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名もなき物語〜偽りの世界を生きるモノたち〜  作者: Kuromaku
序章 全ての始発点にて、彼らは何を想うのか
9/12

9話  悪魔を狩る少女

感想など書いていただけると嬉しいです

じくじくと腹の傷が痛む。しかし傷が塞がるにつれ、痛みも徐々に引いていくようだった。

半ば引きずられるようにして、雷は夜の街を歩いた。どういうわけか、すれ違う人たちの目線は血まみれの雷には向いておらず、愛美だけを見ていた。歩き続けること約10分、やがて、二人は雷の家へと続く迷宮の入り口へとたどり着いた。

愛美が初めて困ったように雷の方を向いた。

雷は、いつもの道順を思い描きながら口を開いた。


「右、まっすぐ、まっすぐ、左、左、右。そうしたら、左手に僕の家がある。」


愛美は珍しく目を白黒させた。


「ごめん、もう一回言って。」


「右、まっすぐ、まっすぐ、左、左、右。」


愛美はしばらくぶつぶつと一人で唱えていたが、やがて大きく頷いた。

愛美に任せてしばらく歩き続けると、やがて彼女の足が止まった。顔を上げると、そこは雷の家ではなく、1つ隣の道にある純也の家の前だった。


「ここ、違う。僕の家じゃない・・・・・・僕の家はそこの角を右に行ったところ。」


腹の痛みを我慢しながら言葉を絞り出す。それを聞き、愛美の顔が徐々に真っ赤になっていった。


「ごめん・・・・・・わたし、方向音痴なの。」


蚊の鳴くような声で謝ると、愛美は雷に言われたとおりに角を右に曲がった。無事、雷の家の目の前へたどり着いた。雷はほっとして力を抜いた。その途端にひどい疲れが襲ってきた。

今日の朝家を出てから、もう何日も経ったような気がする。それだけ情報量の多い一日だった。

チャイムを鳴らすと、母がものすごい勢いで飛んできた。


「雷、心配したのよ?何でこんなに遅く・・・って、血まみれじゃない!どうしたの!」


騒ぎを聞きつけて、妹の舞衣までタオルを首に掛けて出てきた。どうやら風呂上がりらしい。


「お兄ちゃん?大怪我じゃん!早く病院行かないと!」


家族に囲まれている僕から、愛美が気まずそうに離れた。そこでやっと二人は愛美の存在に気付いた。


「・・・どちら様?」


舞衣が不信感満載の目で睨みながら尋ねる。


「はじめまして。真雲くんの同級生の、宵月愛美といいます。」


そういうと、突然愛美は膝から崩れ落ちた。


「真雲くん、わたしをつけてきてた怪しい人を追い払おうとしてくれたんです。そしたら、その人がナイフを持ってて、それで・・・・・・!」


そう言い、愛美は手で顔を覆って泣き始めた。

能力のことを明かすわけにはいかないし、悪魔にやられたなんて言っても頭を心配されるだけだ。

雷は一瞬で彼女の意図を理解した。

彼女の迫真の演技に合わせ、雷もかすれ声を作って声を発する。


「大丈夫。血のわりに傷は浅いから。でもまな、宵月さんが助けてくれなかったら危なかった。」


危うく愛美と呼びそうになり、言い換える。二人に愛美との関係を誤解されかねない。

それを聞いて、二人の愛美に対する視線が多少和らいだ。それからしばらく、雷と愛美は質問攻めにされた。不審者にやられたという苦しい言い訳は当然なかなか信じてもらえなかったが、愛美の名演技と僕の真摯な説明でなんとか納得させることに成功した。

母は愛美のことを気に入ったようで、彼女を家まで車で送っていくと言った。夜も更け、すでに12時を回っていた。愛美もさすがに一人で帰るのも気が引けたらしく、母の好意に甘えた。去り際に愛美はドアから顔を覗かせると、お休み、と言った。雷はもう応じる力もなく、手を持ち上げてそれに答えた。そんな二人を母は面白そうに見ていた。一方で舞衣は最後まで愛美にとげのある視線を向けていた。

母と愛美が出て行くと、舞衣は雷を担いで2階の寝室まで運んでくれた。雷をベットに横たえると、舞衣は不機嫌な声でぽつりと呟いた。


「お兄ちゃん、無茶しすぎ。いくらあの子が可愛いからって、死んじゃったらどうすんのよ。」


そう言うとドアを後ろ手で乱暴に閉め、出て行ってしまった。

雷はもう何か言う気にもならず、目を閉じた。疲れが濁流のように押し寄せてくる。いろいろと忙しい一日だった。人生で一番疲れたのではないだろうか。

ーでも、愛美とは仲良くなれたな。

その思考を最後に、雷の意識は深い眠りへと落ちていった。



ほの暗い闇の中で、雷は誰かに呼ばれている気がした。そして、目を覚ました。

目を開けると、見慣れた自室の天井が目に入る。まだ朝も早いようで、日は差し込んできていない。まだ眠気も残っているので、二度寝しようと目を閉じかけたその時、ひょこりと逆さまの顔が現れた。


