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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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19/41

19.不思議な老婆

広場に戻れば、屋台の炎が次々と灯りはじめていた。

昼の賑やかさとは違って、夕暮れの中の灯りはどこか温かくて、胸の中のざわつきをゆっくりほどいてくれる。


「ヒカルちゃん、見て……ランタン…!」


ヒヨリが指さした先には、吊るされた赤や青、緑色…色とりどりな小さなランタンが風に揺れている。


人混みのざわざわ、焼き物の匂い、子どもたちの笑い声。

どれも昼と同じはずなのに、暮れゆく空の下では、全部がゆっくり優しく溶けていく。


「ヒカルちゃん、行こっ!」


さっきの涙が嘘みたいに元気に手を引いてくるヒヨリを見て、あたしも小さく笑い返す。


「ヒカルちゃん!見て見て! ほらっ、このお店すっごく綺麗!」


ヒヨリが指差した先には、細長い布で囲われた小さな占い屋があった。

ランタンの光が布越しに滲んで、ふんわり暖かい色をしている。


店先には丸い水晶みたいなランプが置かれていて、近づくだけで空気がすっと静かになるような気がした。


「わぁ……!占い屋さんだ!」

ヒヨリが菓子を持ったまま駆け寄る。


「ヒヨリ、食べながらまま走るなって」

セイが頭を押さえるけれど、ヒヨリにはもう聞こえてないらしい。


気付けばあたしもセイも、引かれるようにしてなんとなく足を向けていた。


店主の老婆は皺だらけの指で机をとんとん叩き、にやりと笑った。

「いらっしゃい。三人とも順番にお座り」


ヒヨリが目を輝かせて勢いよく座る。


老婆はヒヨリの手をそっと包み、目を閉じる。


「……ふふ。よく笑う子だねぇ。あんたの行く先には、あったかい光が集まってくるよ。怖がらなくていい。守りたいと思ってる子がすぐそばにいる」


ヒヨリはぽかんとしたあと、ふわっと微笑んだ。

「なんか……すごく嬉しい……!」


老婆は続ける。

「近いうちに、あんたの願いがひとつ叶う。その時そばにいる二人を、忘れずにね」


ヒヨリはよく分かっていないようで、でも嬉しそうに頷いた。


「じゃあ次は……そこのフードの子だろうね」


あたしは少しだけ息を呑んだ。

それでも膝をついて老婆の前に座る。


老婆はあたしの手を取ると、すっと目を細めた。


「……あぁ、これは困ったねぇ。君を見つける者が、これから少しずつ増えるよ。けれど……恐れる必要はない。その気づいた者たちより先に、君を守る者たちの手が君の傍にあるからね」


その言葉に、胸がふっと軽くなる。

なぜか分からないけど——安心した。


「最後はあんた。大地の匂いがするねぇ」


セイが無言で前に出る。

老婆が手を取った瞬間、ランタンの炎が揺れた。


「……強いねぇ。けれど、強さの分だけ抱えてる」


セイの眉がぴくりと揺れる。


「でも大丈夫だよ。あんたが守ろうとしてるものは、ちゃんと生きた灯りだ。どんな嵐でも消えないよ」


セイは短く息を吐き、静かに頭を下げた。


老婆は三人を順に見渡し、柔らかく笑った。


「夜は短いが……三つの灯りは、ちゃんと同じ道を照らし合っているよ」



テントを出ると、外の空気はひんやりしていて、屋台の灯りが遠くまで続いていた。


「ねぇヒカルちゃん! 占い、すっごい楽しかったね!」


「ん……そうだね」


不思議と胸の奥がぽかぽかしている。

セイも無言だけど、どこか表情が和らいていた。


三人の影が夜道に少し重なり、ゆっくり揺れながら家へ向かっていく。

そんな静かな帰り道だった。


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