黙は、もっと重たい。
「相当…用心深い奴だな」
その時だった。
「……あれ?」
眠たそうな声と一緒に、リビングの入口に影が差す。
「ヒカルちゃん……?」
パジャマ姿のヒヨリが、目をこすりながら立っていた。
状況を把握するより先に、私の姿が視界に入ったらしい。
「……え?」
「ヒカルちゃん、起きてる!?」
ぱちっと目を見開いて、驚きの声を上げ慌てて駆け寄ってくる。
「え、まだ朝だよね!?具合悪くない?大丈夫!?夢遊病!?」
「それはひどくない?」
思わず突っ込むと、ヒヨリは少しだけ安心した顔をした。
「ただいまー……って」
そこへ玄関の方から、息を整えたレオンの声。
リビングに顔を出した瞬間、動きが止まる。
「……え?」
次に、私を見る。
「……ヒカル?」
一瞬、状況が飲み込めていない顔。
「なんで起きてんだ……?」
ヒヨリとほぼ同じ反応だった。
「いつもこの時間、爆睡してるだろ」
「それ、二人とも失礼じゃない?」
私がそう言うと、レオンは慌てて首を振る。
「そういう意味じゃなくて!いや、そういう意味でもあるけど!」
「実はな」
その会話を、セイがあっさり遮った。
相変わらず表情は硬いけど、声のトーンは少しだけ戻っている。
「体調まだ万全じゃないのに、夜遊びして朝帰ってきたんだとさ」
「えっ!?」
「はぁ!?」
ヒヨリとレオンの声が重なる。
「ちょ、ちょっと待ってセイ! 言い方!」
抗議するより早く、セイは私の額に軽く…
コツン。
「いっ」
デコピンだった。
「とりあえず、後だ」
淡々と言ってから、包丁を持ち直す。
「今日はこれくらいで勘弁してやるから、今日ぐらいは飯作るの手伝え」
「……はい」
反射的に答えると、ヒヨリがほっとしたように笑った。
「もう、びっくりしたよ……」
レオンも頭をかきながら苦笑いする。
「起きてるだけで事件かと思った」
「失礼だな……」
そう言いながら、私は立ち上がってキッチンに向かった。




