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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 17話 「交わる刃」

 次第に弱まる雨の中、青髪の少年が目を見開いたまま倒れていく。紅煉の目にはその動きが、とても遅く、非現実的に移った。先ほどまであれほどの力を振るっていた彼が、たった一撃で地に沈む。

 それが、ひどく不気味で、不快だった。


「何なんだよ、あんたは。規格外にもほどがあんだろ・・・」


 怒りを。怒りさえ感じられていれば、彼の権能により、再び【日没】を起動することかできただろう。しかし、今現在彼の心にあるものは絶望と、恐怖だけだった。つい先ほど黎に【日没】を破られ、ただでさえ意気消沈していたところにこれである。

 かくいう紅煉も、黒竜の攻撃に右腹部を貫かれている。とても万全の状態とはいえない。


(その上、今はこの雨雲のせいでここら一帯は影だ。先ほどの戦闘でこの黒い断雷様は、影から影へと移動していた。詰みだ。逃げれない。)


 そう悟ってなお、紅煉は叫んだ。


「黎!倒れてる場合じゃねぇ!早く逃げろ!」


 どれだけ冷たい態度をとろうと、彼は所詮悪者にはなりきれない、心根の優しい竜であった。嫌っていたはずの、いや、嫌おうとしていたはずの黎に、逃げるように叫んだのだから。

 しかし、敵はそれを待ってはくれなかった。黒い太刀が、容赦なく黎の首に向けて振り下ろされる。


「やめろぉぉぉぉ!」


( まただ。また俺の前で、俺を守って仲間が死んでしまう。)


 黎自身は気づかれないようにやったつもりだろうが、紅煉はとっくに気づいていた。


(あいつは、俺を致命傷から守るために動き、自分を守るのが遅れたんだ。)


 先ほどの攻撃が来る直前、黎は彼の権能を使い、紅煉の全身を水の膜で覆った。それのおかげで紅煉の核を貫くはずだった黒竜の一撃は、右腹部へと逸れた。しかし、彼自身は対応が遅れ、重傷を負っている。


(俺の力不足だ。俺にもっと、力があれば。力さえ、あれば!)


 いくら悔やもうとも、いくら自身を責めようとも、その念が彼の炎の原動力となることはない。それは、紅煉自身もわかりきっていることでもあった。だからこそ、絶望が晴れない。怒りを、覚えられない。

 ひどくのろい動きで、斬撃が黎の首へと迫る。


(間にあわねえっ!)


 炎を生成しようとするが、間に合わない。


(また、俺を置いていくのか。)


 紅煉はその現実から、目を背けるために、目を瞑った。

 と、鋭い音が世界の静寂を打ち砕いた。

 世界を白光が満たし、影が追いやられていく。そして、黒竜の太刀は先ほどまで倒れていた紅煉にとっては名も知らぬ白竜、我々観測者たちにとってはすでに知った名前である、白夜に受け止められていた。


「化け物っ!早く、どこかへ行ってくださいっ!」


 白夜が細い目に決死の光をたたえ、黒い太刀を自身の武器で押し戻そうと奮闘する。

 白夜の抜き放った太刀は、白い輝きとともにそこに存在していた。対する黒竜の太刀は漆黒の闇よりもなお黒く、ついには黒く輝くようにさえ見える。


「あれは・・・『黒輝(コッコウ)』と『明星(アケボシ)』じゃねーか。」


 紅煉の口から、無意識のうちに滑り出た言葉。それこそが、その双振りの太刀の名称。断雷の武器である双剣の名である。その事実が世界に認識された瞬間、世界に異変が起きる。



【黒刃と白刃の交わるとき、世界は再び厄災に呑まれる。】



 世界が、揺れる。廻る。白光と闇はさらに強く輝き、世界の色を奪っていく。やがて、光が影を押し始めた。すると、次の瞬間、黒竜は一瞬にも満たないひとときのうちに姿を消した。

 逃げたのだと、紅煉がそう悟るまでにそう長い時間はかからなかった。

 世界に再び色が戻り、白夜が太刀を取り落とし、紅煉が地に膝をつく。

 終わったのだ。底知れぬ力を持つ、黒竜との戦いが。




 ◇

 肩を揺すられ、眠りが浅くなる。


「・・・てください。」


 何か声が聞こえるが、まだ起きたくなんてない。


「・・・きろ。おい。」


 うるさいな。もっと寝させてくれ。


「起きろ!こっちは300年待ってんだ!」

「ぐえっっ。」


 唐突に腹部を強打され、強制的に眠りから釣り上げられる。


「おえっ、げほっ。」

「あ、ちょっと紅煉さん。そんな乱暴したらかわいそうじゃないですかぁ!」

「うるせえ。おまえは部外者だ。引っ込んでろ。」

「えぇ、そんなぁ。ボクも仲間に入れてくださいよぉ。」


 聞き慣れない声がして、その方向を向くとそこには糸目で白髪の少年が座っていた。あ、思い出した。あの白竜だ。


「白夜君、だっけ。無事だったんだ。よかった。」

「あ~!覚えててくれたんですね!嬉しいなあ!」


 手を合わせ、首を傾けて喜びを表現する白夜。それとは対照的に額に青筋を浮かべ、今にもすべてを燃やし尽くしそうな目でこちらをにらむ紅煉。もうあんな規模の炎を出されるのはごめんなので、素直に紅煉の方に向き直る。


