25.灰色に届く声
あたしは息を吸い込み、少し無理をして上体を起こす。
セイの手がさりげなく支えてくれた。
「……レオン」
呼ぶと、レオンは食い気味に顔を上げた。
期待に満ちすぎた目。
ああ……言いにくい。
でも、黙ってるほうがもっとよくない。
「……ねぇ。なんで、あたしが灰色の魔女って呼ばれてるか……知ってるの?」
「え?いや、なんかカッコいい異名だなって……それくらいしか……」
やっぱり、そんな感じだ。
あたしは小さく息を吐いて、ゆっくりフードへ手を伸ばした。
セイがわずかに動いたけど――これは自分でしないといけない。
フードを下ろすと、風に揺れる灰色の髪があらわになる。
レオンの目がわずかに見開かれた。
「……見ての通りだよ。灰色の髪の人なんて……普通はいない。だから、あたしに弟子入りなんてしても……」
遠ざけるつもりで言った。
レオンは目を丸くして……それだけだった。
怯えも、嫌悪も、拒絶も――何ひとつない。
ただ、ぽつり。
「……へぇ。珍しい髪色だな!」
「…え?」
「灰色だと何か問題あるのか?強ぇなら凄えじゃん。髪の色なんて関係ねぇよ!」
それが本当に知らないからこそ出てくる無邪気さだと理解しているのに。
胸が、ズキッとした。
だって、知らないって、こんなに優しいんだ。
レオンはさらに勢いづいた。
「髪が灰色?だから?変か?初めてみたけど……なんか悪いわけじゃねぇだろ!」
「俺は強い人に憧れるし、今日戦って……尚更そう思った!お前……すっげぇ強かったんだぞ!」
「……強くないよ、あたしは」
「いや強ぇよ! だって」
レオンは指を立て、ひとつずつ数えるように言う。
「槍を何度も受け流したし、俺の加速にも反応してたし、氷の魔法の出し方だってすげぇし、それに…」
彼は胸を張って叫んだ。
「なにより、戦ってる時……めちゃくちゃ楽しそうだった!!」
思わず言葉を失った。
うん…楽しかった。
でもそれを見られていたのは、なんだか気恥ずかしかった。
その時、横でセイがまたため息をついた。
「……この単純さ、ある意味一番強ぇのはこいつかもしれねぇな」
呆れ声音なのに、どこか優しい。
レオンがすぐに続ける。
「頼む!!オレを鍛えてくれ!!なんでもいい!!お前と剣士のにいちゃんから学びたいんだ!!」
勢いで叫んだあと、勢いそのまま深く頭を下げる。
「お願いします!!」
「ヒカル……お前が嫌じゃねぇならいいんじゃねぇか?」
セイは全部知ってて、それでも委ねてくれている。
だから私は……ほんの少しだけ深く、ため息を吐いた。
「……はぁ。ほんと……どうしてこうなるんだろう」
そして、レオンを見つめる。
「……レオン、本当に後悔しない?」
「しねぇ!!」
間髪入れずに返ってきた。
その真っ直ぐさは、たぶん、私が今まで一度も持ってなかったもの。
少しだけ、胸が温かくなった。
「……はぁ、もういいよ。わかった」
レオンの目が見開かれる。
「弟子でも何でも……好きにしたらいいよ。ただし」
私は指を一本立てた。
「ちゃんと言うこと聞くこと。あと……こんなんだから、期待しすぎないで」
「お、おう!!任せろ!!」
勢いよく返事をするレオン。
その隣で、セイは呆れ半分、笑い半分。
ヒヨリは胸を撫で下ろしながら、ほっと微笑む。
そして私は……心のどこかが、ほんの少しだけ…軽くなった気がした。




