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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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36.静かな逡巡

ヒカルは少しだけ視線を落としたまま、息を整えた。


頭の中が、まだ追いついていない。

森の出来事も、噂も、あの男の言葉も――全部が一気に押し寄せてきて、整理する前にまた誰かを巻き込んでしまいそうだった。


「……ねえ」


小さく声を出すと、三人の視線が一斉にこちらに集まる。


「少しだけでいいから……一人の時間、もらってもいい?」


レオンがぱちっと瞬きをした。


「え? あ、具合悪いのか?」


「ううん、そうじゃなくて……」


言葉を選ぶ。

本当の理由を言えば、余計に心配させるだけだ。


「まだ状況、飲み込みきれてなくてさ。頭の中が、ぐちゃぐちゃで……」


ヒヨリが、ぎゅっと私の手を握る力を少し強めた。


「ヒカルちゃん……」


大丈夫だよ とできるだけ穏やかに笑ってみせる。


セイはしばらく黙ってあたしを見ていたけれど、やがて小さく息を吐いた。


「……わかった」


それだけ言って先に部屋から出ていった。


レオンは戸口のところで立ち止まり、振り返る


「……無理すんなよ」

それだけ言って、ぎこちなく頭をかく。


ヒヨリは最後まで動かなかった。

ベッドの横に座ったまま、私の顔をじっと見ている。


「……ほんとに、少しだけ?」


「うん。少しだけ」


そう答えると、ヒヨリはようやく小さく頷いた。


「じゃあ……何かあったら、すぐ呼んでね」


名残惜しそうにしながらも、ヒヨリはレオンの後を追って部屋を出ていく。


扉が閉まる音が、やけに静かに響いた。


一人になった。


私は背もたれのクッションに身体を預け、天井を見上げる。


(……考えなきゃ、いけないことが多すぎる)


ぎゅっとシーツを握る。


(遠ざけるべきか……それとも)


答えは、まだ出ない。


考えれば考えるほど、どちらを選んでも後悔しそうで、思考が同じところをぐるぐる回る。


小さく息を吐いた。


「……もう少しだけ」


本当に、もう少しだけ時間がほしかった。


この状況を…自分の立ち位置を……そしてこれから、どうするのかを。


扉の向こうから、かすかに人の気配がする。


離れてくれたけど、完全には離れていない。

その距離感が、ありがたくて、少しだけ苦しかった。


私は目を閉じ、もう一度、ゆっくり呼吸を整えた。

決めるのは、まだ先でいい。


今はただ、考える時間を…

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