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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 12話 「僕たちの反撃」

お久しぶりです。

勉強がひと段落したので,投稿を再開します。

 蒼い光が、紅煉に突き立てられようとしていた影の刃を弾き飛ばした。

 驚きに目を見開く彼の目の前に飛び込んできたのは、整った顔に優しい笑みを浮かべた黎だった。


「背中がガラ空きだよ、相棒!」


 突如として、全身を違和感が貫く。


( 俺は、こいつを知らない。黎は、こんなふうに感情を見せる奴ではなかった。)


「僕に任せて下がってて!【羅舞渦・嵐】!」


 その背中を、呆然と見つめる。やはりおかしい。黎は、以前の黎なら、紅煉もろとも一刀両断していたに違いない。効率を重視する奴のことだ。紅煉を救うよりも敵を滅することを重視するのが、彼の方針。

 紅煉にとっては黎のことが嫌いな一番の理由でもあった。


「お前は・・・誰だ?」


 思わず疑問がこぼれる。その問いに、黎は驚くほど明るく答えた。


「何言ってるんだよ。僕は、黎。君の1番の相棒じゃないか。」


( 違う。お前は、相棒なんかじゃない。)


「お前なんかと馴れ合うつもりは、ない。」


 赤く燃える瞳に込められた冷たい感情を、黎は真っ正面から受け止め、心外と言った様子を見せた。


「なんて酷いこと言うんだよ!僕と君の仲じゃないか。」


( やはり、こいつは黎じゃない。あいつがこんなふうに感情を表に出すはずがない。)


 疑念を胸に、槍を握る。その中に渦巻く炎の熱に、答えを求める。


( 俺はどうすればいい?)


 言葉はなくとも、炎の言いたいことは伝わってきた。


( そうだな。今はただ、この黒竜をどうにかしなくては。)


 と、そこで違和感に気づく。奇妙な違和感の原因は、黎だけではない。


( 先ほどの技、どこかで見たことが・・・それに、この黒竜を、俺は()()()()()。)




 ◇

 黒竜が嗤う。その悍ましい視線を振り払うようにして、僕は紅煉に話しかけた。


「来るぞ、紅煉。」

「・・・黙れ。無駄口を叩くな。」


 相変わらず冷たい奴だ。せっかく僕が嫌な空気を和らげてあげようとしているのに。文句を言おうと思って口を開きかけた瞬間、目のすぐ横を斬撃が通過していった。

 腹が立つことに、彼の言う通り。無駄口を叩いている暇はなさそうだ。


「見せてやろうぜ、紅煉。僕らのコンビネーション。」


 そう言って拳を合わせようとするが、当の紅煉は目を丸くして立ち尽くしている。

 もちろん、合わせようとした拳は空を切る。


「こん、びね?ってなんだ?」


 そうこうしているうちにも、敵は苛立ったかのように叫ぶ。また斬撃を飛ばしてくるのかと思ったが、違った。


「ガア、ア、ァ、ァァ。」


 黒竜が叫び、口を大きく開ける。次第に、その顎の間に黒い雲のようなものが凝縮されていく。

 これって、まさか、あれか?口からビーム?怪獣がよくやるやつだよな?

 そう考えるとなんだかおかしくなってくるが、実際は笑い事ではない。スクリーンの前で見る分には面白いが、食らう側としてはたまったもんじゃない。

 要するに、僕たちは非常にまずい状況にいるわけだ。

 でも、僕には力がある。防げばいい。


「【大海ノ渦盾(オオイナルウミノタテ)】」


 目の前の空間が歪み、渦を描き始める。

 その中心に、そこの見えない暗い虚が生じる。

 黒竜が体を反らせると、口から思いっきり光線を吐いた。想像以上の迫力に、思わず後ずさってしまう。でも、大丈夫だ。

 光線は僕の作り出した渦に直撃する。その光線が次第に歪み、渦の中心へと方向を変えていく。やがて、渦は黒い光線を包み込んで縮んでいった。

 僕の権能、【蒼の(Cobalt )執行者】(Executor)の一部である【大海ノ渦盾】は、空気中の水を操って渦を作り、攻撃を吸い込んで無効化することができる。

 はずだったのだが、今回はそううまくはいかなかった。渦に巻き込まれ、消えたはずの光線が僕の腕を吹き飛ばした。不快な痛みが腕に走る。思わず一歩引くと、続けていくつもの光線が飛んできた。

