20.レオンと名乗る少年
数日が経ったある日の昼下がり。
祭りの喧騒はすっかり落ち着いて、家の中にはいつものまったりした空気が流れていた。
――その静けさを破るように、
ドン!ドン!ドンッ!!
と、玄関を叩く拳の音が響いた。
「な、なに!?」
ヒヨリがびくっと肩を跳ねさせる。
「灰色の魔女はどこだ!!出てこい、勝負しろッ!!」
……え。
なにその元気すぎる声。
セイが奥から眉をひそめて出てきて、扉の方を睨む。
「あー……なんかめんどくさいタイプの匂いがするな」
ヒヨリは逆に目を輝かせて、
「えっ、お客さん?ヒカルちゃんの知り合い??」
と無邪気に言う。
知らないよ。絶対知らない。
また扉が叩かれた。
木の板が震えるほどの力で。
「聞こえてるんだろっ!? おまえが灰色の魔女のヒカルだろ!!
闇の魔力を操って、ギルドマスターをぶっ飛ばしたって噂の……!」
……いや、そんなことしてないんだけど。
セイがため息混じりにぼそっと言う。
「噂が盛りすぎなんだよ……誰だよ広めてんの」
あたしはフードを被り、そっと扉を開けた。
外にいたのは、当たり前だが見慣れない少年。
金髪で、前髪の横だけ銀色のメッシュが入った、妙に存在感のある子。
背より長い槍を腰に立てかけ、外套の裾をばさっとはためかせている。
「……あたしに、何か用?」
少年は大きく胸を張り、誇らしげに名乗った。
「俺はレオン・ゲラウス!
“灰色の魔女”……おまえに決闘を申し込みに来た!!」
あまりにも堂々と言うものだから、一瞬返事に詰まった。
「……なんで?」
「なんでって……決まってるだろ!
闇の魔力を操り、無敵だと言われる伝説の魔法使い!そんな相手と戦ってみたいに決まってる!!倒せば俺の名は上がるし、負けても悔いはねぇ!!」
…同名なだけで違うんじゃないかな。
セイが呆れ果てた声を出す。
「表の酒場で聞いた噂そのまま信じてんじゃねえよ。
ほとんどデマだぞ」
「デマじゃないだろ!灰色の魔女はすげぇんだろ! 黒い炎を操って盗賊団を壊滅させた とか
ギルドマスターを一撃で沈めた とか 魔王軍の残党を返り討ちにした とか!」
……全部誤解か、もしくはなんか混ざってる。
ヒヨリはヒヨリでキラキラした目でこっちを見る。
「ヒカルちゃん、そんなにすごいの!?
ねぇ、魔王軍ってなぁに?」
ヒヨリ…やめて、今その単語出さないで、何から何まで頭が痛い。
「……はぁ。もう、ちょっと落ち着こうか」
あたしが言うと、レオンは逆に燃え上がったみたいに声を張り上げる。
「落ち着けるか!!俺はずっと探してたんだ……!強いやつ、ほんとに強いやつと戦える機会を!!頼む、灰色の魔女!!俺と勝負してくれ!!」
その真っ直ぐすぎる目が、逆に面倒くさいけど……どこか放っておけない。
セイがぼそっとつぶやく。
「……面倒だけど悪いやつではなさそうだな」
ヒヨリは嬉しそうに頷く。
「お友だちになれるといいね!」
いや、そんな簡単には……と思ったけど、レオンの目は真剣そのものだった。
あたしの噂なんて全部間違ってるとしても…それでも彼は ヒカルと戦いたい と言ってここに来た。
その気持ちだけは、少しだけ響く。
「……わかった。戦うかどうかは、話を聞いてから決める」
そう言うと、レオンの顔がぱあっと明るくなった。
「おおっ!!よし、まずは話だな!!」
勢いがありすぎて、家の中の空気が一気に賑やかになる。




