14.込めた祈り
「さっきも……あんなふうに大人の人たちと向き合って話すの、久しぶりすぎて……そっちの方が緊張したんだから」
ヒカルはふと笑って、息を吐く。
「だからね……怖かったとか、痛かったとか……そういうのより、二人が傷ついた顔する方が嫌で……。
あたしのせいで、誰かが怒るのが……いちばん嫌なんだよ」
恥ずかしそうに…笑って言うヒカルの顔は伏せられ、表情のほとんどは髪に隠れている。
「……それにね、もし今回のことであの人たちが重い処罰を受けるってなったら……」
ぽつりと漏れた声は、さっきまでの軽い調子とは違っていた。
「きっと逆恨みされるよ。あたしじゃなくて……ヒヨリや、セイに」
ヒカルは顔を上げないまま、苦笑とも諦めともつかない息を漏らす。
「だったら、穏便に済ませたほうがいいでしょ?
二人が巻き込まれるほうが……ずっと嫌だから」
そこまで言うと、ヒカルはただ静かに口を閉じた。
部屋の中に、夜の街灯魔法の光だけが薄く揺れる。
俺はしばらく、息すらうまくできなかった。
胸の奥が焼けるみたいに熱いのに………喉はひどく冷えている。
自分さえ引けば丸く収まると考えてしまう。
自分が傷付く事より、その結果誰かが怒ることのほうを怖がる。
「……ヒカル」
声が、自分でも驚くほど小さく、かすれていた。
「……それ、俺が……嬉しいと思うと、思ってんのか」
ヒカルの肩が、微かと震える。
顔はまだ上げていない。
俺は続けようとして、言葉が喉で詰まった。
怒鳴りつけるわけじゃないのに、息が荒くなる。
胸の奥が、自分でも抑えられないほど熱くなる。
「……巻き込まれたら嫌だって……そんなの……」
「そんな理由で……お前が我慢したって俺は……嬉しくなんか……」
言葉がそこで、ぷつりと切れた。
怒りとも悲しさとも違う、もっとどうしようもない感情が胸の奥から噴き上がってくる。
「俺が……お前の兄貴なのにさ、いつまで……ひとりで傷ついて……ひとりで理由つけて……
自分さえ我慢すればいいなんて…」
どう言えば良いのか分からなく…迷いながら言葉を紡ぐ。
ヒカルはゆっくりと顔を上げ真っ直ぐ俺を見る。
「……巻き込んだのは、あたしだよ」
その言葉は、刺すようでも責めるようでもない。
まるで 当然 とでも言うみたいに淡々としていた。
胸の奥が、きしむ。
「怒らないでよ?これはね……あたしが始めたことで、あたしが原因で起きたことなんだよ。巻き込まれたのは…あたしじゃなくて、二人なんだよ」
真剣で、静かで、そしてどこか苦しい。
俺はその言葉を否定しようとした。
けれど、喉に力が入らなかった。
あの子の過去を思えば……軽々しく違うとは言えなかった。
ヒカルは、言い切った後の沈黙に耐えられないように、ぱっと立ち上がった。
「今日は……いろいろ疲れたし。うん、寝る、寝る! だからさ」
無理に明るくした声。
「この話は終わりにしよ?また明日…3人で街の外まで行こうよ!薬草もそろそろ欲しいんだよね」
セイはその不自然な明るさに胸が締め付けられながらも、ヒカルの中にこれ以上踏み込めないと悟る。
「……わかった。また明日な」
「うん。また明日」
ヒカルは背中を向けたまま、小さく手を振った。
部屋の灯りを落とすと、急に胸がきゅっと苦しくなった。
……あたしのことなんて、本当にどうでもいいのに。
あたしのせいで、二人が怒ったり心配したりしてーー
指先がわずかに震える。
あたしなんかがそばにいるせいで……セイもヒヨリも変な目に遭わなきゃいいけどーー
まぶたを閉じながら、胸の奥で小さく祈るように思った。




