23.風と氷のあわい
閃光で視界が真っ白になったまま、レオンの足音が、風を切る音と一緒に迫ってくる。
(……やばい、このままじゃ受けきれない)
反射だけで、右手を前へ突き出した。
「リオーレ!」
空気が弾けるように冷え、透明な氷の障壁が瞬時に立ち上がった。
直後、レオンの槍がその壁に叩きつけられ、
硬い衝撃音が耳を打つ。
「っ……!まじか!?」
壁越しに振動が伝わる。
視界はまだ白いけど、レオンの動きは読める。
(今だ)
「ミェルトーカ」
地面を走った氷紋がレオンの両足を凍りつかせた。
「動けねぇ!!なんだこれ!」
その声を合図にしたかのように、視界から白い残光が消え、レオンの驚く顔がはっきり映った。
「……いくよ」
左手に握った氷剣を構え直し一気に踏み込む。
レオンは凍りついた足元を力任せに砕き、吠えるように槍を構えた。
「こんくらいで止まらねぇよ!」
風の加速が再びレオンを包む。
一瞬一瞬お互いの動きが読めず、攻撃と回避が交錯する。
小さな氷柱がレオンの足元に噴き上がる。
レオンはそれを跳んで避け、槍でヒカルの肩をかすめた。
「っ……!」
痛みが走ったが、ヒカルは止まらない。
自分でも驚くほど、血の巡りが早かった。
「やっぱ強ぇ!すげぇよ、灰色の魔女!!」
レオンが槍を振り上げる。
受け流そうと足を踏み込む。
(……あれ?)
身体の軸が、ほんの一瞬傾いた。
ほんの一瞬の隙だが致命的な隙だった。
レオンの槍がヒカルの懐へーー
「ヒカル!!」
鋭い叫びが割り込んだ。
セイだ。
レオンの槍を横から叩き落とすように弾いた。
「っな、何すんだよ!今いいとこで!」
セイはすぐに苦笑して首を振った。
「悪い、レオン。お前が悪いんじゃない……ヒカルが限界なんだ」
限界?
あたしが?
え? と声が漏れる。
何が限界なんだろう、と本気で思った。
呼吸は少し苦しい…気がするけど……でも、まだ戦える気がしていた。
そう思って瞬きした瞬間、足からすうっと何かが抜け落ちた。
「あ……」
支えを失ったみたいに、身体が後ろへ倒れていく。
倒れてる、って頭ではわかるのに、実感が一歩遅れて追いついてこない。
「ヒカル!!」
腕がすぐに回ってきて、地面にぶつかる前にしっかり抱き留められた。
胸に衝撃が吸い込まれて、落ちるはずだった背中がふわりと止まる。
「お前なぁ……!ほんとに、無茶ばっか……!」
あたしはぱちぱちと瞬きをして、その瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
「……あは……っ」
気づいたら、笑ってた。
「あはは……っ、なんか……久しぶりに……ちゃんと戦った気がする……」
呼吸が荒くて、声も少し掠れてるのに、それでも笑いが止まらなかった。
セイはむっつりと眉を寄せながら、でもその目はひどく優しくて。
「……笑ってる場合じゃねぇだろ、バカ」
その言い方が、なんか、ちょっと嬉しかった。




