序章 10話 「迫る魔の手」
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雷が教室に入ると、みんなが一斉にこちらを向いた。男子の集団が雷を素早く囲むと、教室の隅へ連れて行った。誰もが好奇の視線で雷を見ている。一人が、口を開いた。
「真雲、ニュースでやってたのって、お前と宵月さんだよな?」
しばらく迷ったが、雷は頷いた。嘘をついたところで、ごまかしきれないだろう。途端にあたりがざわめいた。
「お前、宵月さんと付き合ってるのか?」
敵意をむき出しにして、もう一人が尋ねた。見れば、周りの男子はほとんどが妬むような表情で雷を睨んでいる。どうしたものか、雷が困っていたその時だった。
「みんな、おっはよー!」
教室の扉を大きく開け放ち、愛美が入ってきた。雷の周りを囲んでいた男子は舌打ちをすると、愛美の方に行ってしまった。
雷はさっさと自分の用意を済ませると、席に座ってふてくされていた。
ーみんな、何だよ。僕が幸せ者みたいに。死ぬほど痛かったんだぞ。本当に死にかけたし。
愛美と特別な関係にあることが嬉しくないと言えば嘘になるが、悪魔と戦うというとてつもない仕事もあるのだ。そう大声で叫びたかったが、愛美のことを思うとそれもできなかった。
いつものように本を読む気にもなれず、人差し指で机を強く叩いていると、愛美が目の前にやって来た。
どこか不安そうな表情を浮かべて、愛美は言った。
「ごめんね、雷くん。私のせいでこんなことに巻き込んじゃって。私からも、雷くんに嫌がらせしないでって言ったから、少しはましになると思うんだけど・・・・・・」
雷は反省した。愛美は、この場合何も悪くない。むしろ、愛美が送っていくと言ったのを頑として受け付けようとしなかった自分の方に非があるとまで考えていた。それに、悪魔と戦うことを最終的に決めたのは、自分自身だ。
「大丈夫だよ。ごめん、心配かけて。」
雷の言葉を聞いて、愛美も少しだけ笑顔を見せた。が、すぐに真顔に戻ると、愛美は声をひそめて言った。
「実はね、雷くん。この学校に悪魔がいるみたいなの。」
言われた内容を理解できず、雷は瞬きを数回繰り返した。やがて脳にその言葉が浸透すると、雷は椅子を蹴り倒してしまった。大きな音が鳴り、みんながこちらに注目する。慌てて椅子を直し、雷は愛美を連れて廊下に出た。そのまま渡り廊下を渡り、体育館の裏へ向かう。誰もいないことを確認してから、雷は改めて愛美に向き合った。
「こんなところにも、いるの?」
恐怖よりも先に、驚きが頭を支配していた。大体悪魔がこんな昼間に堂々と出てくるなんて、考えづらい。ところが、愛美は意外なことを聞くといった表情で頷いた。
「うん。だって、悪魔って言うのは人の負の感情を食べて生きてるんだよ?学校みたいに、人がいっぱい集まるところはそういったものがどうしてもたくさん集まるからね。自然と強い悪魔が寄ってくるんだよ。」
当然だよ?と言うような目線で愛美は雷をちらりと見た。
「具体的に、どんな能力を持ってるとか、わかる?」
雷が尋ねると、愛美は大きく頷いた。
「まず、雷くんは悪魔について詳しいことは知らないだろうから、教えるね。悪魔には、7つの種族がある。憤怒、傲慢、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、そして、色欲。
悪魔の種類は、人の七つの大罪の種族に別れている。それぞれの種族には、一番強い「魔王」と呼ばれる存在がいて、種族を支配しているの。で、今回の悪魔は、多分「怠惰」の種族。精神攻撃を得意とする種族だよ。」
思っていた以上に内容が複雑で、雷は困惑した。少しだけだが、聞いたことのあるような話も混じっている
「わたしは、魔王には絶対に勝てない。魔王でなくても、中級以上の悪魔には勝てないと思う。それは、わたしの力が、魔法に特化したもので、近接攻撃が苦手だから。
強い悪魔は身体能力も高いから、わたし一人では倒せない。
だから、雷くんの助けがいるの。雷くんにお願いしたいのは、悪魔との近接戦闘。わたしが遠距離で魔法を撃つから、雷くんはわたしに攻撃が当たらないように動いて欲しい。」
雷は一呼吸置いて、頷いた。
「要するに、相手を羽交い締めにして、捕まえればいいんだね?」
愛美は一瞬困惑したような顔をしていたが、やがてこらえきれなくなったのか笑い出した。一向に笑い止む気配がないので、雷はどうしたものかと迷っていたが、彼女が胸に手を当てて苦しそうにし始めるとさすがに心配になり、そっと背中を叩いてやった。
どうにかおさまると、愛美は涙のたまった目で雷を見た。
「そんなにおかしかった?」
雷が聞くと、愛美はおかしそうに口元を押さえながら頷いた。
「だって、今まさに殺し合いの話をしてるのに、そんな子供のけんかみたいなこと、言い出すんだもん。普通の人は悪魔がここにいるなんて聞いたら、すごく怖がると思うよ?」
そう言って微笑むと、愛美はふっと真顔になった。
「悪魔の気配が強くなってきてる。まだ、誰がその悪魔なのかはわからないけど、きっともうすぐ行動を起こしてくるに違いないから。この封印を渡しとくね。」
そう言って、愛美は折り紙くらいの大きさの紙を取り出した。そこには、複雑な模様が刻まれていた。
