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何も知らない忌み子の子  作者: 田原 登
鬼渡し編
9/79

8話 実行犯は何処へ?

 校舎に張り巡らされた爆弾が、同じタイミングで一気に爆ぜた。


 一瞬閃光が走ったかと思えば、すぐさまそれは炎へと変わり、頭が割れるような轟音と共に爆発した。その際に出た火花は、赤や青や緑やピンクと様々な色が入り混じっていた。夜空を彩るはずの花火が、建物の中で破裂したようだった。

 すべての窓ガラスが一瞬で外に弾け飛び、校舎の壁も崩落は辛うじてしなかったものの至る所にヒビが入った。

 黒い煙がモクモクと天高く昇り、校舎の一部は火の海に包まれ焦げ、元の状態がわからないほど黒く変形していた。



 練摩(れんま)百良(ももら)に抱え込まれながら、空中を一瞬散歩していた。

 そしてすぐさま、前方の斜め下への軌道を緩やかに描いて、二人の体は落ちて行った。



「ぃいやぁあああ!!! 落ちてるぅ~!!」

「うるっさいなぁ大丈夫だからっ!!!」



 近づく地面に練摩は両手で両目を押さえながら泣き叫ぶ。そんな練摩を百良は乱暴に(なだ)め、地面に目を向ける。

 校庭のど真ん中。草が一本も生えておらず、石と砂しかない平地。二人が降り立とうとしている地点には、何人かの児童が怯えながら百良たちを見上げていた。

 そんな児童たちに「そこに居んの邪魔だよどいてぇ~!!!」と百良は大声で促した。児童たちは二人の着地点を、囲むように円状にはけて空間を作った。



 段々と地面に向けて加速していき、遂に地面と接触する。



 百良は練摩を抱えていることもあって、受け身をして勢いを殺すようなことはせず、二本の脚で着地した。脚を肩幅ほど開き、足裏全体が地に着いた時に膝を曲げ最低限の衝撃を流した。風呂の蓋を開けた時の湯気のごとく砂ぼこりが大量に舞い、百良の足が降りた地面にはヒビが入る。着地は出来たもののバランスを崩し、百良は「あだっ」と尻餅をついた。


 何の変哲もない人間であれば、建物の四階という高さから飛び降りただけで何かしらの怪我はほとんど(まぬが)れない。ましてや飛び降りて二本足で着地する時点で、膝の骨がバラバラに砕け散り立つことすら(まま)ならなくなる。鎖羅木(さらぎ)家という謎に包まれた遺伝子を持つ百良だからこそできた芸当だ。

 現に百良には、膝に少し痺れが生まれただけで、骨や筋肉などには何の異常もない。

 

