4.鋭利な狂気
ギルドへ報告に来たものの、ヒカルの顔色の悪さに気づいたセイは、「二人は外で休んでてくれ」と短く言い残し、受付の奥へ向かった。
ヒヨリは心配そうにヒカルを見上げる。
「ヒカルちゃん、飲み物とか買ってくるよ!ゆっくりしてて!」
そう言って駆けていく妹の背を見送り、ヒカルは裏手のひと気の少ない庭へと続く細い通路を歩いた。
石壁の影は涼しく、昼下がりの喧騒が遠い。
ヒカルはフードを深く被り直し壁にもたれしゃがみ込む。
(……魔力の消耗でちょっと息が…でも、すぐに戻る……大丈夫)
呼吸を落ち着けようと目を閉じた、そのときだった。
「おいおい、灰色の魔女サンがなんでこんなところにいんだ?」
ヒカルの背筋が冷たくなる。
場所を変えよう… と立ち上がると肩を乱暴に小突かれ、体が揺れた。
「おっと、悪ぃ悪ぃ。弱すぎて立ってられないだけか?」
鮮やかな金色の髪を後ろに流した青年がニヤニヤ笑う。その背後には、同じようにニヤニヤとする仲間が数人…。
「相変わらず暗ぇとこ好きだよなぁ。その魔力がそうさせんの?灰色の魔女サン?」
ヒカルは囲まれたまま、口を閉ざしてじっと立っている。
「なーに黙ってんの灰色?」
男の一人が嘲るように指先でヒカルのフードをつつく。
「灰色ってさ、魔力の才能の墓場って言われてるよな?生まれた瞬間に人生詰んでる色だっけ?」
ヒカルは沈黙のまま、視線だけ逸らす。
その態度が、彼らの嗜虐心に火をつけた。
「おい、黙ってんじゃねぇよ」
ドッッ。
胸を押され、石壁に叩きつけられる。咳が漏れそうになるが、必死で飲み込む。
「反応薄っ。つまんねぇ女」
一人の男が指先で魔力をつまむように動かした。
「ちょっとだけ遊ぶか。弱いから死なねぇだろ」
パチッと小さな火花が生まれ、次の瞬間、ヒカルの腕に炎属性の低級魔法が叩きつけられる。
バシュッ!!
皮膚に焼けるような痛みが走り、袖が焦げた。
「お、効いた効いた!声ひとつ出ないとか逆に怖ぇわ」
「闇属性の素質でもあんの?ははっ、だったら立派な呪い持ちじゃん。騎士団まで持ってって処分してもらう?」
再び火花が生まれる。
ヒカルは逃げず、ただ受ける。
男たちは面白がるように距離を詰めた。
「なぁ、なんでお前みたいな貧弱なやつが冒険者なんてやってんの?誰かが守ってくれんの?あの銀髪の兄ちゃん?」
「……いや、あの妹か?あの薄い金髪の子。あの子はいいよなぁどこぞの灰色と違ってちゃんと光属性って感じで」
ヒカルのまぶたがぴくりと揺れる。
男はそれを見逃さず、口角を上げる。
「お、反応した?あの子の話するとわかりやすいねぇ〜?そんなに大事?守ってもらってんの?」
ヒカルは何も言わない。
男が掌に小さな光弾を作る。
「ちょっとだけ本物の魔法ってもん教えてやるよ、灰色」
バチッ。
低出力の光属性魔法がヒカルの肩を撃ち抜いた。
皮膚が焼け、布が焦げ、ヒカルの身体がよろめく。
それでも、ヒカルは何も言わない。
その沈黙が、彼らの嗜虐心を逆に煽った。
「ははっ、マジで弱っ……!まともなら赤子にも効かねえのにーー」
そのとき——
「ヒカルちゃん!」
鈴のような声が、裏庭に響いた。




