1?話 熾火
はじめまして。Kuromakuと申します。
この度は中学校の卒業研究を兼ねて小説の投稿を始めました。
感想やアドバイスなどいただけると幸いです。
文章の拙いところなどあるかと思いますが、生温かい目で見守ってください。
自分の人生が、誰かの作り出した物語だとしたら、もしも未来が全て決められているとしたら君はどうするだろう。自分にはどうすることもできないことだと諦め、全てを忘れようとするだろうか。それとも、自分を操る誰かを倒し、定められた未来から抜けだそうとするだろうか。
創造者が自分の未来を良い方向に導いてくれるのならば、成り行きに身を任せても良いかもしれない。しかし、いつでもそうとは限らない。
もしも、創造者が自分たちを消し去ろうと目論んでいたとしたら・・・・・・
それでも、君は黙って一つの駒でいられるだろうか?
焼け焦げた紙片から、かろうじて読み取ることのできる文字。それはこの滅んだ世界の名残。
太古の昔、人間は現代よりも遙かに優れた文明を築いていた。自然と調和した美しい町並みや大きな建造物。その名残は現代にも数多く残されている。発達した文明を持ちながらも人々は自然を愛し、自然に寄り添った生活を好んだ。
しかし、発展しすぎた文明はいつの時代も滅亡する運命にある。この時代も例外ではなかった。映画や物語の世界に擬似的に入り込むことのできる娯楽が主流となり始めたころだった。とある物語がその機械に入れられた瞬間に暴走し、現世へと侵出してきたのだ。物語より出でた怪物たちは世界中に蔓延り、人々の築き上げてきた文明とかけがえのない自然を破壊し始めた。発展した文明の力も現世の理の通用しない怪物たちにはかすり傷すら負わせることはできず、奴らの体を通り抜けるばかりだった。その特性から、怪物たちは残影と呼ばれるようになった。
築き上げてきた文明を失った人々は長い逃亡と放浪を始めた。
それからどれだけの時が経っただろうか。豊かな暮らしに慣れた人々が苦しい生活に耐えられるはずもなく、多くの死者が出た。絶望の中で彼らは祈った。自分たちを救ってくれる「希望」の到来を。
彼らの願いは叶った。しかし、その日のことを知る者はもう残ってはいない。
空の彼方から強烈な光が飛来し、残影たちはその光から逃げ惑う。激しく傷つき、冷たい風の吹きすさぶ大地に暖かな太陽のような光が舞い降りる。こうして人々の前に圧倒的な力を持った「希望」たちが顕現した。しかし、それらは実体を持たず、現世へと干渉をすることができなかった。
「希望」たちは名を求めた。名があればそれらは実体を得ることができるのだという。人々はそれらに自然の力を自由に操るといわれる古の神獣の名を与えた。「竜」と。そして、自分たちと美しい自然を守ってほしいと告げた。竜たちは言った。
「我らの命のある限り、この地とそなたらを庇護しよう。我らの力でこの世を照さん。」
名を得た竜たちは、人々を蹂躙した怪物たちと壮絶な戦いを繰り広げた。彼らの力は大自然のものと酷似しており、炎や、水、雷、風など様々だった。残影たちは再びその恐ろしい力で竜たちに襲いかかった。しかし、竜たちに対するあらゆる攻撃は一向にとどかず、かすり傷一つ追わせることはできない。
一方で残影たちは次第に消耗していく。勝敗は火を見るよりも明らかであった。
長きにわたる戦いにおいて、勝利したのは竜たちの方であった。怪物たちは決して光の差すことのない深淵へと退却した。こうして、怪物たちによる被害は一時的におさまった。この戦いは後に「天地開闢の戦い」と呼ばれるものである。
勝利を手にした竜たちは、人々へ報告するために帰還した。しかし、彼らの眼に映ったものは悲惨のみであった。戦いの余波で大地には深い傷が刻まれ、辺りは不毛の荒野と化していた。わずかに生き残っていた人々もあまりにも強大な力のぶつかり合いに巻き込まれ、命を落とした。竜たちは嘆いた。自分たちが守ると誓ったものを、彼らは自らの手で葬り去ってしまったのだ。竜たちの涙は雨となり、大地を潤した。
やがて自然は元通りに生い茂ったが、失われた文明やいなくなった人々は帰っては来なかった。竜たちは誓った。人々に託された自然を、しつこく付け狙う怪物たちから守ることを。
竜たちはほとんどの動物が死に絶えた世界を統治することにした。
幾世紀もの時が過ぎ、動物の息のなかったこの世界に、少しずつ動物がよみがえってきた。動物たちは竜が自分たちを守護してくれていることに気づいていた。そのため、自然と竜は数多の生物の上に君臨する生物となった。
やがて、竜たちの間で人でいう国のようなものが創られた。その国を統治したのは、竜のモデルとなった神獣である「龍」の天龍であった。
天龍は八つの首を持ち、空間を操るという想像を絶する力を有していた。その眼にはほかの竜たちには見ることのできない高次元の世界が映っていた。その眼差しは時をも超え、未来を見通すことができたという。
しかし、彼は決して見たものを他人に話すことはなかった。未来に見えたものは起きなくてはならない事象。自分に都合が悪いからと言って書き換えるようなことはあってはならない。