 ざわめく教師や児童の人ごみをかきわけ、照稀(てるき)が二人に駆け寄ってきた。


「練摩くん! 百良ちゃん!」

「あんたは……え~っと、同じクラスの……誰だっけ」


 百良が普段話さない相手だということもあり、照稀の名前は(おぼ)えられていなかった。


八百野(やおの)照稀(てるき)です……」


 と認知されていなかったことに少し悲しみガクッと肩を落とした照稀。照稀の自己紹介の声は気を失いかけていた練摩の耳に届き「てるくん……?」と顔を上げた。


「あ、あんた抱えてたの忘れてた」


 百良は素で練摩のことを忘れており、右腕から練摩を開放した。その流れが前ぶれも無かったため、練摩は「ぐへっ」と重力に従い地面に腹を軽く打ち付けた。



「というか、二人とも大丈夫⁉ 飛び降りてきたし、その血は…………」



 照稀は練摩と百良の体に付着している血を見て青ざめた。

 「え~これは…………」と二人はどう言い訳しようか目線を合わせて考える。しかし、どんな案もそんな即座に浮かばずただ苦笑するしかなかった。


 そんな時、練摩が一回大きなクシャミをした。


 汗をかいた体が外の風に当たって冷えたことで放ったクシャミ。その一瞬、体全身が(こわ)張り右手を強く握る。


 とそこから「う゛うぁ゛」と閒盧(あいろ)の呻き声が聞こえた。


 練摩の右手に収まっていた閒盧の体が圧迫され、絞り出されるように声が漏れた。


「えっ? 今の声なに? 誰?」


 閒盧の声が聞こえた照稀は、聞き慣れない声に辺りを見渡す。



 練摩は「あっ! ごめんなさい!」と自分の不注意で握りしめてしまったことを謝り、咄嗟に右手を開いてしまった。

 一瞬の出来事であったが、百良は見逃しておらず「おい! ちょっと練摩⁉」と声をだす。練摩もすぐさま「あっ!」と声をあげた。練摩の手から、黒い極小の物体が飛び出す。



「やっと解放してくれたな。もう私がここに居る理由はない。とっとと帰らせてもr」



 閒盧の台詞は途中で途切れた。

 飛び出た閒盧の様子を追っていた練摩と百良は、口をあんぐりとあける。



 前方を見ていなかったのか、閒盧は勢いそのまま照稀の開いた口の中に突っ込んで入って行ったのだ。



 数秒間流れる沈黙の間に、風が吹き砂ぼこりが漂う。

 状況を整理する間もなく、練摩と百良は照稀に駆け寄った。


「えぇ~⁉ ちょっと~⁉」


「こんにゃろ今度は照稀の体に入りやがって! 出てけ出てけ!!!」


 焦る練摩と、照稀の背中を強くバシバシと叩く百良。

 照稀の体を乗っ取り、何かを要求してくるのではないかと気が気でなくなる。



「痛い! 痛いって百良ちゃん! 急になんで叩くの⁉」



 そう照稀は言い、混乱しながら練摩のそばへ近寄る。

 その声は紛れもなく照稀のもので、その行動も先程までの閒盧がやるような行動ではない。

 「あれ?」と百良が呆けた声を出す。


「て、てるくん……? てるくん、だよね?」


 練摩が恐る恐る話しかける。


「え? そ、そうだけど、どうしたのいきなり?」


 練摩と百良は目を合わせる。確かに見間違いではなく、閒盧は照稀の口の中に入った。てっきり操傀儡(そうくぐつ)が行われ、照稀の体が閒盧に支配されているのかと思っていた。


「てるくん……てるくんの誕生日っていつ?」


 練摩は照稀の両肩を掴み、質問を投げかけた。


「え? は、八月二十八日だけど」


 何故突拍子もなくそんなことを聞いてくるのか、照稀はさっぱりワケが分からなかった。


「じゃ、練摩(ぼく)の誕生日は?」


「確かバレンタインデーのときだから、二月十四日でしょ?」


「てるくんの好きな食べ物は?」


「うまい棒のチーズ味…………って、なんで急にそんな事聞くの?」


「…………間違いない。てるくんだ……!」



 練摩は照稀に質問を投げかけ、その即答ぶりから照稀本人であることを確認した。


 練摩と百良はただただ困惑した。ただそれ以上に、この場の状況を何一つ理解できていない照稀は更に困惑していた。


「だとしたら、閒盧(あいろ)さんは一体どこに?」


「どうせ私たちが見逃しただけで逃げたんでしょ。てか、なんであんな奴にさん付けするの」


「ついクセで……」


 練摩は苦笑いした。



 その後、救急車、消防車、パトカーなどが何台も小学校に来た。迅速な対応で火は瞬く間に消え、怪我人 (主に教師)は病院へと運ばれていった。


 児童は強制的に下校を余儀なくされた。ただ練摩と百良は先生に止められ、警察の事情聴取を受けることとなった。

 閒盧はその場に自身の痕跡を一切残さず、微かに残っていたところで爆発の影響で監視カメラも吹き飛び、証拠は隠滅された。完全犯罪になることだけは防ぎたいと、警察は練摩と百良に詰め寄り質問攻めをした。

 先程までは警察に通報するなど(わめ)いていた百良も、実際こうなると警察にどう説明すれば良いか分からず口ごもった。練摩も同じく、口を開かなかった。


 あの閒盧の様子を見る限り、閒盧は()()()()()()()()()このような事をした。だから許されるかと言えばそのような事は無いのだが、少し不憫に感じてしまう部分も多少あった。



 練摩と百良は『おじさんのお面をつけたフードを被った怪しい人をみた』とだけ伝えた。

 閒盧の名前は出さなかった。


 どのぐらいの身長だったかだの、声はどのような声であったかといった質問はされたが、その人の名前はなんだ、なんてストレートな質問はされなかった。知ってる人かなどはそれとなく聞かれたが、正直に、知らない人だと答えた。


 


 こうして、突如始まった鬼渡しはあっという間に終わりを迎えた。

 まさしく、嵐が過ぎ去ったのだった。

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