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何も知らない忌み子の子  作者: 田原 登
鬼渡し編
6/79

5話 練摩と閒盧

「思ったけどさ、」


 謎の人物閒盧(あいろ)との鬼ごっこが始まった時、百良(ももら)練摩(れんま)に話しかけた。


「あんな不審者追いかけるよりも、その爆弾のスイッチとやらを自力で探し出した方が楽なんじゃない?」


 確かに、と練摩が頷く。逃げる閒盧は爆弾のスイッチを持っているのではなく、スイッチの在処を教えると言っていた。



「でも、わざわざ教えるって言うぐらいだから、そんな簡単なところに隠してないんじゃないかな。校舎だって広いし、そもそもスイッチがどんな形や大きさしてるか分からないし、十五分しかないし、在処を教えるとか言って自分自身で持ってますとかって可能性も……」


心配性の練摩は様々な懸念を危惧する。普段口足らずのような喋り方をしているというのに、やけに饒舌(じょうぜつ)な練摩に百良は苦笑した。


「でも仮に見つけられたらよ? そっちの方が断然いいと思わない?」


「まぁ……見つけられたらの話だけど」


「だから、スイッチを探す係と、閒盧(あいつ)を捕まえる係の二手に分かれるってのはどう? あんたはこの学校の事を知り尽くしてるはずだし、私は脚に自信がある。適材適所だと思わない?」


「う~ん……」


 練摩は頭を抱えたが、こうして今現在も時限爆弾のリミットが刻々と近づいているのを考えると、深く考えたり百良と意見を衝突させてる暇などなかった。


「分かった。その作戦で行こう!」


「よし! そうとなれば早速決行だ!」


 百良は勢いよく音楽室を飛び出して行った。練摩は音楽室を一通り漁り、怪しいものが無いかを確認してから校舎内を探索し始めた。




 そして、案の定。


「見つかんないよ~!!」


 各教室、図書室など、様々な場所を急ぎ足で見たがそれらしきものは全くと言っていいほど見つからなかった。練摩に流れる鎖羅木(さらぎ)の血のおかげで一般人と比べ身体能力が上がっており、素早く辺りを確認すること十分弱。それでも中々見つからない。


 いくら身体能力が高いと言っても、体が思考に追い付かず精神的な疲れを感じ息を大きく吐く。スタート地点の音楽室の前に戻ってきた練摩は、廊下の壁に寄りかかり、疲労を少しでも回復させようとしゃがみ込んだ。



「貴様一人で見つけられるわけないだろう」



 と、突如声がした。一瞬のうちに、真横に閒盧(あいろ)が現れていた。

 練摩は驚いて腰を抜かし、情けない声と共に尻餅をついた。


「何のために教えてやると言ってると思ってるんだ。先程貴様が危惧していた通り、貴様はこの校舎のどこにどんな形状のスイッチがあるか知らないのだろう。無謀も(はなは)だしい」


「何のため……それは、その、あ、貴方だってそうですよ!」


 練摩は普段臆病で心配性だが、こういった理解しがたい状況に混乱しているときの肝っ玉は備わっていた。練摩は怯えるだけで何も言ってこないものだと思っていた閒盧は、意外そうに首を小さく傾げた。



「な、なんでこんなことするんですか! それに、その…………さっき、僕と百良ちゃんのこと、鎖羅木(さらぎ)の小童()()って…………。どうして、僕たちが、僕が、鎖羅木家の人だって分かったんですか?」



 本気で疑問に思う練摩に、閒盧は少し感心した。ただの臆病者かと思いきや、中々冷静に人の話を聞いている。そんな練摩を見て、閒盧は、何かを考える。その後、フッと鼻で笑った。


「さっきも言ったが、目的は答えられない。練摩(きさま)が鎖羅木の者だと分かったのは、貴様から出てるそのオーラのせいだ」


練摩を指さしながら、閒盧は当然のように言う。

 練摩は目を丸くした。閒盧の言っているオーラというのは、(まと)()のことだろう。鎖羅木家の人間からでる独特のオーラ。しかし、百良の話では纏い気が見えるのは同じ鎖羅木家の人間のみだということであったが。

