第一章 15話 「逆襲 1」
お久しぶりの視点です。
とりあえず「復讐編」とでも題しておきますか。
復讐は,ここからが本番です。
ノーブル学院には、大図書館がある。大半が名門貴族の子供である学院の生徒ならば、一度は訪れたことがあるだろう。目を閉じ、思い浮かべてみて欲しい。
深い色の木材で形成された床や棚は、長い年月によって日かりををほんのりと反射している。中央には大きな円卓と椅子があり、その少し離れたところに囲むようにして小さな机がいくつも置かれている。そして、そのさらに外側には見上げるような本棚がいくつも立ち並んでいる。
円卓の上は吹き抜けになっており、二階を見ることができる。
誰もが一度は憧れるような、大図書館。生徒は皆この空間に入るたびに畏敬の念に胸を打たれる。しかし、そんな荘厳な図書館に数多くの隠し通路が存在することを知る者は、教師にも存在しない。それを知っていたのは、一人の少年だけだった。
( 経済学27の棚、上から3段目、左から三つ目の印から右に二冊、だったな。)
目当ての本を引くと、鈍い音が誰も居ない深夜の図書館に吸い込まれていった。壁に人一人がギリギリとおれるくらいの隙間が開き、少年はそこに吸い込まれるように入っていった。
狭い廊下に足音が響く。
( ここは、迷路だ。油断していると一生をここで終えることになりかねない。)
美しい金髪はたいそう目立つものだが、誰も居なければ問題はない。少年がここへやってきた目的は、ただ一つ。レイス・ロスノックの個室に侵入し、奴の弱みを握ることである。
( バレたら一発で退学。そんなことはわかってる。だが、アメリアを泣かせたあいつは許さない。)
母の居ない今、彼にとって一番大事なのはアメリアだった。ロンド家の娘でありながら、そのおてんばな性格が災いして孤独な彼女を護ってやれるのは、少年だけなのだから。
この通路は、元々この国が戦争の最中に居るときに建設されたものである。当時、いつ敵国の兵が襲撃してくるかわからない中、学院の中では通常通りに授業が行われていた。
しかし、国の宝である生徒を失うわけにはいかない。そこで、全ての個室からつながる通路が作られた。もちろん、敵にバレないよう、入り口は隠されている。
少年がそれに気付いたのは、まさしく偶然だった。たまたま引いた本が秘密の入り口の鍵だったのだ。どれだけの興奮が彼を襲ったのか、今現在知る方法はない。
彼はそのとてつもない時間を費やして通路を探索し、今ではどこが誰の部屋に通じているのかわかるようになっていた。彼くらいの年齢の少年であれば、つい魔が差して自分の欲望のためにその道を悪用することもあったかもしれない。しかし、彼はそうはしなかった。
しかし、人の弱みは数え切れないほど握っていた。探索の最中に散々目撃してきたからだ。それを利用して、少年はアメリアを嘲笑する者たちに密かに制裁を下していた。
( ここがレイスの部屋か。)
ゆっくりと慎重に石でできた重い蓋を外し、あらかじめ用意しておいたロープで静かに下りる。レイスは奥の部屋で安らかな寝息とともに寝ていた。
音を立てぬように気をつけて引き出しを開け、物色する。
しかし、想定とは違い、何もおかしなものは入っていなかった。
( 以外だ。噂に聞くような異常者なら、もっと変なものを持っていてもいいと思ったのに。)
家族や友人との記念写真や、通知表など、まさに優等生と言った中身に失望する。
( 何か弱みを握れれば、それをだしにアメリアに謝罪させられるんだが・・・)
引き出しが空っぽになった。
( クソッ、収穫なしか。あんまり長居しすぎてバレるのも笑えない。いったん帰るか。)
全てを元あった場所に戻し、レイスが目覚めぬうちに部屋をさろうとして、一冊の本に目が留まる。
( なんだ?参考書の類いにしては大きすぎないか?)
