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灰色の魔女は、静かな日常を夢見ている  作者: 漆原


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14/41

14.込めた祈り

「さっきも……あんなふうに大人の人たちと向き合って話すの、久しぶりすぎて……そっちの方が緊張したんだから」


ヒカルはふと笑って、息を吐く。


「だからね……怖かったとか、痛かったとか……そういうのより、二人が傷ついた顔する方が嫌で……。

あたしのせいで、誰かが怒るのが……いちばん嫌なんだよ」


恥ずかしそうに…笑って言うヒカルの顔は伏せられ、表情のほとんどは髪に隠れている。


「……それにね、もし今回のことであの人たちが重い処罰を受けるってなったら……」

ぽつりと漏れた声は、さっきまでの軽い調子とは違っていた。


「きっと逆恨みされるよ。あたしじゃなくて……ヒヨリや、セイに」


ヒカルは顔を上げないまま、苦笑とも諦めともつかない息を漏らす。


「だったら、穏便に済ませたほうがいいでしょ?

二人が巻き込まれるほうが……ずっと嫌だから」


そこまで言うと、ヒカルはただ静かに口を閉じた。

部屋の中に、夜の街灯魔法の光だけが薄く揺れる。


俺はしばらく、息すらうまくできなかった。

胸の奥が焼けるみたいに熱いのに………喉はひどく冷えている。


自分さえ引けば丸く収まると考えてしまう。

自分が傷付く事より、その結果誰かが怒ることのほうを怖がる。


「……ヒカル」

声が、自分でも驚くほど小さく、かすれていた。


「……それ、俺が……嬉しいと思うと、思ってんのか」


ヒカルの肩が、微かと震える。

顔はまだ上げていない。


俺は続けようとして、言葉が喉で詰まった。


怒鳴りつけるわけじゃないのに、息が荒くなる。

胸の奥が、自分でも抑えられないほど熱くなる。


「……巻き込まれたら嫌だって……そんなの……」



「そんな理由で……お前が我慢したって俺は……嬉しくなんか……」


言葉がそこで、ぷつりと切れた。


怒りとも悲しさとも違う、もっとどうしようもない感情が胸の奥から噴き上がってくる。


「俺が……お前の兄貴なのにさ、いつまで……ひとりで傷ついて……ひとりで理由つけて……

自分さえ我慢すればいいなんて…」


どう言えば良いのか分からなく…迷いながら言葉を紡ぐ。


ヒカルはゆっくりと顔を上げ真っ直ぐ俺を見る。


「……巻き込んだのは、あたしだよ」


その言葉は、刺すようでも責めるようでもない。

まるで 当然 とでも言うみたいに淡々としていた。


胸の奥が、きしむ。


「怒らないでよ?これはね……あたしが始めたことで、あたしが原因で起きたことなんだよ。巻き込まれたのは…あたしじゃなくて、二人なんだよ」


真剣で、静かで、そしてどこか苦しい。


俺はその言葉を否定しようとした。

けれど、喉に力が入らなかった。

あの子の過去を思えば……軽々しく違うとは言えなかった。


ヒカルは、言い切った後の沈黙に耐えられないように、ぱっと立ち上がった。


「今日は……いろいろ疲れたし。うん、寝る、寝る! だからさ」


無理に明るくした声。

「この話は終わりにしよ?また明日…3人で街の外まで行こうよ!薬草もそろそろ欲しいんだよね」


セイはその不自然な明るさに胸が締め付けられながらも、ヒカルの中にこれ以上踏み込めないと悟る。


「……わかった。また明日な」


「うん。また明日」


ヒカルは背中を向けたまま、小さく手を振った。




部屋の灯りを落とすと、急に胸がきゅっと苦しくなった。

……あたしのことなんて、本当にどうでもいいのに。

あたしのせいで、二人が怒ったり心配したりしてーー

指先がわずかに震える。


あたしなんかがそばにいるせいで……セイもヒヨリも変な目に遭わなきゃいいけどーー


まぶたを閉じながら、胸の奥で小さく祈るように思った。

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