2.不安な気配
広場を抜けると、昼下がりの光が少し熱を帯びていた。
ラークの大通りは人通りが多い。
魔法で動く魔導車。
光属性や炎属性の魔力で灯されたカラフルなランタン。
忙しなく走り回る配達魔法士たち。
露店から立ち上る蒸気が入り混じり、独特の喧騒が耳に心地よく響く。
「いつもより人多いね〜」
「だね。首都のお祭り前だからかな?」
「お祭り!今年も行こうね!お兄ちゃんも誘って!」
もちろん と微笑む。
ヒヨリの手は相変わらずあたたかくて、この街の光そのもののようだった。
しかし、平穏な空気の奥に――
ほんの微かな“揺らぎ”が混じっているのをヒカルだけが感じ取っていた。
(……魔力の揺らぎ。やっぱり気のせいじゃないよね)
「はっ!急がないと!お兄ちゃんに怒られちゃう!今日は三人揃って依頼受ける日なのに!」
はいはい とヒカルは苦笑しながら、妹の小さな手に引かれていく。
ギルド前に着くと、石造りの建物の前で腕を組んで待っている青年が一人いた。
「お前ら、遅い」
銀白色の髪をひとまとめにした青年――セイが眉をひそめる。
「ごめん、お兄ちゃん! ヒカルちゃんがのんびりしてて!」
「こら、ヒヨリ……それ言わないでほしいなぁ」
「……なるほどな。ヒカルのことだから何となく予想できたけどな」
セイは笑って、二人の頭をぽんと軽く叩いた。
「まあいい。今日も軽めの依頼を受けるつもりで来たんだが……ヒカル。さっきから様子が固いぞ?」
ヒカルは一瞬だけ視線をそらす。
セイは戦士としての勘が鋭い。
嘘をつけばすぐに見抜かれる。
「……ちょっと、気になる気配があってね」
気配? とヒヨリが首をかしげる。
「闇の魔力みたいな……そんなのじゃなくて。もっと薄い感じ。揺れっていうか……」
この街で、か? とセイの目つきが僅かに鋭くなる。
「でも、確証はないよ。ただ……」
言いかけたときだった。
空気がーー大きく揺れた。
風でもなく、魔法でもなく。何かが空間を撫でて通り抜けたような、嫌に冷たい。
遠くの大通りの方を見る。
(……大通りより奥の方だ)
少し考え、セイとヒヨリを振り返る。
「二人はギルドで待ってて。これは……あたしが見た方が早い」
「ヒカル、ひとりで追うつもりか?」
「うん、気になっただけだし多分大丈夫」
それだけ言うと駆け出した。
即座に二人とも着いてきてるのはどうしてだろうか…
セイはともかく、ヒヨリには戦わせたくない。
過保護と言われようが…ヒヨリにどれだけ嫌われようがヒヨリには平穏に生きていて欲しいのだ。
大通りの喧騒から離れるにつれ、空気が変わっていく。
昼間だと言うのに、冷たい乾いた風が頬を掠める。
ラークの中でも、人通りの少ない静かな区画だった。
「揺らぎ……この奥?」
「うん。すぐそこ」
ヒカルが立ち止まった瞬間。
足元の影から、ゆらり、と黒い何かが立ち上がる。
低い唸り声。鈍く光る目。そして、まとわりつく冷たい悪意。
「魔物……!」
最初に叫んだのはセイだった。




