19.不思議な老婆
広場に戻れば、屋台の炎が次々と灯りはじめていた。
昼の賑やかさとは違って、夕暮れの中の灯りはどこか温かくて、胸の中のざわつきをゆっくりほどいてくれる。
「ヒカルちゃん、見て……ランタン…!」
ヒヨリが指さした先には、吊るされた赤や青、緑色…色とりどりな小さなランタンが風に揺れている。
人混みのざわざわ、焼き物の匂い、子どもたちの笑い声。
どれも昼と同じはずなのに、暮れゆく空の下では、全部がゆっくり優しく溶けていく。
「ヒカルちゃん、行こっ!」
さっきの涙が嘘みたいに元気に手を引いてくるヒヨリを見て、あたしも小さく笑い返す。
「ヒカルちゃん!見て見て! ほらっ、このお店すっごく綺麗!」
ヒヨリが指差した先には、細長い布で囲われた小さな占い屋があった。
ランタンの光が布越しに滲んで、ふんわり暖かい色をしている。
店先には丸い水晶みたいなランプが置かれていて、近づくだけで空気がすっと静かになるような気がした。
「わぁ……!占い屋さんだ!」
ヒヨリが菓子を持ったまま駆け寄る。
「ヒヨリ、食べながらまま走るなって」
セイが頭を押さえるけれど、ヒヨリにはもう聞こえてないらしい。
気付けばあたしもセイも、引かれるようにしてなんとなく足を向けていた。
店主の老婆は皺だらけの指で机をとんとん叩き、にやりと笑った。
「いらっしゃい。三人とも順番にお座り」
ヒヨリが目を輝かせて勢いよく座る。
老婆はヒヨリの手をそっと包み、目を閉じる。
「……ふふ。よく笑う子だねぇ。あんたの行く先には、あったかい光が集まってくるよ。怖がらなくていい。守りたいと思ってる子がすぐそばにいる」
ヒヨリはぽかんとしたあと、ふわっと微笑んだ。
「なんか……すごく嬉しい……!」
老婆は続ける。
「近いうちに、あんたの願いがひとつ叶う。その時そばにいる二人を、忘れずにね」
ヒヨリはよく分かっていないようで、でも嬉しそうに頷いた。
「じゃあ次は……そこのフードの子だろうね」
あたしは少しだけ息を呑んだ。
それでも膝をついて老婆の前に座る。
老婆はあたしの手を取ると、すっと目を細めた。
「……あぁ、これは困ったねぇ。君を見つける者が、これから少しずつ増えるよ。けれど……恐れる必要はない。その気づいた者たちより先に、君を守る者たちの手が君の傍にあるからね」
その言葉に、胸がふっと軽くなる。
なぜか分からないけど——安心した。
「最後はあんた。大地の匂いがするねぇ」
セイが無言で前に出る。
老婆が手を取った瞬間、ランタンの炎が揺れた。
「……強いねぇ。けれど、強さの分だけ抱えてる」
セイの眉がぴくりと揺れる。
「でも大丈夫だよ。あんたが守ろうとしてるものは、ちゃんと生きた灯りだ。どんな嵐でも消えないよ」
セイは短く息を吐き、静かに頭を下げた。
老婆は三人を順に見渡し、柔らかく笑った。
「夜は短いが……三つの灯りは、ちゃんと同じ道を照らし合っているよ」
テントを出ると、外の空気はひんやりしていて、屋台の灯りが遠くまで続いていた。
「ねぇヒカルちゃん! 占い、すっごい楽しかったね!」
「ん……そうだね」
不思議と胸の奥がぽかぽかしている。
セイも無言だけど、どこか表情が和らいていた。
三人の影が夜道に少し重なり、ゆっくり揺れながら家へ向かっていく。
そんな静かな帰り道だった。




