第一章 13話 「猛る炎に呑まれぬように」
今回は戦闘描写を頑張りました!
二人の権能の無茶苦茶ぶりが伝われば幸いです。
感想、ぜひください!疑問に思ったこととかでもいいです!
「お前、今何つった?」
「聞こえなかったのか?それとも、頭だけでなく耳まで弱いのか?」
燻っていた炎が音を立てて燃え上がる。そこに僕は、さらにガソリンを投下する。
「正直、お前がいても何も変わらないんだ。やる気がないなら、ただ足手纏いなだけ。僕一人でやる。」
「・・・そこまで言うからにはさぞかし素晴らしい作戦なんだろうな?」
紅煉の怒りに呼応するかのように、彼の目の下の皮膚がひび割れ、炎が吹き出す。そんな脳筋の相棒に、ウインクと共に言ってやる。
「背水の陣ってやつだ。僕の最終奥義だよ。」
紅煉は、大きく目を見開いた。
決まった。完全に。カッコよくセリフを言うって、こんなに楽しいんだな。最終奥義っていうのはブラフだけど。
「紅煉、お前は槍を使えてリーチが長い。後ろから槍と、炎を撃ちまくるんだ。僕はとにかく懐に飛び込んで暴れる。」
「脳筋はどっちだ・・・」
「余裕そウだなァ?」
「「!?」」
突然、体を人型に変異させた黒竜が、僕達の間に斬撃と共に割り込んできた。
「せいゼい楽しませロォ!」
その背中から影でできた無数の虫の足のようなものが湧き出し、僕達を殺そうと迫る。
やっばい。これ、避けるのは無理だ。危うく諦めかけた時、太陽の如き熱が影を切り開いた。紅煉の放つ炎がさらに勢いを増し、彼の目の下に入った亀裂からさらに激しく炎が燃え上がる。
熱い。下手をしたら僕まで焼け死にそうだ。
「早くしろ!その、背水の陣とやらを。俺は、あまり器用なことは出来ねぇから、気抜いてるとお前ごと燃やしちまう。」
紅煉が言葉を発する間も、休む間もなく炎は広がり続ける。燃料もないのに、何でこんなに燃え続けるんだろう。不思議だ。
「あっつ!」
ごうごうと音を立てる炎に顔を焼かれ、僕は急いで飛び退く。そうだ。今はこの炎を利用して断雷様を叩かなくては。この猛る炎に、呑まれぬように。
・・・あれ、なんか今ちょっとかっこいいこと言えたんじゃないか?
「お前、本当にいい加減にしろよ!戦いの最中に呆けるな!」
紅煉から怒号が飛んできて我に帰る。だめだ。こんなんじゃ一瞬で死ぬ。
「並行発動。【激流ノ鎧】、【水面ノ虚影】。」
【水面ノ虚影】は、僕の手持ちの中でも特にお気に入りの技だ。というのも、内容がロマンに溢れているから。水を操り、虚像の自分を作り出す・・・簡単に言おう。「分身」だ。
そもそも、僕たち「竜」というのは「概念生命体」という生き物なんだそうで、普通の生物ではない。僕は水の竜だから、体は水で構成されている。「体は水でできていた」みたいなセリフを聞いたことが・・・いや、気のせいか。
話がそれた。この分身は、僕の体と同じく水でできている。そして、僕は自分の「核」を自在に分身の間で移動させられる。相手はモグラ叩きをしないといけないわけだ。僕が敵だったら間違いなくキレる。だって、どう考えてもクソゲーじゃないか。
そして、この分身の便利なところがもう一つ。
「記憶の中で最後に見えた。僕はこの技で、あなたに一撃を喰らわせることはできなかったが、あなたに剣を抜かせることはできた。ならば、重複して発動したら、どうなるでしょうか。」
格好つけて言ったが、誇張ではない。この優秀な分身たちはそれぞれが僕と同じくらいの力を持ち、技が使えるんだ。
僕を含めた、6人が断雷様を取り囲み、同じ構えをとる。
さあ、見せてやるよ。主人公としての、僕の強さを。
「「「「「「【羅舞渦・嵐】!」」」」」」
世界の終焉の如き轟音が、世界を蝕み始める。
◇
紅煉は身体中から炎を絶え間なく噴き出しながら前進していた。こうなって仕舞えば、もう彼の意思では炎を止めることはできない。炎の燃料となるのは、彼自身の怒りと憎しみの感情。
『お前の権能は、「傾き」が大きい。力は膨大だが、それ故に制御が難しい。味方を巻き込まぬよう、注意しろ。』
「橙の覇者」、晶の言葉が脳裏に浮かぶ。
( あのジジイ、毎度毎度うるせぇんだよ。お前らの力が足りないから巻き込まれるんだろ?お前らが俺に合わせればいいだけじゃねえか。)
その怒りが、またしても炎を強める。
( 大体、「傾き」とかそういう面倒臭えことを言うんじゃねえ。難しいこと考えるとイライラすんだよ。)
燃え盛る大地。仮にその光景を現存する言葉で語るとすれば、「煉獄」だろうか。どす黒い炎は大地を焼き尽くし、不毛の地に変えてもなお勢いを増す。その光はますます強まり、ついには雲までもが赤黒い光を孕み始める。
朝焼けと呼ぶにはあまりにも死を抱えすぎた光。その光は全てを照らし出してこそいるものの、見る者の心に絶望という名の闇を与える。
