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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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39.逃げ場のない朝

朝の空気は、思っていたよりも冷たかった。


壁にもたれて眠ったせいか、身体が少し冷えて、あちこちが少しだけ痛む。


「いってきまーす!」


玄関の方から、やけに元気な声が響く。


レオンだ。


扉が開く音が聞こえ、軽い足音とともに出て行った。

どうやら朝のランニングのようだ。


(今だ)


私はすぐに玄関へ回り、音を立てないようにそっと扉を開け静かに中へ滑り込む。


ほっと息をつく間もなく、私はそのままリビングへ向かう。


キッチンの方を見ると、セイが朝食の準備をしている。

背中はこちらに向けたまま、包丁の規則正しい音だけが聞こえていた。


(……今なら、いける)


私は忍び足でリビングに入り、そのまま階段へ向かおうとした。


その時。


「おかえり」


……え?


思わず足が止まる。


恐る恐る振り返ると、キッチンに立つセイがこちらを見ていた。

包丁を持ったまま、にこやかに。


…さっきまで、後ろ向いてたはずなのに。


「……セ、セイ……」


完全に挙動不審だったと思う。


セイは何も言わず、包丁をまな板に置く。

そのまま視線だけで、椅子を示した。


「ヒカル?」


にこにこしている。

声も穏やかだ。


……でも、これは絶対に怒ってるやつだ。


「そこに、座れ」


「……はい」


反射的にそう答えて、私は大人しく椅子に腰を下ろした。

セイは相変わらず笑顔のままだけど目が、全然笑っていない。


「……で?」


短い一言。


私は思わず視線を逸らした。


「どこ、行ってた?」


声は低くも荒くもない。

だからこそ、逃げ場がない。


「……ちょっと、外に」


「ちょっと、な」


セイは私の前の椅子を引かず、そのまま立った状態で腕を組む。

圧が、重い。


「一週間、ぶっ通しで寝てた奴が?」


……嫌な予感しかしない。


「朝まで?」


にこやかな笑顔のまま、言葉だけが鋭く刺さる。


「目、覚めちゃって……」


「ふーん」


セイは相槌を打つように短く言い、もう一歩だけ距離を詰める。


「さっき、レオンが出る時に鍵開けてたよな?」


「ってことはさ、今まで玄関は閉まってたってことだ」


……完全に、逃げ道がない。


「どうやって外に出たんだ?」


ゆっくりと椅子を引き寄せ、私の隣に腰を下ろした。


「……窓から」


小さくそう言うとセイの眉が、ほんの一瞬だけ動くが、続きを促すように、何も言わずに待っている。


「……ちょっと…魔法使って……」


「ちょっと?」


セイはため息をつき、今度は質問を変えた。


「で」


視線が、さらに鋭くなる。


「どこに行ってた」


私は一瞬、言葉に詰まる。

場所を言えば、理由も聞かれる……理由を言えば、全部に繋がる。


それでも、黙っていても逃げられない。

私は覚悟を決めて、ゆっくり顔を上げた。


「……嫌な気配が、したから」


セイの表情が、すっと変わった。

笑顔が消え、完全に真顔になる。


「……それで?」


「……様子を、見に」


一瞬の沈黙…次の瞬間。


「はぁ……」


セイは深く、深くため息をついた。


「お前、今の自分の状態、わかってるか?」


私は、小さく頷く。


「……魔力、まだ不安定」


「だろうな」


静かに肯定される。


「そんな状態で単独行動」


一拍置いて、低く。


「しかも夜中に街の中を…」


セイは額を押さえた。


「……心臓に悪すぎる」


その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。


怒りじゃない。

心配だ。


「……ごめん」


そう言うと、セイは私を真っ直ぐ見た。


「謝るのは後だ」


きっぱり。


「まず全部話せ」


「何を感じて、何を見て、何をして、何を確認して帰ってきた」


一つずつ、指を折りながら。


「隠すな」


「省くな」


「勝手に判断するな」


私は小さく息を吐き、膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。

視線は床に落ちたまま、ゆっくり言葉を絞り出す。


「……実は……」

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