第一章 7話 「旧き記憶の闘い 2」
蒼い光を放つ刃が,冷ややかな音とともに抜き放たれる。【断海の剣】。大海をも断つほどの力を持つ刃が,断雷へと向き,ぴたりと定められる。そして,その刃と並ぶほどの冷たさを湛えた瞳が,断雷を直視する。
「断雷様。貴方の暴走は天龍様の意に反する。」
姿を人へと転じた記憶の中の僕は空を蹴り、跳躍する。
位置を特定された以上,使う必要はないとばかりに断雷は【黒白反転】を解除した。無表情な黎に対し,断雷は嗤い,虚空から二振りの剣を抜き放った。僕の記憶によれば,白と黒に鈍く光るその双刃の名は,【黒輝】,【明星】。
かつて多大な犠牲を出した残影の襲撃,「影襲の悪夢」鎮圧の際には,覇者たちがいるにも関わらず最前線に赴いては大半の残影を殲滅した,最強にして最狂の性能を持つ断雷の愛刀だ。
「久々に楽しめそうだ。全力で来い。跡形もなく消し去ってくれよう。」
「わかりました。僕も貴方相手に手を抜いていられない。全力で行きます。」
断雷の挑発に臆することもなくそう言い放つと,かつての僕は【断海の剣】を肩に担ぐようにして構えた。
「並行発動,【流雲渡】・【激流ノ鎧】。・・・・・・【羅舞渦・・・」
初めて聞く技名に,僕は必死に記憶を辿る。確か・・・
【激流ノ鎧】
体表に激流を纏い,触れたものを粉砕する水の鎧。竜の巨躯でこれを使えば,その体を触れさせるだけで並大抵の敵を殲滅することができる。
それと,羅舞渦っていうのは前に僕が使ったやつだな。確か,斬撃の渦で相手を切り刻む,みたいな。そう考えていると,記憶の僕は最後の一言を呟いた。
「・・・嵐】
その瞬間,あたりが無数の渦で埋め尽くされた。その一つ一つが斬撃であり,全てを飲み込まんとするかのように口を開けている。空が泣いている。そう思わせるほどの轟音がその中から轟き,渦の群れが嵐のように断雷に押し寄せていく。
「そうだ。そう来なくてはな!」
断雷は嬉々として叫ぶと,双剣を交差させた。渦がその体表に触れる寸前,双剣の軌跡が駆け巡る。斬撃の渦を,双剣が切り裂く。
無数の渦と斬撃がぶつかり合う。黒い渦と閃光が世界をモノクロに染め上げる。
わずか数秒の間だったが,僕には数十秒に感じられた。やがて,閃光が渦を全て切り払った。
渦が霧と化し,中から黒竜が姿を現す。
「フン,もう終わりか?」
断雷はつまらないと言ったふうに鼻を鳴らした。
違う。まだだ!
「いいえ。」
いつの間にか断雷の後ろへと移動していた記憶の僕が,飛び降りながら剣を構える。あの構えは・・・・・・
「これで終わりです。【雨瀑・断】」
そして,蒼い光が世界を覆い尽くした。その光によって僕は記憶の中から弾き出される。
世界が,僕を中心にして廻り出す。僕は,全ての中心にいた。
そうだ。僕は、この世界で唯一の存在。
昔の記憶?覇者の使命?そんなの,知ったこっちゃない。
かつてのなんの取り柄もなく,存在価値すらなかった僕はもういない。僕は,「黎」となった。
そう。僕は・・・
この世界の【主人公】なのだから!
世界ノ規定 【世界ハ彼ヲ中心ニ廻ル】の権限が上昇しました。
黎の目覚める数秒前,その近くでは激戦が繰り広げられていた。
斬撃が木を一瞬で切り裂き,その破片は灰燼と化す。その中心で槍を振るうのは,赤い瞳を燃えるように光らせる青年。紅煉である。
それに対するのは,先程白夜を強襲した黒竜だ。
「覇者」である紅煉の力は凄まじく,並の敵ならば一瞬で消し飛ばされているはずだ。しかし,この黒竜は消しとばされないばかりか,逆に紅煉を押してきている。
その上,この黒竜は知能のない獣などではなかった。ある時には黒い霧を纏った人の姿で背後から隙をつき,またあるときは竜の姿で暴れ回る。
「チッ,なんなんだよこいつは!」
紅煉の顔にも,次第に焦りが見え始める。そうはいっても彼は覇者である。動揺を覆い隠し,磨き上げた槍術で敵の剣を捌き続ける。
しかし,そこで均衡が崩れる。黒い敵が足をとられ,その剣筋が乱れる。
「手こずらせやがって。消えろ。【獄炎尖舞】」
紅煉の槍がその頭を刺し貫いた・・・はずだった。
一瞬にして黒竜の姿がかき消えた。
「どこだ?どこへ行った?」
焦った紅煉は,一瞬だけ隙を見せた。その隙をつき,黒い短剣が彼の喉元へと迫った。
「くそっ!」
竜の体でも,人の姿の時に重傷を負ってしまえば活動は難しい。それに,この相手の攻撃は受け流せるほど甘くはない。
ーくそ。やられる。・・・・・・俺には,まだ,やらなきゃいけねえことが・・・
