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名もなき物語〜主人公のいない物語〜  作者: 真黒
第一章 「世界の“矛盾”」
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第一章 5話 「すれ違う想い」

前回の戦いから一風変わって,2つの恋を追う回となっています。

自分の表現力の無さに毎度のことながら落ち込みます。

白い光が部屋を満たし、悪魔は倒された。そのあとすぐに帰ろうとしたのだが、よくよく考えてみれば職員室の先生たちが全員倒れているというのはあまりにも異常だ。

そこで、雷たちは倒れた先生たちを一人一人不自然にならないように椅子に座らせたり立たせたりしておいて、それから魔法で全員を目覚めさせるというわけだ。

ところが。


「うっ!何だ・・・?」


先程悪魔によって打ち込まれた矢傷が、再び痛み出す。立っていられなくなり、その場にうずくまる。

愛美が眉をひそめて言った。


「やっぱり、魔法で治した方がいいね。・・・・・・雷くんは休んで。後片付けはわたしがやっとくから。」


「いや、僕は・・・・・・」


君の力になりたい。そう言おうとしたが、それよりも速く彼女は動いた。

そして、雷の額を軽く弾いた。どっと眠気が押し寄せてくる。


「いいから。わたしに任せて?」


その言葉を最後に、彼の意識は途切れた。



しばらくして、暗闇の中で雷は何かが後頭部に当たるのを感じた。


ー何だ?暖かくて、柔らかい・・・・・・


次第に意識が覚醒していく。目を開け、まだ不明瞭な視界であたりを探ると、どうやらまだ学校にいるようだった。


「ん、目、覚めた?」


愛実の顔がのぞき込んできた。さらさらの黒髪が鼻に当たり、くすぐったい。こんな光景、前にも見たことあるような、と思いながら体を起こそうとして、違和感に気づく。心なしか愛美の頬が赤い気がする。それに、口角がぴくぴくと震えている。

完全に体を起こすと、その理由がわかった。雷は、愛美の膝枕で寝ていたのだ。

そう理解した瞬間、雷は顔がかあっと熱くなるのを感じた。

そんな雷の様子を見て、愛美は満足げに微笑んだ。


「ふふ、雷くん、顔真っ赤だよ?どうしたの?」


「いや、どうしたもこうしたも・・・・・・」


雷がしどろもどろになって黙り込むと、愛美はおかしそうに笑い始めた。


「雷くん、そんな顔もするんだね。私に弟はいないけど、いたらきっと雷くんみたいなんだと思うなぁ。」


「それ、僕の台詞じゃない?」


「ふふ、バレた?」


愛美は長い黒髪をさっと肩から払いのけ、小さい子供を安心させるかのように言った。


「大丈夫、大丈夫。怪我も毒もきちんと魔法で治しといたから。」


そう言うと、彼女は右手に複雑な魔方陣を浮かべた。


「先生たちを目覚めさせて、私たちは離れよう。坂田先生の記憶は消してあるから、明日からは普通に接するようにしよう。」


雷には一つ懸念点があった。それは、坂田の記憶。教師として、生徒を襲ったという事実は彼のココロを追い詰めてしまうだろう。しかし、その心配も不要となった。雷は頷いた。


「じゃあ、帰ろっか。」


愛美は立ち上がり、そっと手を差し出した。その手を取り、雷は立ち上がった。



学校を出て、二人は桜並木の道を歩いていた。あたりは薄暗く静まりかえっており、夕焼けの最後の一瞬が終わろうとしている。そばには二人以外の人間は一人もいなかった。

歩道の模様の上をぽん、ぽんと飛び跳ねながら進む愛美を見ていると、雷はふとさっきの彼女の行動について聞いてみたくなった。


「愛美。」


「ん?何?」


子供のように飛び跳ねていた彼女は、満面の笑みで振り返った。


「さっきさ、その・・・・・・」


言いかけて、口を閉じる。


「ごめん。やっぱ何でも・・・」


「そう言われたら余計気になるじゃん。」


唇をとがらせて愛美は雷の腕をつついた。


「・・・・・・じゃあ、言うけどさ。何でさっきみたいなことしたの?」


その瞬間、愛美が体をびくりと震わせた。


「さささ、さっきのことって、えっと、膝枕?」


「あ、うん。」


愛美はしばらく指をもじもじと絡ませていたが、やがて照れくさそうに言った。


「だって、雷くんが寝てて、誰もいなかったんだもん。あんなこと、漫画とかでしかできないことだから、一回やってみたいなって思っただけで・・・・・・ごめんね!嫌だったかな・・・?」