棚から出してみて、その正体が発覚する。
( Memory...思い出のアルバム、か。)
一瞬だけ、開けるのはデリカシーがない、という考えが脳裏をよぎるが、首を振って否定する。アメリアのトラウマをあれだけ抉っておいて、デリカシーなんて知ったことか。
「おぇっ、キッショ。」
音を立てないように用心していたはずなのに、中身を見て、思わず悪態をついてしまった。それほどまでにその中身は気色が悪かった。
革製の表紙に金糸で刺繍の施された高価そうな大きめの冊子に、女子生徒の写真が丁寧に貼られている。
1ページに1人ずつ、名前と体の特徴、自分と初対面の時どんな話をしたか、どうやって絶望させたかが事細かに記されていた。
なんとそこには生徒会長のリリアナ・ワーレンスの名前もある。そして、最新のページにあった写真こそが・・・
「アメリア・・・ッ!」
学院で年に一度秋に開かれる、入学記念の式典で、めったに着ない赤いドレスに身を包んで大きく口を開け、屈託なく笑っているアメリアの写真が、そこにあった。
拳を強く握りすぎて爪が手のひらに突き刺さり、血が滲む。しかし、皮肉にも少年はそのおかげで冷静さを取り戻した。
( 今は、まだだ。まだ条件が足りない。第三者が介入しない空間で、あいつにアメリアに謝罪をさせるためには。)
少年はアメリアを傷つける者を粛正してこそ居るものの、大切にしていることが一つあった。それは、彼女に自分が粛正を行っていることがバレないようにすること。
アメリアはいつでも天真爛漫に笑い、大きな声で自分の考えを率直に言う。端から見れば、明るい性格。そう思えるだろう。しかし、入学以来ずっと彼女の隣に居た少年は知っている。その精神状態は、常にギリギリの瀬戸際で成り立っていると言うことを。
アメリア・ロンド。彼女は、その外見や態度からは想像がつかないほどに心が弱い。そのことは好きになった男子にこっぴどくあしらわれ、彼女が泣いて帰ってくるたびに慰めていた少年自身が一番よく知っている。もしも彼がいなければ、アメリアはとっくに精神を追い詰められ、自殺していただろう。実際、少年が彼女の自殺を止めたことは一度ではない。
そんな彼女が、一番信頼できる⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が自分のために手を汚していることを知ったら、どうなるだろう。おそらく、自責の念から命を絶ってしまうだろう。
( 絶対に、アメリアに俺のしていることが知れてはいけない。)
汚らわしいアルバムを破り捨てたい衝動を抑えて元の場所に丁寧に直し、眠り続けるレイスを一瞥する。
( いっそのこと、ここで殺してしまうか?こんな屑、居なくなった方が世のためだ。)
物騒な考えが湧き上がり、少年は急いで屋根裏の通路へと姿を消した。
部屋を離れ、誰も居ない通路をひたすら走る。足音が響くかもしれないが、どうせ入り口を見つけられる奴など居るわけがない。今は、このどす黒い感情をなんとしてでもかき消したかった。
部屋に戻り、ベッドに体を投げ出す。こんな時、主席は便利だ。主席は一人部屋なので、夜にこっそり抜け出るときにルームメイトの目を盗む必要がない。
ベッドに体が包みこまれ、少年は眠りにつく、はずだったのだが。
ごつん。
「きゃぁっ!」
「いってぇっ!」
布団が悲鳴を上げ、飛び上がった。
「誰だ!」
机においていた燭台を構え、どすのきいた声で謎の侵入者に問いかける。
「あたし!あたしだってば!」
布団がすごい勢いで吹っ飛び、中から寝間着姿のアメリアが現れた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・三つほど聞きたいことがあるんだが。」
「・・・はい。」
「一つ。お前、どうやってここに来た?」
アメリアは言いにくそうに自慢の銀髪を指に巻き付けていたが、やがて蚊の鳴くような声で言った。
「通路使いました・・・」
「はぁ・・・。」
少年は特大のため息をついた。
「一つ。なんで来た?」
「・・・だって。寂しかったんだもん。」
口をとがらせて言うその姿に、荒んだ心が落ち着いていくのを感じた。
「じゃあ、最後に一つ。・・・なんで俺のベッドで寝てるんだよ。先の二つを踏まえたとしてもおかしいだろ。」
すると、アメリアは珍しく顔を赤らめて丸くなった。髪がぐしゃぐしゃになるのもかまわず、ごろごろと転がって少年の膝の上に頭をのせてくる。
「ねえ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。」
くぐもった声が少年の名を呼ぶ。
「慰めて欲しかったの。頭なでて欲しかったの。初めてあたしをかばってくれた、あのパーティーの時みたいに。」
細い腕が少年の右手を包み、アメリアの頬に押し当てられる。
少年は、息を呑んだ。レイスへの怒りのせいで、すっかり忘れていた。アメリアを護ろうと決心した、あのパーティーのことを。
その記憶が、アメリアのか細い声とその熱い体温によって呼び覚まされようとしていた。
貴族の社会って,すごく書くの難しいです。
自分の知識がないせいでもあると思うんですけど,貴族もの書ける人本当に尊敬します。
前にも触れましたが,レイスは本物のクズです。この作品に登場するキャラの中で,今の所一番クズです。キモさが伝わると嬉しいです!ぜひレイスのアンチになってください!