その時,世界が廻り始めた。そして,
「背中ががら空きだよ,相棒!」
明るい声とともに黒い刃を受け止めたのは,癖のついた髪を眩しい蒼になびかせた黎だった。
「僕に任せて下がってて!【羅舞渦・嵐】!」
次の瞬間,まるで世界が泣き叫ぶかのような轟音が轟き始めた。無数の渦が一気に黒龍へ直撃する。
◇
すっかり平野となってしまった森を見て,僕は改めて自分の力の恐ろしさを実感した。また,僕が来るまでこの黒竜の相手をし続けた紅煉の実力も思い知る。
じゃあ,さっき記憶の中で技を「並行発動」だか何だかした僕がどれだけ斬っても倒せなかった断雷様は化け物だな。
地に膝をつき,呆然と僕を見上げる紅煉に手を差し出し,言葉を発する。
「大丈夫か?ごめん。お前に任せっぱなしで。僕,記憶を取り戻したんだ。」
「いや,違う,お前・・・お前は,違う・・・」
「どうしたんだよ,紅煉。僕は黎。君の,1番の相棒じゃないか!さあ,行こう・・・」
「お前は・・・誰だ?」
その時,鋭い殺気が僕の心臓目掛けて飛んできた。
鋭い音とともに紅い刃が,飛んできた黒いナイフを弾いた。
「油断するな!あの程度であの方がくたばるわけ,ないだろうが!」
紅煉が苛立ったように叫ぶ。でも,不思議と不快な感じはしない。だって彼は,相棒だから。
「俺1人で倒せなかったんだ。いくらお前でも無理だ。一度ここは退いて・・・」
それを聞いて,なぜか苛立ちが込み上げてきた。僕の知る紅煉は,こんなに臆病者じゃない。
「紅煉。お前,いつからそんなに臆病者になったんだ?」
「あ゛ぁ?お前,この状況で敵を増やしたいのか?」
「お前はいつだって,戦うことを考えてたはずだ。僕と大喧嘩したのも,僕が退こうとしたせいだろ?」
「勝てなかったら意味ねぇだろ。」
「相棒。なんのために僕がきたと思ってるんだ?1人で無理でも,僕たち2人が力を合わせれば,勝てない奴なんていないさ!」
「!・・・・・・」
紅煉は顔をしかめてものすごく嫌そうな表情をしていたが,やがて不敵な笑みを浮かべ,僕の手を握った。
「今だけだ。せいぜい足を引っ張らないよう,気をつけることだな!」
思わず心からの笑みが溢れる。やはり正真正銘,彼は僕の相棒だ。
「お前こそ!」
そんな僕たちを見て,危険と判断したのだろう。黒竜は再び姿を霧の奥に隠した。
僕と紅煉は自然と背中を合わせ,互いの背後を守る体制をとる。
空気が張り詰め,静寂の中に音が聞こえるような気すらする。
焦らなくても大丈夫。この戦いにおいて,変数は僕。やつは,絶対にまた僕を狙ってくる。
僕の予想は的中した。空気を裂く音が耳元に迫り,手に持った剣で弾く。
「来た!紅煉,合わせろ!【衝天瀧昇】!」
「フン。【陥落ノ炎】」
僕の繰り出した【衝天瀧昇】は下からの斬り上げで,それに合わせてきた紅煉の技は上からの斬り下ろし。息ぴったりの剣戟に黒竜は押され始めた。
すっかり優勢になった戦場の中心で,僕は敵に刃を向け,言い放っつ。
「ここからは,僕たちの番だ。」
「クソッ。いちいち鼻に触る奴だ。」
セリフも決まり,流れは完全に僕たちのものになった。そう思っていたが,
「zazaza・・・・・・」
突如,奇妙な音が耳に入り,背筋に悪寒が走る。
追い詰めたはずの黒竜が,黒い体を揺らして嗤っていた。
黒い靄が揺らぎ,凶悪な笑みを浮かべた口元がのぞく。
「zaza・・・全力で・・・z az a・・・」
「・・・・・・!」
ぶわり、と全身に鳥肌が立つ。
なんだ?どういうことだ?このセリフは,まるで・・・・・・
いや,そんなはずはない。気のせい。気のせいに決まってる。
そうやって自分に言い聞かせても,違和感は拭えず,むしろ強まっていく。
黒竜の虚ろな瞳と視線が合う。
お前は,何だ?
その瞳に問いかけても,答えは返ってこなかった。
書きたかった場面がやっと来ました!主人公の覚醒シーン,読むのは好きですが書くのは難しいです。
表現力が無さすぎてなかなか上手く言語化できてません。
補足
黎の使う技の中でも,魚の名前のついてるやつ(羅舞渦/ラブカ とか)は,黎が自分で作り出した技です。
「蒼の覇者」というのは称号であって,黎だけではありませんが,黎は歴代最強格の才能を持っており,多数の技を作り出しています。
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黎 :脳筋野郎→相棒!
紅煉:やなやつ→誰?
何故黎はこんなにも変わってしまったのだろうか。