「・・・・・・。」


慣れ親しんだ自室に、いるはずのない愛美の姿。雷はしばらくの間唖然として固まっていた。

そんな彼を見て愛美は安堵の表情を浮かべ、微笑んだ。


「おはよう、真雲くん。傷はもう大丈夫そうだね!」


それを聞いてやっと雷は昨日の大事件を思い出す。腹の傷のあった場所を触るが、きれいに塞がっている。体をそっと起こしてみるが、目眩も起きず、体調はほぼ万全な状態まで回復しているようだった。

ふと腕の時計に目をやる。それを見て雷は目を疑った。時刻は午前10時47分。学校がとうに始まっている時間だ。慌てて立ち上がった雷の手を愛美がそっと握った。驚いた雷が愛美を見つめると、彼女は言った。


「昨日のこと、他の人にはナイフを持った人に襲われたって言ったでしょ?

雷くんは怪我の治療のためにぐっすり眠ってて学校に行けそうになかったから、私もショックで学校に行くのが怖いっていう建前で学校を休んでるの。」


ふふ、といたずらっぽく笑みを浮かべる愛美。それに、と彼女は続けた。


「私の力のこと、詳しく話すにはちょうどいい機会だと思ったしね。」


そう言われ、雷も姿勢を正す。確かに昨日の説明だけではいささかわからないところがあったのは確かだ。何から説明しようかというように目をきょろきょろとさせている愛美に、まず一番気になっていたことを尋ねる。


「愛美は何でそんな力を持ってるの?そんな力、普通に生活してたらあることすらわからないと思うけど。」


それを聞いた愛美はなんとも言えない表情を浮かべた。


「ごめんね。私にもそれはわからない。私が小さかったころに面倒を見てくれた親戚の真門おじさんっていう人が私の持っている力について教えてくれたの。

『愛美、君には特別な力がある。その力は自分の欲望のために使うこともできるし、それとは逆に欲望のままに生きる悪魔たちに制裁を与え、人々を救うこともできる。

君は優しいから、きっと人を助けようとするだろうね。だから、その力の使い方を教えてあげよう。』

そう言っておじさんは、私に力の使い方を教えてくれたの。不思議なもので、ほんの1週間で私は力を完全に使いこなせるようになった。そして、私が力を使えるようになるとおじさんはもう2度と来なかった。

消息を自分なりに辿ってみたりもしたけど、全く手がかりが見つからないの。」


そして、言いにくそうに唇を噛み、続けた。


「実は、私と仲良くなった男の子が殺されるっていう事件が何度かあったの。しかも、毎回悪魔に。それだけじゃなくて、行方不明になったきり見つからないことも何回もあって。だから、私が真雲くんを家まで送るつもりだったの。断られたから、こっそり後をつけてたのね。でも・・・・・・」


そう言ったきり、愛美は目を伏せてしまった。

今の話を聞く限り、愛美の力についても悪魔についても一番理解しているのは愛美の言う「真門おじさん」だろう。一番手っ取り早いのは本人に聞くことだろう。ただ、自分を置いていったその人物に対して愛美が良い印象を持っているかどうかはわからない。最悪の場合、自分一人でも捜そうと雷は考えていた。


「愛美はおじさんのことを、どう思ってるの?」


雷の質問が意外だったのか、愛美は目を丸くした。


「身寄りのないわたしを引き取ってくれたし、すっごく優しかった。身寄りのいなかったわたしにとっては本当のお父さんよりも父親に近い存在だったかもしれないなぁ。・・・・・・でも、どうしてそんなこと聞くの?」


「君さえ嫌じゃなかったら、その人を探そう。僕もできる限りのことはするよ。」


それを聞いた愛美は、目を大きく見開いて雷を見つめ、右手をおずおずと差し出した。


「わたしに近づくのが、怖くないの?またあんなふうに襲われるかもしれないんだよ?」


雷は首を振った。


「大丈夫だよ。それに、せっかく力を手に入れたんだ。次はやられてばっかりじゃなくて、もっと役に立ってみせるよ。」


そう言って雷は愛美の小さな手をとった。愛美はめずらしく頬を紅潮させてこちらを見つめた。


「・・・・・・うん。これからよろしくね、真雲くん。」


それを聞いて、ふと雷の心にいたずら心が芽生えた。もう片方の手を伸ばし、愛美の左手も包む。


「名字じゃなくて、雷って呼んでよ。」


愛美はぽかんとした顔をしていたが、やがてくすっと笑った。


「よろしく、雷くん!」


そう言って、愛美は片目をつぶった。

こうして、一人の少年と不思議な少女の奇妙な関係が始まった。人に害なす悪魔を狩りながら、全てを知

る者を探すという冒険が。

その始まりは、希望に満ちたものに思えたかもしれない。

しかし、忘れてはならない。血の契約というものは、いかなる場合であっても惨劇をうむもの。

幸せな終わりなど、決して待ち受けてはいないのだから。

先日活動報告でも触れましたが、卒業研究は間も無く終わります。

これからは普通に趣味として投稿を続けていくつもりです。


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