あらゆる点において彼はとても賢明な王であった。
しかし、ある時を境に彼の力が衰え始めた。それは、天龍自身にも予想できなかった事態。そんな未来が訪れるはずはなかった。
やむを得ず彼の息子が王位を継ぐこととなる。しかし、それが新たな悲劇の始まりであった。
窓から吹き込む風に、ページがあおられる。少年は書きかけの原稿を置いた。これから起こる悲劇についてまだ彼は知るよしもなかった。
彼が自分の未来を知っていたならここで書くことをやめただろうか。
いや、そんなこと、できはしない。これは彼に課された役割。彼自身もまた物語の駒でしかない。この物語に登場する以上、彼は登場人物として彼は意図せずとも物語を書き続ける。いや、書かなければならないという方が正しいだろう。彼の運命は、すでに決められていたのだから。
物語と現実をつなぐ扉が閉じようとしている。ここから先は引き返すことのできない世界。進むのならあなたももう出ることはできない。
この世界でのあなたは「登場人物」たちから存在を感知されることはない。彼らにとってあなたは外の存在だ。しかし、あなたという「読者」がいなければこの物語は「進行」することができない。
あなたに課された役割はこの物語の結末を見届けること。
これを読み始めた時から、あなたももう逃れることはできない。
清々しい青空の下。僕の心境はそれとは対照的に暗雲に沈んでいた。僕の手の中で、それは元々存在すらしていなかったかのように消えていった。僕はまたしても守ることができなかったのだ。やるせない感情が止めどなくあふれ出る。
僕には力があったはずだった。少なくとも、ここでは。でも、思い込みだった。あちらでの僕と同じように、僕には才能も力もなかった。ただ、平凡な一人の少年。
拳を地面にたたきつける。石に当たり、手に血が滲みだす。しかし、その痛みすらどこか人ごとのようだ。僕がこの世界の存在ではないからか?
「お前は何も悪くない。俺のせいだ。俺があんなことにならなければ・・・・・」
僕をなぐさめてくれる声。それでも、僕の暗い気持ちが晴れることはない。僕が今までしてきたことは、全て無駄だったのか?これまでの思い出は、全て虚像だったとでも?
また、あの退屈極まりない、何の取り柄もない元の僕に、戻されるのだろうか。少なくともこの世界では、僕はモブなんかじゃなかった。僕にしかできないことがあったのに。
視界がゆっくりとにじみだす。涙が溢れ、止まらない。何も残っていない右手を握りしめて、僕はうずくまった。
それからどれだけの間そうしていたのだろうか。1日のようにも、数分のようにも感じた。僕の耳に聞こえてきたのは、砂が落ちるときのようなサラサラという音だった。疑問に思い、辺りを見回す。
一瞬、目を疑った。僕の目がおかしくなったのか、そうでなければ夢を見ているに違いない。僕の周りの景色が、灰になって崩れ落ちていく。そして、側にいた仲間たちも。
「待ってよ・・・何で消えちゃうんだよ!」
必死に手を伸ばし、叫ぶ。そんな僕をあざ笑うかのように声は無数の灰の音に押しつぶされた。慌てて書き直そうとするが、思考すらもその灰の音に埋め尽くされた。次の瞬間、僕は世界に灼け落ちた穴から世界の外側へと落ちていった。
頬に触れる紙の感触で僕は目を覚ました。僕は、自分の机に向かって座っていた。時計の針は一秒たりとも進んではいなかった。僕のしたことは、全てが夢だったのかと錯覚しそうになる。でも、こんな鮮明な夢があるはずがない。あってたまるか。僕は何年もの間、この物語の中で、・・・物語で・・・。
頭の中から、記憶が消えていく。
駄目だ、待ってくれ。僕にはもう・・・何も・・・
その時、彼の頭の中から悲しみの根源が音もなく完全に消え失せた。
ふと、正気に戻る。僕は何を言っているんだ?僕はただ居眠りをしていただけじゃないか。何をむきになっているんだ。疲れているんだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
なぜだろう。なぜこんなに悲しいんだろう。なんで涙が止まらないんだろう。僕は、何を考えているんだ?
ただ、ただ涙があふれる。やるせない気持ちは、やがて苛立ちへと変わる。僕は目の前に置いてあった、所々灼け落ちて見えなくなった原稿用紙を破り捨てた。
苛立ちがしぼむと、入れ替わるように喪失感が広がる。僕の心には、空虚な闇だけが残された。
悲しい未来は、もう見たくない。今の僕なら書き変えられるはず。全てを無かったことにしよう。悲しい記憶全てを。悲しむのは終わりだ。みんなの笑顔を、もう二度と失わせはしない。過去の僕が気づいてくれることを信じて、この呪われた輪廻が断ち切られることを願って。
今の僕がどうなってしまおうが、どうでもいい。これが僕にできる最初で最後の償いなのだから。
僕が始めた物語は、僕が終わらせる。
青い瞳の彼は焼け焦げた紙片を握りしめた。
全てを書き直そう。
【黒刃と白刃の交わるとき、世界は再び厄災に呑まれる】