第一章 3話 「悪魔狩り」
悪魔編(愛美と雷の登場する世界)のスタートラインとも言える場所です。
自分の文章力の無さに絶望しながら描きました。
中からあふれる邪悪な気配に、吐き気さえ覚える。雷と愛美は顔を見合わせ、一気に扉を開け放った。中の光景を見た瞬間、二人は大きく息をのんだ。
先生たちが一人を除いて倒れていた。その一人は、二人のよく知る人物だった。
「坂田・・・・・・先生。あなたが。」
「雷くん、気をつけて。あれは坂田先生だけど、坂田先生じゃない。悪魔が中に宿ってるの。」
坂田の見た目をしたそいつは、ゆっくりと振り向いた。
「あれレエ。お客さンが来タね。おかしイなア。ミんな帰ったはズなのにイ。」
その口から発せられたのは、奇妙に歪んだ少女のような声だった。そのあまりの異常さに、思わず眉をしかめてしまう。
よく考えてみれば、すぐわかることだったのだ。生徒が怪しまれずに毒を混ぜるなんて、できるはずもない。教師なら、その上担任なら、そこまで怪しまれずに冷蔵庫を開けられる。
「アタシねえ。ココが好きなノ。ココの悪意が。」
悪魔はそう言って、愉快そうに嗤った。
明らかに成人している男性の口から漏れる少女の声からは、一切の悪意を感じられなかった。それが、雷に一つのことを確信させた。
ーやっぱり、こいつは人じゃない。本当に悪魔なんだ。
「雷くん、来るよ!
その声で、我に返る。
「遊びは、終わりヨ。」
背筋がぞわりと泡立つような感覚がした。とっさに腕で首をかばう。次の瞬間、左腕に火箸を当てられるような痛みが走った。見ると、腕の肉が裂けて骨が見えていた。じわじわと傷が治っていくが、雷はそれには目もくれずに愛美の手をつかむと、机の下に滑り込んだ。間一髪のところで机の天板が真っ二つに引き裂かれた。
「愛美、君は離れて。後ろから攻撃を。」
「・・・・・・了解!」
パチリとウインクをすると、愛美は素早く駆けだしていった。
「さて。お前の相手は、僕だ。」
雷は、背中から黒い翼を生やし、牙を剥き出しにして嗤う悪魔をにらみ返した。
「遊んデくれるノぉ?無理ダよ。アタシに遊びで勝てるわケないンだからァ!」
悪魔は奇声を上げ、飛びかかってきた。
ー落ち着け。今朝やったみたいに、動きを見るんだ。
首を狙ってのびてきた腕をかわし、後ろに回り込む。相手の右腕をつかみ、中に投げ飛ばす。そして、
「今だ!」
雷はそう言って右に跳んだ。その瞬間、
「悪しき者たちから我らを護りたまえ!『聖なる小刃』!」
まぶしい光を放つ小刀のようなものが、愛美の手からいくつか放たれた。それらは尾を引いて悪魔の体へと吸い込まれていった。
悪魔が悲鳴を上げて地に手をつき、うずくまる。その隙を突いて雷が殴りかかった。しかし・・・・・・
「楽しイ、楽しイねェ!モっと、もっト遊ぼウよ!」
「っ!雷くんっ!」
敵が何かを唱えた。
「『闇ヲ掴ミシ双腕』」
突如として敵の両肩に黒光りする魔方陣が出現した。そして、そこから二本の腕が雷をめがけて生えてきた。物理法則だけでは予測できない、不可避の一撃。何も持たない現状では、立ち向かう術はない。
絶望からだろうか、雷はゆっくりと目を閉じていた。
職員室へ突入する直前、雷は扉を開けようとして愛美に止められていた。
「なんで止めるんだ?」
「わたしの血のおかげであなたの体は強化されてる。でも、やっぱり悪魔相手に素手で戦うのは無謀だと思うの。だから、武器を用意しておいたよ。」
そう言って彼女はどこからか片刃の曲剣を取り出した。
「これは、悪魔を倒すことのできる剣。危ないときになったら使って?」
雷が剣を手に取ると、それはどこかへ消えてしまった。