「相棒、状況は?」

「相棒じゃねえ!何度言ったらわかるんだ!」

「いや、君の役割は、『主人公』である僕の『相棒』だぜ?紅煉が嫌でもそれは決まってることだから。」

「主人公だの何だのうるせえんだよ。お前、天龍様の前でもそれが言えるのか?」


 紅煉の怒りはさらに膨らんでいるようだ。仕方ないし、反抗するのはやめようか。


「あのぉ、ボクにもわかるように説明していただけると助かるんですけど。」

「おまえは一番黙ってろ!」


 どうやら、紅煉は僕よりも白夜の方が気に食わないみたいだ。


「いいか、俺たちは今から、天龍様の元へ向かう。あの黒竜の強さを見ただろう。いくら俺たちが覇者といえど、さすがに太刀打ちできない。あの方の力が必要だ。」

「あ、ちょっとタンマ。」

「・・・何だ?俺は今すごく機嫌が悪いから、しょうもねえ内容だったらおまえから灼くぞ?」

「あ、いや、なんで僕は助かってるのかなって。」


 それを聞き、紅煉はとてつもなく不快そうに眉をしかめた。そして、白夜の方に顎をしゃくる。


「こいつがおまえを救った。礼くらい言っとけ。」


 いや、礼くらい自分で言えるよ。というか何で紅煉はそんなに白夜のことが嫌なんだよ。


「ありがとう、白夜君!」

「いやぁ、照れますね。こうやって正面からお礼を言われると。」


 白髪を掻きながら、白夜はその細い糸目をさらに細めた。


「あの黒竜を追い払うなんて、一体どうやったんだ?」

「いやぁ、実はこの剣であの化け物の剣を受けたんですよ。そしたら、ピカッ、ズドーン、バーンってなって、あの野郎、逃げていきましたよ。」


 自慢げに空中から刀を取り出し、胸を張る白夜。鞘がついておらず、いつでも戦える状態になっている。その刃の色を見て、背筋にぞわりと嫌な物が走る。


「白刃、か?」

「あ?何言ってんだ、お前。」


 紅煉が心底どうでも良さそうに鼻を鳴らすが、それどころではない。あの黒竜、黒い断雷様は、黒い刀を持っていた。その刀を、この白い刀で受け止めたということは、あの不吉な夢と一致する。


【黒刃と白刃の交わるとき、世界は再び厄災に呑まれる。】


 僕が目覚める前、夢の中でささやかれた言葉。どう考えてもいい内容ではなさそうだ。


「黒刃と白刃が交わった、ってコト・・・?」

「お前は本当に何を言ってるんだ?」


 ここに来ての伏線回収に一人興奮する僕とは裏腹に、何も知らない紅煉はあきれてため息をついている。紅煉には悪いけど、今は伏線回収の衝撃に浸りたい気分なんだ。

 いったん状況を整理しよう。

 まず、僕たちは「覇者」という竜の幹部で、どこかへ消えてしまった皇子の断雷様を探している。

 そして、先ほど戦った黒竜は断雷様だが、おそらく力の一部しか使えていない。

 最後に、どうやら紅煉は知らないらしいが、あの予言。きっと、主人公だけに知らされる特権だろう。

 それに、一つ気になることがある。白夜という白竜。彼の外見は、あの黒い断雷様に似ている。似ている、というよりも、双子というか、白黒が反転したら多分見分けがつかない。

 ってことはつまり、白夜も断雷様の力の一部を持っているということか。だから、あの黒竜を撃退できた。そういうことだろう。

 つまり、断雷様が二つに分かれた。


「分離したってことか!」


 思わず口に出していたことに気づき、慌てて口を閉じる。


「何だ、何かわかったのか。」


 紅煉が白夜に向けていた冷たい視線を、僕に向ける。詳しい内容を話そうとして、一つのことに気づく。これ、白夜に言ったらまずいんじゃないか。


「紅煉、ちょっと来てくれ。」


 もしも白夜が急に「バレてしまっては、しょうがないですねぇ。」とか言って殺しに来たら、絶対に勝てない。というか、言いそうで怖い。

 だから今は、白夜には僕たちの正体を隠さなくては。

冒頭の意味深な予言が、ようやく再登場しました。メインストーリーもようやく本格始動です。

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