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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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30/41

30.煤森へ

今日の夕方は、いつもより部屋が静かだった。


机の上に並べた小瓶は、夕日に照らされてゆらゆら光ってる。

ヒヨリが 小瓶かわいい〜 って言ってくれるから、最近は見た目も少し気をつけて作るようになった。


「……よし、あと一つで今日の分は終わり」


ポーション作りに集中していると、コツン、と軽く扉がノックされた。


「ヒカル、いるか?」


「ん。いるよ」


お兄ちゃんの声だ。

珍しく、少し焦ってるような気配がした。


扉が少し開き、部屋の温度が変わる。

セイが顔を覗かせて、眉をひそめる。


「ヒヨリ、そっちに来てないか?」


「……来てないけど?」


そう返した瞬間、胸がざわりとした。


お兄ちゃんは短く息を飲み、低い声で続けた。


「買い物に行ったはずなんだが、ヒヨリが帰って来てないんだ」


窓を見ると、空はすっかり赤紫。

町灯りがひとつずつ点りはじめてる。


——嫌な予感がする。


喉の奥がぎゅっと詰まった。


「……行こう。探す」


立ち上がると、机の薬草がかすかに揺れた。


セイはうなずき、部屋を出る。


二人で玄関へ向かう途中、リビングの方からは

レオンが「えっ?ヒヨリがいねぇ!?」と慌てる声が聞こえた。


胸の鼓動が早くなる。


お願い、ヒヨリ…無事でいて。


街の中は、夕暮れの灯りでぽつぽつ明るくなってきているのに――

胸の中は、どんどん暗くなっていく。


「ヒヨリ……どこに行っちゃったの……」


人混みをかき分けながら探しても探しても、あの子の姿はどこにも見つからなかった。


八百屋、雑貨屋、薬草屋。

よく寄りそうな場所も全部見た。


でも、いない。


背中のあたりが、じんじん冷えていく。


その時。


「ヒカル!」


振り向くと、息を切らしたセイが駆け寄ってきた。


「街の人に聞いて回ってたんだが……北門の方へ向かっていったのを見た、って証言があった」


「……北門……?」


胸がざくっと刺されるみたいに痛くなる。


北門。


その先にあるのは…


「……まさか、煤森(すすもり)じゃないよね……?」


思わず言葉が漏れる。


セイは渋い顔をして、短く頷いた。


「北側で一番近いのは煤森だ。そこに向かった可能性は……高い」


喉がひりつく。

嫌な予感が、はっきりと形を持って押し寄せてくる。


三人で急いで北門へ向かうと、門の前で待っていたレオンが、大きく手を振った。


「おーい!お前ら!!」


ヒカルとセイが駆け寄ると、レオンは眉を寄せ、険しい表情で言った。


「門番の兄ちゃんが言ってたんだけど、金髪のちっちゃい子が、金髪の男らと一緒に門を出てったって!」


「金髪の男……」


頭に浮かぶ顔がひとつ。


そんなわけはない、そう思いつつも息が詰まりそうになる。


レオンがギュッと槍を握りしめて言った。


「ヒカル!セイ!急ごうぜ!」


セイが短く頷き、私は無言で走り出す。


北門の外へ一歩踏み出すと、空気の温度が変わる。



冷たい風。

湿った土の匂い。


目の前には……背の高い木がいくつも並び、闇がゆっくりと染み込んでいく 煤森すすもり が口を開けていた。


「ヒヨリ……待ってて。すぐ行くから……」


私は息を吸い込み、足を踏み入れた。

セイとレオンもすぐ後ろに続く。


森に入った瞬間、ひやっと冷たい空気が肌にまとわりついた。

日が沈みかけていて、木々の影ばかりが濃い。


私は右手を軽く振る。

空気が震え、杖がコトンと手に収まった。

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