紅煉は覇者たちの中でも特に扱いの難しい権能を持つ。視覚的な情報だけ見ればまるで日の出のような光景を演出するその領域を、他の覇者たちはこう呼ぶ。敵対する者の心に消えることなき絶望の炎を灯す、【日没】と。
「断雷様ァ、俺も大分気が立ってきた。敬語忘れても文句はナシだ。」
さすがの黒竜も、ここまでされては上空に逃れるしかなかった。炎が獲物を求め、さらに上へ上へと伸び上がる。そこへ、
「すごいな、紅煉!さすが僕の相棒だ!」
神経を逆撫でする声が響き、怒りという名の燃料が一度に投下される。炎が激しい爆発を起こす。
「お前は何でそこまで俺をイラつかせられるんだ?ウザさもそこまでいけば才能だな。」
燃える瞳で黎を睨めつけようとして振り返り、紅煉は驚きに目を見開いた。黎が、宙を舞っている。いや、それだけならば特別驚く必要はない。驚くべきはその、
「・・・・・・6人、だと?」
その数。
6人の、全く同じ姿形をした黎たち。彼らは一斉に剣を構え、出鱈目のような現実を紅煉に突きつけるべく、口を揃えて当然のような顔で言い放った。
「「「「「「【羅舞渦・嵐】!」」」」」」
炎の轟音が、消えた。いや、正確には消えたのではない。天を埋め尽くさんばかりの無数の大渦の作り出す悲鳴が全ての音を掻き消し、大きすぎる音によって聴覚が完全に麻痺しているのだ。そう理解するとともに、背筋を冷たいものが走る。「怒り」は次第に「恐怖」へと転じ、炎の成長が止まる。
一瞬の間ののち、全ての渦が黒竜へと殺到し、収縮、爆散した。一瞬の静寂ののち、雨音が世界を震わせる。【羅舞渦】に使われていた水が役割を失い、重力に導かれて落下してきたのだと、体を濡らすその不快感とともに悟る。
炎と水が衝突し、水が音を立てて蒸発する。その水はやがて雲を形成し、再び雨を降らす。その雨が再び蒸発、雲を形成、雨が降る。そのサイクルを繰り返すうち、炎は存在していたことを忘れるほどに跡形もなく消え失せた。
その循環の中で、一人自慢げに笑う黎。底知れない恐怖が、紅煉の指先を冷たく麻痺させる。
「紅煉、終わったな!あの技すごいな!あとで仕組みを教えてくれよ!」
この状況でもひたすら楽しそうに言葉を紡ぐその姿が、紅煉にはとてつもなく大きく見えた。
全てを灰燼と化すまで止まらぬはずだった【日没】は、たった一度の雨によって消し止められた。
・・・・・・【日没】が敗北したのは、この世界において初めての出来事であった。
「いやぁ〜派手にやったなぁ!やっぱり強いんだな!」
紅煉を下したその存在は、その事実を知らずに笑う。
( こいつに敵対するのはヤバい。)
そう判断し、紅煉が俯けた顔を上げようとしたその時だった。
「がっ!」
「くっ!」
猛烈な衝撃が右腹を貫き、その場に膝をつく。見れば、黎も肩を抑えて倒れている。
「ケヒ、ケヒヒ。久々に面白いもノが見れタ・・・・・・ダが、時間切レだ。」
悪夢が牙を剥いて嗤う。心底愉しそうに、嗤う。
「冗談じゃ、ねえ。」
( 倒しきれていなかったのか?あれだけの一撃を喰らわせておいて?)
黒竜は再びその恐ろしいほどに美しい姿を見せ、倒れる二人を見下ろした。気のせいか、その体を覆う霧が少し、晴れているように思える。しかし、そんなことに気付いたところで、この状況は変わらない。
そこで一つのことに気がつき、紅煉は自分の戦意が音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。
( この雨雲のせいでここら一体は全部影の中だ。つまり、つまり・・・・・・)
「黎!倒れてる場合じゃねぇ!早く逃げろ!」
しかし、遅かった。黒竜は悪辣な笑みを浮かべ、影で作った太刀を一閃する。容赦のない一刀が、黎へと放たれた。
「傾き」について
ここで言う「傾き」とは、能力のとがり具合を指します。一次関数のグラフを思い浮かべてみてください。
縦軸を一撃の威力、横軸を制御力とします。
例えば紅煉の場合、威力が20,制御力が1とします。グラフに点を打ち,原点とその点を通る直線を引きます。この場合xが1,yが20なのでy=20xです。
一方で黎は精密な操作が得意ですがどちらかと言うと一撃の火力よりも手数で押すタイプです。
威力を4,制御力を8とするとy=1/2xです。
おわかりいただけたでしょうか。そうです。紅煉の方が傾きが大きいのです。
つまり、一撃の威力に特化していることを「傾き」が大きいと表し,精密さに優れることを「傾き」が小さいと表すわけです。
なんか数学の授業みたいで自分で言ってて馬鹿らしくなってきましたが,ゴリ押します。こういう設定で行きます。
最後になりましたが,3000PV本当にありがとうございます!これからも投稿続けていきますので,応援よろしくお願いします!