そう言い、彼女は困ったような笑みを浮かべた。


「・・・・・・いや。」


その答えに雷は少しだけがっかりした。少しだけ、ほんの少しだけ期待していたのだ。彼女が自分に何か特別な感情を抱いていてくれているのではないか、と。


ーそうか。僕が思い上がってただけだったんだな。


「・・・・・・じゃあ、また明日。」


素っ気ない別れの挨拶の後、雷は踵を返した。愛美に当たるのは間違っている。ただ、自分の子供っぽい我儘だ。そうわかっていても、今はただこの気持ちを落ち着かせたかった。


「うん。また明日。」


愛美はそう言って明るく応えたが、雷が振り向くことはなかった。

取り残された愛美はしばらく俯いていたが、やがて顔を上げるとゆっくりと歩き始めた。


「いきなりあんな事したから、嫌われちゃったのかな・・・・・・もっと一緒にいたかったのに・・・」


彼女の声は押し寄せる風にさらわれ、雷の元へは届かなかった。




近頃、少年は学院へ行くことが楽しみになっていた。その理由は、


「■■■■!おはよ~!」


「アメリア、おはよう。」


入学式での一件以来、少年と彼女はよく行動を共にした。彼の歪んだ心も、彼女といるときだけは何故か晴れるような気がしていた。そうしているうちに、いつしか学園に入ってから5年が経過していた。周りからは幾度もアメリアとの関係について訪ねられたが、少年はいつでも微笑んでただの友達だと言った。

今のちょうどいい距離感を、壊したくなかったからだ。

そんな彼の思いを知るよしもなく、アメリアはいつも通り元気いっぱいに話しかけてきた。


「ね、ね、聞いて!あたしね、あのレイス先輩に話しかけられちゃった!」


レイス、という名を脳内でたどる。たしか、レイス・ロスノックという名のはず。中等部の1年生だ。他を寄せ付けない圧倒的な学業の才能と、運動の才能。その上、端麗な容姿。間違いなく学院の中でもトップレベルで女子から人気のある男子生徒の一人だ。


「それで、『あたし、この本が好きなんです!』って言ったら、『僕もその本読んだよ!深い話だよね。』って言われたの!これって、あたしのこと少しは気にしてるって事、だよね?」


彼女が男子生徒に話しかけられることは珍しいことではない。そのたびに彼はアメリアの相談に乗ってやっている。


「で、次はどこで会うの?」


アメリアはびしっと指を立てると、得意げに語った。


「よくぞ聞いてくれたわね!先輩もスイーツが好きって言ってたから、次は学食で会うのよ!」


「それで、君は先輩のことをどう思うの?」


彼女はしばらく首をかしげていたが、やがて一言だけ恥ずかしそうに呟いた。


「かんっっぜんにタイプ。もうこれ以上ないってくらい。」


少年はしばし考えると、思い出したように言った。


「何かプレゼント用意したら?」


アメリアは目を輝かせ、手を打った。


「たしかにそうね!プレゼントの一つも用意してないようじゃ、呆れられちゃうわね。」


「う~ん・・・・・・。じゃあ、時計だったらどうかな。実用性もあって、いいと思うけど。」


「たしかに!■■■■、天才!」


その無垢な笑顔を見ながら、少年は複雑な思いでいた。彼にはすでにわかっていた。そのレイス・ロスノックという奴は、アメリアに好意を寄せているわけではない。彼女の家柄、ロンド家が目当てなだけだ。

しかし、彼はそれをアメリアに伝えることはしない。今までも、これからもそうだ。

少年は彼女に自由に生きてほしかった。彼女はよく少年に縛られた自分の暮らしについて語った。結婚の相手だって、そのうち親に決められてしまうという。そんな彼女の恋愛の相手くらい、誰にも口出しされずに決めさせてやりたかった。たとえ、毎度のようにアメリアが泣きついてきたとしても、自分がその尻拭いをすることになったとしても彼は文句一ついわなかった。

彼は、間違いなくアメリアに好意を抱いていた。それだけは間違いない。

きっと、今回の出会いも彼女にとっては悲しい結末を迎え、いつものように少年にすがりついて泣くのだろう。それでも、少年は彼女の良き友でいたかった。たとえ、彼女が自分のことをなんとも思っていないとしても。


しかし、彼のその歪んだ恋心はやがて彼を悲劇の主人公へと仕立て上げることとなる。

愛美:膝枕って・・・・・・思ってたよりもくすぐったいっ!


アメリア:何かあっても⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎がなんとかしてくれるでしょ!(気楽)


男二人も大概だけど,女子組も大概なんだよなあ・・・・・・


追記:700PVありがとうございます!

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