 目の前にいる閒盧は、鎖羅木家と敵対している(しん)家の人間のはずだ。


「見えるんですか?」


「当り前だろう。なんだ、知らなかったのか? 私たち真家には、貴様らの放っている纏い気とやらが見える。見えるだけで、私たちは出すことは出来ないがな」


 閒盧は床に座る練摩を静かに見下ろす。


「真家の事も、纏い気のことも良く知らないとは……。時に貴様、何故その纏い気を放ったままでいる?」


「え?」


「他の鎖羅木の者……貴様と一緒にいた百良(ももら)とやらも、普段から纏い気を出したまま過ごしているわけではないだろ」


 言われてみれば、と言った感じであった。だが、練摩には何故百良が纏い気を抑えてこんでいるのか分からない。


「それは、その、しまい方が分からなくて…………」


「…………そうか。そういうこと、か」


 閒盧は何かを察したように、天井を見上げた。


「どうしようもないなこれは。()()()()()()()()()()、というワケか……」


 閒盧の独り言の意味は、練摩には理解できなかった。


「ところで、こうして話している間にも時間は経っているのだぞ」


「あっ」


 つい忘れてしまっていた。


「残り時間も僅かだ。探すのを諦めて私を捕まえた方がいいのでは」


「捕まえるって、そんなぁ……」



 正直、練摩は百良にスイッチを探す係を命じられた時、安堵したのである。見ず知らずの人間と鬼ごっこするというワケの分からない状況かつ、人見知り気味の練摩にとって赤の他人の体を馴れ馴れしく触ることに抵抗があったのだ。

 しかしこうなってしまっては閒盧の言う通り、捕まえて場所を聞き出すのが手っ取り早い。


「さ、触ればいいんですよね?」


 練摩は立ち上がり、片足を後ろに引いて閒盧に向かって走り出す準備をする。


 閒盧は「ああ」と返事をする。



 数秒の間、練摩と閒盧は見合って立ち尽くす。

 そして、練摩が動き出した。


「てーぇい!」


 と慣れない声を出しながら閒盧に勢いよく手を伸ばす。百良ほどでないにしろ、練摩の動きもアスリート以上の俊敏さがあった。閒盧は練摩の手を煽るかのようにスレスレの位置で避ける。そうして、練摩はまた手を何度も伸ばす。閒盧も、何度も練摩の手を避ける。


 避けながら、閒盧は練摩を観察していた。


(おや…………)


 閒盧は軽やかなステップで練摩から距離を少しおく。

 手を伸ばし続けるという普段しないような動きをしたせいで、練摩の息が流石に上がりだす。


「全然捕まんない……」


 練摩は悔しそうに呟いた。


「ふん、なるほど。これはあの人が目を付けるのも無理ないな」


「あの人?」


「誰とは言わないが、今回のこの鬼渡しはその人からの依頼でな。その目的は言えないと言ったが、実は複数個あって…………」


 閒盧は一瞬のうちに間合いを詰め、練摩の目の前に能面の顔を接近させた。



「一つだけ教えてやろう。それは、『練摩(きさま)のポテンシャルを確かめること』だ」



 練摩は目の前に来た閒盧に手を伸ばす。

と同時に、閒盧の体が消えた。文字通り、一瞬で忽然と姿が消えた。

 空気を掴み驚きの声をあげる練摩。


「貴様の体、少し借りるぞ」


 真横から声が聞こえ、振り向くも姿は見えない。

 その時、振り向きざまに練摩の開いた口に何かが入った感触がした。小さな虫のようなもののようであった。ペッペッと唾を出すも、口の奥に入って行く気味の悪い違和感。


「あ、あれ? 意識……が…………」


 虫のような物を飲みこんだと同時に、練摩の意識が遠くなっていった。暗闇の中に溶けていくように、視界から明かりが消え、プッツリと記憶が途切れた。




「ったくどこ行ったんだよあいつ……あ、練摩!」


 閒盧を見逃し、校舎内を走り回っていた百良が練摩と再会した。

 練摩は下を向いてただ直立している。声も出さず、まるで人形の様に。


「スイッチ見つかった? コッチはあいつ見逃しちゃって探しててさ……練摩?」


 百良の言葉に何一つ反応を示さない練摩に、百良は違和感を覚える。


「…………これは」


 練摩が喋った。と思いきや、聞こえてきたのは練摩の声ではなかった。明らかに動いているのは練摩の口で、声はそこから聞こえてきているはずなのに。


「中々のものだと、言いざるを得ないな」


 手を閉じたり開いたりし、その場で軽くジャンプする。


「あんた…………まさか、さっきのフード男?」


「いかにも。私は初めから、この体に用があったのだ」



 閒盧が、練摩の顔を借りて不敵な笑みを見せた。

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