賽の河原
少年は死んだ。生まれながらに病に蝕まれ、その運命を誰もが嘆いた。
しかし少年は、死んだ。
途方も無い行列に並び、少年は閻魔大王の眼前に立った。
「私は持って生まれた病で命を落としました。最善は尽くし、出来る限り清く生きました。あなたもご覧になっていたのでしょう。」
実際、その言葉には一片の偽りも無かった。少年は一度も嘘をついたことのない正直者であったし、万物への感謝を忘れたこともなかった。
閻魔大王は、ふいと指を振った。
少年の身体は吹き飛ばされ、地の底に叩きつけられた。
辺りを見回し、そこが賽の河原であると悟ると、少年は叫んだ。
「どうしてですか。何がいけなかったのですか。」
沈黙する閻魔大王に代わって、隣で石を積んでいた子供が少年に告げた。
「叫んだところで閻魔大王には届かない。あれは聞く耳も、語る口さえも持っていない。」
「僕はここに居るべきじゃない。」
「君が賽の河原に落ちたことに理由はない。そんなもの知りようも無いし、極楽には永遠と辿り着かない。地蔵菩薩も現れない。」
「それなら、何もせず過ごせばいいじゃないか。」
「何もしないなら、それは石だ。」
深い絶望の中、少年は石を手に取り、積み上げた。
二つ、三つと積んだあたりでふいに獄卒と目が合った。
獄卒は金棒を振り上げると、積み上げた石と少年を一振りで砕いた。砕けた少年の体はすぐさま再形成された。痛みは癒えず、しかし意識は保たれる。
苦痛の中、少年は隣の子供に尋ねた。
「なぜ獄卒はこんなことをするんだ。何の意味があって僕らを傷付けるんだ。」
彼は手を止めず、答える。
「全ては賽の河原の住民なのさ。」
彼は石塔を積み上げ、黙って獄卒を待っている。
獄卒は石塔を砕いた。彼はまた石を積み始める。
始終、少年はただ立ち尽くして、それを眺めていた。
石塔は崩された。しかし、石は積まれる。
故に賽の河原に在り続けている。
少年は河原を見つめた。
少年は石を手に取る。
獄卒は少年を砕く。
砕けた体が少年を象る。
少年は石を手に取る。