「どっか行っちゃったよ?」
すると、愛美はうなずいて言った。
「そう。その子は当に必要なとき以外は使えないようになってる。でも、もしも使わなければいけないときが来たら……その子の名前を呼んであげて……。その名前は、」
雷は目を開き、そして叫んだ。
「ファルシオン!」
銀色の光が煌めき、名前を呼ばれた剣は少年の手に現れた。悪魔の双腕は雷の手にある曲剣、ファルシオンに受け止められていた。
そのまま一閃し、魔法で出てきた腕を切り落とす。さらに続けて敵の体に剣を振り下ろそうとしたところで、ある事実を思い出した。
ーこの悪魔の体は、坂田先生なんだ。
一瞬だけ、剣が止まった。その一瞬を、悪魔は非情にも見逃さなかった。
黒い魔方陣が再び開かれ、そこから数本の矢が飛び出してきた。そして、その矢は寸分違わず雷の心臓を打ち抜いた。
ーくそっ。しくじった!どうすれば・・・・・・
「雷くん、頑張ったね。後は任せて。」
その声とともに、職員室の床を覆うほどの巨大な魔方陣が展開された。
「『悪を祓う滅印』!」
白い光が、あたりを満たした。それとともに、雷の意識は遠のいていった。
「・・・くん、雷くん!」
「ぅ、ん。」
雷が目を開けると、外はもう完全に夜になっていた。頭を振りながら体を起こす。
「あっ、急に起き上がっちゃ駄目だよ。毒もまだ完全に抜けたわけじゃないんだし。」
「毒?あっ、もしかしてあの矢が?」
愛美はこくりと頷いた。胸をなで下ろした雷だったが、ふと、一つのことを思い出して思わず大声を出してしまう。
「坂田先生は?大丈夫なのか?」
「あ、大丈夫。今回の悪魔は、そこまで上級の悪魔じゃなかったから魔法で無理矢理引き剥がしても後遺症とかないよ。」
「そっか・・・・・・。」
ー今回の悪魔は、あれでもそこまで強くなかったのか。
「愛美、僕さ。あのとき、先生の中身は悪魔だってわかってた。でも、見た目が人だったから、剣を振れなかったんだ。今回は助かったけど・・・・・・一人ならこうはいかない。僕は、あのまま剣を振り下ろすべきだったのかな?」」
それを聞いた愛美は少し驚いたような顔をしたが、やがてうなずいた。
「うん。」
彼女の言っていることが正しいのだろうということは雷にもわかっていた。しかし、どうしても認められないことが人にはある。
「じゃあ、坂田先生は死んでもよかったって言うのか!」
突然怒鳴られたことで愛美は一瞬体をびくりと震わせたが、慌てて首を振った。
「違う、そういう意味じゃない!あの剣は、人には無害なの。人の体を切ろうとしてもすり抜けちゃうの。」
雷は、やり場のない怒りがしぼんでいくのを感じた。
「ごめん。何も知らなかった。」
「ううん。いいの。」
そう言って愛美は手を差し出した。
「帰ろっか。」
◇
二人が去ってしばらくした後の職員室を誰かが見ることがあれば,不思議な光景を目にしただろう。
幼い少女の姿をした影のようなものが机に座り、足を揺らしていた。
「アタシ、悪いことをしちゃったのかな。遊び出すと周りが見えないって、よく言われたもんね。」
そう言って涙を流す少女は、先ほどまでの歪んだ悪魔とは思えないほどに純粋だった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
風が開いたままの窓から吹き込み、花瓶の花を揺らすが、少女の髪が揺らぐことはない。
「遊んでくれて、ありがと・・・・・・」
風がやんだ職員室には、今度こそ誰もいなかった。
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追記:500PVありがとうございます!