「これは、悪魔の精神攻撃から雷くんを守ってくれると同時に、触れた人を悪魔の支配から解放できる。持ってて。あと、わたしが合図したら、どんな状況でもすぐに動いて。」
雷は頷いて、拳を突き出した。
「わかった。僕も、できるだけのことをして、君を護るよ。」
愛美もうなずき、小さな手を握って拳を合わせようとした。その時、チャイムが朝礼を告げる場の空気を引き裂いた。愛美はあっと小さく息を呑み、手を下ろすと教室めがけて走り出した。
雷は少し寂しい気持ちで、その背中を追いかけた。
朝礼には、ぎりぎりで間に合った。
ただ、さっき雷に絡んできた男子たちは、愛美と雷が一緒に入ってきたところを見て盛大に顔をしかめた。その中心にいた一人の視線が、雷はなぜか、ずっと忘れられなかった。
ぎすぎすした空気の中、先生が教室に入ってきたので、朝礼が始まった。
【雷くん、伏せて!】
突然愛美の声が頭に響き、雷は驚いた。愛美に視線を送ろうと思ったが、直前に言われた言葉を思い出す。ーどんな状況でも、すぐに動いて。
雷は、素早く伏せた。その直後、雷の頭があった場所を花瓶が通過していった。壁に当たって砕け散った破片が頬を裂き、血がすっと流れる。突然の襲撃にぞっとしながらも素早く振り返り、襲撃者を確認する。
先程雷のことをしきりに睨んでいた男子が、立ち上がってこちらを無表情で見ていた。
「笹尾!なにやってるんだ!」
先生の驚いたような怒鳴り声で初めてそいつの名前が笹尾ということを知る。
【早く、封印を!】
愛美の声で我に返り、そっと右手に封印の紙をしのばせ、立ち上がる。先生の声にも表情を動かさずに笹井は殴りかかってきた。その手の軌道をそらし、さりげなく右手の封印を押し当てる。するとその瞬間に彼は糸が切れたかのように崩れ落ちた。
雷は怯えたふりをして離れ、先生に目を向けた。先生は強張った顔でうなずき、笹間を担いで保健室へと向かった。
先生がいなくなると、教室は騒然となった。皆、突然の事態をまだ信じ切れていないようで、興奮した口調でしゃべっている。そん認する。
先程雷のことをしきりに睨んでいた男子が、立ち上がってこちらを無表情で見ていた。
「笹尾!なにやってるんだ!」
先生の驚いたような怒鳴り声で初めてそいつの名前が笹尾ということを知る。
【早く、封印を!】
愛美の声で我に返り、そっと右手に封印の紙をしのばせ、立ち上がる。先生の声にも表情を動かさずに笹井は殴りかかってきた。その手の軌道をそらし、さりげなく右手の封印を押し当てる。するとその瞬間に彼は糸が切れたかのように崩れ落ちた。
雷は怯えたふりをして離れ、先生に目を向けた。先生は強張った顔でうなずき、笹間を担いで保健室へと向かった。
先生がいなくなると、教室は騒然となった。皆、突然の事態をまだ信じ切れていないようで、興奮した口調でしゃべっている。そんな中で雷が1人で割れた花瓶を処理していると,愛美がやってきて一緒に片付け始めた。
「大丈夫?ほっぺた,血が出てるよ。」
そう言われると,急に傷が痛み出した。思わず顔をしかめると,愛美は心配そうに雷の頬に手を伸ばした。そして,とても小さな声でつぶやいた。
「『|治癒《ヒール』,『偽装』」
彼女の手が傷をなぞっていく。それとともに痛みは消えていき,流れる血も止まった。
「魔法のことがばれないように,見た目はそのままにしてあるからね。」
愛美は子供を見るような目で微笑んだ。彼女の優しさがなんだかくすぐったく感じて,雷は下を向いた。
「俺も手伝うつもりで来たんだけど,お邪魔だったな。」
頭の上から声が降ってきて驚き,顔を上げると見慣れた純也の顔があった。思わず愛美と口を揃えて否定してしまう。
「「いやいやいや。そんなんじゃないから!」」
くすっと笑う声がして振り向くと、浅野佳奈がちりとりとほうきを持って立っていた。
「息ぴったりじゃん。私も手伝うから、早く終わらせよっ!」
純也と浅野も手伝ってくれたので、片付けはかなり早くに終わった。
「助かったよ。ありがとう。」
「いいってことよ。人見知りな愛美と仲良くしてくれてるんだから。」
それを聞いて、純也が声を潜めて聞いてきた。
「おい、宵月さんって、人見知りなのか?そうは見えないぞ?」
思わず苦笑する。確かに、みんなの前ではアイドルみたいに振る舞っている。とても人見知りとは思えないだろう。
「わっ。」
その時、浅野が花瓶の水で足を滑らせた。その瞬間、純也がさっと動いて彼女を支えた。
「大丈夫か、浅野?」
「う、うん。」
浅野が頬を赤らめてうなずいた。
雷の目からも、はっきりとわかった。どうやら愛美も同じことを思ったらしく、目が合う。
・・・・・・絶対に浅野は純也のことが好きだ。
「その、ありがとう。」
「いや、当然のことだろ。足元には気をつけろよ。」
そう言って浅野の背から手を離すと、純也は素早く雷のもとへやって来て、少し離れたところへ来るように促した。その目には訝しむような色が宿っており、雷の心も不安になった。
ーもしかして、バレたか?
愛美を見ると、彼女はこわばった顔でうなずいた。覚悟を決めて、雷は純也について行った。
早く序章を終えたいので,今日は連続投稿しました。
追記:200PVありがとうございます!
追記 re:今更ですが,抜けてるところがあったので直しました。すみません。




