24.微笑む敗色
「ヒカルちゃん!!」
ヒヨリの声だ。
視界の端から、泣きそうな顔で駆け寄って来て、ほとんど転びそうな勢いでしゃがみ込んだ。
「ヒカルちゃん!! 大丈夫!? ねぇ、大丈夫なの!?」
ヒヨリがしゃがみ込んで、泣きそうな顔で覗き込んでくる。
「あ、うん……ただ、ちょっと疲れただけだから……」
そう言ったつもりなのに、声が思ったよりも弱々しくて、ヒヨリの表情がさらに困った色で揺れた。
「大丈夫……ちょっと休めば……すぐ動けるから……」
そう言うと、ヒヨリはなおさら不安そうに眉を下げた。
「でも……でも……!」
「悪ぃ……ほんとに……こんなつもりじゃなかった……!俺……勢いで……っ」
さっきまで戦意全開だったのが嘘みたいに、完全に動揺している声。
それを見ながら、あたしはちょっとだけ笑った。
「……レオンのせいじゃ……ないよ……あたしが勝手にやりすぎただけ……大丈夫、ほんとに。少し休めば戻るよ。だから……皆そんな顔しないで」
自分の声より先に、背中を支えるセイの手がそっと力を緩めた。
「……こいつ、平気って言ってるけど信じなくていいからな。限界ギリギリだぞ、どうせ自覚ねぇんだ」
「え、ギリギリって……あ、あれ? そんな……?」
少し体を持ち上げようとした途端、力がまた抜けてセイの腕に支えられる。
「おいおいおいっ、だから言ったろ! ほら、じっとしてろ。無理すんな」
優しい声が近い。
ヒヨリは唇を噛みながらも、そっと私の手を包み込んでくれる。
――そのとき。
「……悪かったっ!!」
突然、レオンが勢いよく頭を下げた。
地面に額がつきそうなほど深い謝罪。
さっきまで戦ってた同一人物とは思えない勢いだ。
「俺……ただ強い相手と戦えて……ちょっと……舞い上がっただけで……!」
言葉が震えていた。
後悔とか、心配とか、責任とか……色んな感情が混ざった声だ。
そんなに気にしなくていいのに、と思って口を開こうとした瞬間……レオンが顔を上げた。
その目は、さっきまでと違っていた。
「……オレを!!」
息を飲み込んだような声。
「オレを……弟子にしてくれ!!」
あまりに真っ直ぐすぎる叫びに、思考が一瞬止まった。
ヒヨリは「えっ?」と目を丸くし、セイは一瞬ぽかんとしたあと、
「……は?」
と素で返した。
「今日でわかった!俺は……お前みたいに戦いたい!!」
「さっきの氷の動き……咄嗟の判断……あんなの見たことねぇ!剣士のにいちゃんもヤベぇだろ!?遠くにいたのに、一瞬で俺の槍を弾いてきやがった!!あんな反応……見たことねぇよ!!」
ちら、と横を見ると、セイが「……いや、普通だろ」とでも言いたげに眉をひそめていた。
レオンは勢いよく、もう一度頭を下げた。
「頼む!!俺を鍛えてくれ!!
二人の力……俺に少しでも教えてくれよ!!!」
草原に響く声は、真っ直ぐで、熱くて、嘘がなかった。
セイは頭を抱え、ヒヨリはきょとんと口を開け、私は……ただ呆気にとられたまま、レオンを見ていた。




