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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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16.鮮やかな世界

「わぁー!綺麗ー!」

ヒヨリが元気いっぱいに走り出し、道の端に咲いている黄色い花に目を輝かせている。


その後ろ姿を見ているだけで、少しだけ気持ちが軽くなる。


「ヒカル、無理すんなよ」

隣で歩くセイが、こちらを見ずにぽつりと言う。


「してないよ。大丈夫」


あたしがそう返すと、セイは そうか と短く答えて前を向いた。

ほんと、余計な心配ばっかりして……でも、そういうところが嬉しくもある。


「ねぇ見て! この葉っぱハートみたい!!」


道端でしゃがみこんでは騒ぎ、また走って、また止まって葉っぱや花を観察している。

セイが少し小走りめに追いかけ、ヒヨリが転ばないかずっと目で追っている。



「……あ、あった」


薄い青色の花びらをつけた、小さな薬草。

茎を折らないように指で包み込んで抜くと、ほのかに甘い匂いがした。


「ヒカルちゃーん!何かあったの?」

ヒヨリがぱたぱたと戻ってきて、隣にしゃがむ。


「うん。薬草取りに来たんだよね」


「こんな中からよく見つけれるな」

セイが横から声をかけてくる。


この辺りなら多分…と思い、あたしは隣の草むらをそっとかき分ける。


「……ほら。ここにも」


「すげぇ……よく分かるな」


セイの素直な感心の声に、ちょっとだけ胸がくすぐったくなる。



「ヒカルちゃんすごい!こんな小さいの見つけられるんだ!」


ヒヨリは目を輝かせながら、嬉しそうに笑って、背中に飛びつく勢いで抱きついてきた。


「私も手伝う!」

ヒヨリは張り切って周りを見回しはじめる。


その無邪気さが、胸の奥にじんわり染みる。




薬草を摘んでいると、ふと、風が強くなった。

その瞬間、かぶっていたフードがふわりと後ろに押しやられる。


「…あ」


灰色の髪が、日差しの下にさらけ出される。


思わず手が動いたけれど、遅かった。


「わ……ヒカルちゃん、髪きれい……」


ヒヨリがぽつりとつぶやくように言った。

その声に、胸がちくりとする。


綺麗なんかじゃない。

この色は、隠すための色だ。


「……風、強かったからな」

セイはそう言いながらフードを直すのを手伝ってくれる。


あたしはうつむいて、そっと息を吐いた。


「ねぇねぇ!あっちにね!お花がいっぱい咲いてるよ!花冠つくろ!ヒカルちゃんに似合うと思うの!!」


手を引っ張られる。

押しつけがましくない、ただ嬉しさだけでできている小さな手。


あたしは少しだけ息を吸って、


「……花冠なんて、あたし似合わないよ」


と弱く否定する。


「似合うよ!絶対!!

ほら、だって、光に当たるとふわーって……!」


本気で言ってくれるから、胸の奥が少しだけくすぐったい。


セイは、少しだけ笑って肩をすくめた。


「行ってこいよ。ヒヨリが言うなら、そっちのほうが正解だろ」


なんだよそれ……と思いながらも、心のどこかで救われている自分がいる。


「……じゃあ、少しだけ…ね」


ヒヨリが嬉しそうに飛び跳ねる。


「やったー!!こっちこっち!」


あたしの手を引いて、花の咲く丘へ駆けていく。

この子には、本当に敵わない。



丘に駆け上がると、斜面いっぱいに小さな白や黄色の花が風に揺れていた。

ヒヨリはその真ん中にしゃがみこみ、両手いっぱいに花を集めながら、きらきらした目でこちらを見上げた。


「ねぇねぇ!これで花冠つくるの!私ね、こないだ街のお姉さんから教えてもらったの!」


言いながら、ヒヨリは花の茎をぎゅっと結ぼうとして――


プチッと勢いよく茎が千切れた。


「あ…あれ…?」


ヒヨリは こうだっけ? と言いながら試行錯誤している。


「……茎の柔らかいところをね、こうして編むの。折らないように……優しく」


指先で花を重ね、細い茎を交差させる。

ヒヨリは目をまん丸にして、息すら止めて見ていた。


「すごい……!ヒカルちゃん、なんでそんなに上手なの?」


「薬草も、こうやって束ねたりするから……なんとなく、ね」


そう言いながら編んでいるうちに、いつの間にか輪ができていて。


「はい」


気づけば、完成した花冠をヒヨリの頭にそっと乗せていた。


ヒヨリはぱあぁっと顔を輝かせ、両手で花冠をおさえながら跳ねる。


「すごい!!かわいい!!ほんとにできた!

……ねえねえ、ヒカルちゃんにも作る!!」


「う、うん……でも、ヒヨリのだけで…」


と言いかけたあたしの手を、ヒヨリの小さな手がぎゅっと掴んだ。


「だめ!ヒカルちゃんにも似合うの欲しいの!!作り方教えてくれたから、次は私の番!」


あたしは思わず小さく笑ってしまった。


「……じゃあ、一緒に作ろっか」


風が吹いて、草の匂いがふわりと広がる。

気がつけば、さっきよりずっと胸が温かくなっていた。


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