29.それから1ヶ月後
朝、外に出ると、ひゅうって細い風が首もとをなでていった。
なんだか前より少しだけ、空気が冷たい。
レオンくんは、あれからいっぱい教えてもらったらしくて、ちょっと背筋が伸びた感じ。
武器の扱いも随分慣れてきたみたい。
「よっし!今日もやるぞーっ!」
朝から元気いっぱいで、見てるとつい笑っちゃう。
お兄ちゃんは、それを横目に見ながら黙々と朝ごはんを作ってる。
じゅうじゅうって音と、いい匂いが家に広がると、なんだか私までお腹がすく。
「ヒヨリ、手伝い頼む」
「はーい!」
私は皿を並べたり、スープを混ぜたり、小さな仕事をお手伝いする。
その間に、ヒカルちゃんが台所をのぞき込んでくる。
「……おはよ」
ちょっと眠そうで、ちょっとだけくしゃっと笑って。
その笑顔が、前より柔らかいから、私はそれがとても嬉しい。
噂はまだある。
灰色の魔女がどうとか、忌み子がどうとか、一部の人は勝手にひそひそ言う。
でもヒカルちゃんは前ほど気にした顔をしなくなった。
(早く噂なんて消えちゃえばいいのにな…)
そんな…なんでもない毎日。
みんなでごはんを食べて、ギルド行って、帰ってきて。
その全部が、私にとっては宝物みたいにきらきらしてる。
そして今日はみんながおうちで作業をしている間、私は一人でお買い物に行く事にした。
かごを持って街を歩いてると後ろから、いやぁな声がした。
「お、妹チャン、ひとりじゃん」
振り返ると、金色の髪が光ってる青年が、気だるそうな笑みを浮かべて立ってた。
前にヒカルちゃんに絡んでた人だ。
笑ってるのに、目がちっとも笑ってない。
後ろには、同じような顔をした人達が数人。
「ちょうどよかったなぁ。今から街の外行くんだよ……ヒーラーが欲しくてさ。オレらのパーティ、来いよ。歓迎してやるからさ」
嫌って声が出なくって、少し後退ると手首をぐいって掴まれる。
「なに怖がってんの?オレ、善意で言ってやってんだよ?弱い子はさ、強い大人に守ってもらわないと。な?」
声は優しい風なのに、言い方はまるで刃物みたい。
胸の奥がぎゅうっと縮んで、足が動かない。
――ヒカルちゃん……。
助けて、って言いたいのに、声が喉につかえて出てこなかった。