 直撃するだったはずのそれらを、紅煉が槍を高速で回し、防ぐ。

 空を切る音が響き、黒い光線が霧散する。

 一瞬遅れて、僕の吹き飛ばされた右腕がにょきにょきと生えてくる。自分の体なのに、少しだけ気持ち悪い。


「油断するな!いかにお前が天才でも、断雷様に一人で勝てるわけがない。」


 その言い草に少し腹が立ったが、彼のいうことは正しい。ここは意地を捨てて、奴の言うことに従うことにしよう。

 ・・・待て、今、さりげなくヤバいことを言ったぞ?


「ちょっと待て!あいつが、断雷様だって?」

「お前、それも思い出して・・・ああ、間違いない。さっき戦ってみて確信した。あの剣技は、あの力は、断雷様のものだ。俺たち覇者が、長きにわたって探し続けてきた存在。」


 紅煉の目に宿る光は、揺るぎないもので、その答えに嘘偽りがないことを示していた。紅く燃えるその瞳には、憎悪にも似た何かが宿っている。


( こいつ、一人で突っ走るタイプだ。)


 特に理由もなく、そう確信した。いや、確信というよりは、思い出した、というべきか。

 このいささか荒っぽい相棒は、先ほどの戦いぶりから見るに「脳筋」だ。まあ、「覇者」の一人なわけで、相当な実力の持ち主であることは確かだが、この状況で一人で戦うのは得策ではない。

 先ほどまでの戦いから、この黒竜の強さは十分に理解している。

 だからわかる。あの黒竜が断雷様であっても不思議はない。なぜここにいるのか、今はそんなことはどうでもいい。

 とにかく、紅煉を止めなくては。


「ただ一つだけ、気になることがあってな・・・」

「・・・!何だ?」

「断雷様の権能は、光子に干渉し、光と影を自由自在に司るものだったはず。だが、この黒竜はさっきから影しか使わねぇ。」


 脳筋の割に冷静な分析に少し驚きながらも、言われるまで気づかなかった。確かに、記憶の中では視界から光を奪ったり、光を使って攻撃したりしていた。でも、この黒竜は先ほどから影に紛れて奇襲を仕掛けたり、影で作った短剣を投げたりと、影ばかりを使っている。

 つまり、この影のような断雷様は、力の全てを持ち合わせているわけではない、ということか?

 この断雷様(と仮定する)が万全の状態ではないのならば、いかに王族といえども僕と紅煉、二人の覇者の力があれば、勝てるのでは?

 両手で剣を握り、90度手首を返す。

 チャキッという乾いた音を耳が捉え、心がスッと落ち着くのを感じる。大丈夫。いける。


「紅煉、聞いてくれ。作戦がある。」


 紅い瞳がこちらに向けられ、不機嫌そうに細められる。その視線から絶対に従わないという意志を感じたが、やがて彼は諦めたかのように首を振った。


「・・・話せ。」


 どうしようもない相棒に思わず苦笑がこぼれる。なんで僕がこんなふうに言われなきゃいけないんだよ。

 目の前で燻る炎は、違和感に警戒して本領を発揮できていない。ならば、焚き付けるまで。


「お前の足りない脳みそを補ってやるよ。」


 こめかみを指さし、精一杯の嘲笑を浮かべる。脳筋で乗り気じゃない味方は、大体怒らせて戦わせるものと相場が決まっている。頼むから乗っかってくれ。僕はあんまりこういうキャラ得意じゃないんだ。


「・・・あ゛?」


 計画通り、紅い炎が音を立てて燃え上がる。その業火は、全てを焼き尽くすまで止まることを知らない。

 さあ、油は注いだ。あとは、その炎の暴れっぷりに期待するだけだ。

すっかり性格が変わってしまった黎。彼の思惑は・・・?


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