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第4話 わけありスタートダッシュ

蕾実の入部でスクールアイドル部が正式に設立。今までにない部活にメンバーはどうやってスタートさせるのか!?

第4話 わけありスタートダッシュ


「大張の奴、演劇部辞めて本当にアイドル部始めるなんて…」

 有分高校演劇部では大張己太郎が設立したスクールアイドル部の話題で持ちきりだった。かつて己太郎は演劇部に所属し、役者も演出もこなすエース格であった。周りから期待を寄せられていた己太郎だが二年の終わり頃、突然退部しアイドル部を作ると言い出した。部員はもちろん、教師達や生徒会からも反対された。

「大張の妹がこの高校に入学するのが決まってからだ、妹をアイドルにするつもりなのか、それを学校でやるとかシスコン通り越してとんでもなさすぎる」

「大張先輩て演劇部じゃ変人で有名だったけど、まさかここまでだとは」

「顧問の(かな)(やま)先生が後押ししてなきゃポシャってたところだ」

「確か顧問は大張の父親の大学時代の後輩だそうだけど」

 己太郎の父・大張(おおばり)(はじめ)は美術大学に入学後、同級生や後輩達とアイドル同好会を立ち上げていた。演劇部顧問の金山先生は一の大学での後輩で、共通のアイドルが好きなことから特に親しかった。金山は演劇部の派生で同じ芸能系の部活としてアイドル部設立を認定してもらうよう、生徒会や校長達に掛け合って説得していた。

「その金山先生も演劇部も兼ねてアイドル部の顧問になったそうよ」

「しかし本当に大丈夫なのかね?あいつ一人が抜けただけで我が演劇部もどうなることやら」

「流石に女子部員を引き抜くのはしなかっただけマシか」

「そりゃ私たちはあくまで女優路線ですし…それにしても春日野さんは演劇部に来てくれると思ってたけれど」

「プロにとって素人演劇なんて目じゃないと思ったら、まさかのアイドル部入りとはね」

 プロの女優である春日野蕾実が演劇部に目もくれずアイドル部に入ったことは、演劇部にとっては意外な展開であった。

「本当、大張の奴どうなることやら…」

 演劇部の部長は己太郎とアイドル部の行く先を不安視していた。


「それじゃ大張、これからがんばれよ」

「先生、ありがとうございます」

 顧問となった金山先生に期待の言葉をかけられたスクールアイドル部の部長・大張己太郎。

「さあこれから会議だ!皆の者、会議室へ集合!」

 己太郎は五人のアイドル部員を集めて会議を始める。先ずは歌恋が己太郎に聞く。

「会議室って…うちの教室でしょ?」

 歌恋の言う会議室とは、歌恋と蕾実のクラスである二年A組の教室であった。

「アイドル活動するには先ずレッスンだが、その前にいろいろ決めておきたいことがある」

「どんなことですか?」

「お前達五人の役割分担だ、改めてお互い自己紹介して、話し合って決めてくれ」

「そうですね、部長の役割というと…」

「俺、大張己太郎はアイドルのプロデューサーというところだ、お前達五人がアイドルユニットということで先ずリーダーが必要だな」

「五人のリーダー?」

「先ずは自己紹介だ」

 歌恋は自己紹介を始める。

「二年A組、緒方歌恋です、アイドルになりたくてこの部活に入りました」

「同じく春日野蕾実、かつては女優をやってました」

「一年A組、大張ゆかりです、部活でアイドルするのが夢でした」

「一年B組、樹咲美夢です、ジュニアアイドルしてました」

「一年C組、流リリカ!アニメ大好きで将来声優目指してます!」


「あっそういえばわかった!」

 自己紹介が終わった後、流リリカが発言した。

「リリカちゃん、何が分かったの?」

「リリカ気付いたんだけど五人の名前だけど、つぼみ、みゆ、ゆかり、りりか、かれん…しりとりになってる!」

「ほんとだー!じゃあリーダーは蕾実先輩にしよう!」

「わ、私が?」

 リーダーに指名されて驚く蕾実。

「私も春日野さんが良いかと思います、本場の芸能界で経験が豊富だし」

 歌恋も蕾実をリーダーに推薦する。

「そうですか…私に出来るかしら?」

「今までの芸能生活の中で培ってきた春日野さんなら出来ますよきっと!」

 蕾実の後押しをするのは、アイドル部に入部するのを説得した大張ゆかりであった。

「ゆかりさんも…私、やってみます」

 ゆかりの一押しでリーダーを引き受けることになった蕾実。

「じゃあサブリーダーは同じ二年の歌恋先輩で!」

「え?私が…」

 一年生の推薦で歌恋がサブリーダーとなった。続いて己太郎が語る。

「アイドルと言えば歌だが、しばらくは既存の歌でお披露目しよう。いずれはオリジナル曲を発表するわけだが、作詞と作曲は誰がやる?」

「では作詞は私が」

 作詞はリーダーの蕾実が申し出た。

「作曲は緒方さんにお願いするわ」

「え?私が…お姉ちゃんの受け売りだけどできるかな?」

「お姉さんからアドバイス受けながら作ってみては?」

 歌恋の姉・歌音はバンドを組んでいることから、歌音自身も曲を作っており、歌恋も見よう見まねで曲を作っていた。

「私がアイドルの曲を作るのか…やってみます!」

 そして一年生らの役割は、モデルであった美夢とアニメキャラの絵を描いたりコスプレしていたリリカが衣装担当、ゆかりは兄・己太郎と共に企画を担当することになった。いよいよ下校時間になる頃、部長の己太郎が締めの言葉を述べる。

「明日から早速レッスンに入るが、その前にセンターとユニット名を決めよう。放課後はカラオケで皆の歌唱を聴いてみる!」

「はい部長!」

 スクールアイドル部一同は下校後、カラオケ店に向かった。


 カラオケ店に入ったスクールアイドル部は先ずは一年生の流リリカ、樹咲美夢と歌った。

「二人とも声は可愛いのだが、音程はイマイチだな」

 己太郎の批評を聞いてがっかりするリリカと美夢。

「次は春日野蕾実、何を歌う?」

「では私はこの曲で」

 蕾実はかつて自身が子役の頃に歌った「大人の事情はろくでなし」の挿入歌を披露した。

「ほう、これが成長した春日野蕾実の歌声か」

「歌唱力は衰えてませんね、蕾実先輩!」

 続いて歌恋が歌う番である。

「それでは結束バンド『星座になれたら』歌います」

 歌恋の歌唱を聴いた己太郎が感想を述べる。

「なかなか良い声で声量もあるが、もっと練習すれば歌い方も安定してくる」

「ふう…ライブに呼ばれたときは結構はっちゃけて歌ってたしね」

 そして最後を飾るのが大張ゆかりである。

「大張ゆかり『初恋ドリーム』歌います!」

「初恋ドリームって…誰の歌?」

 一年の樹咲美夢が尋ねる。それに春日野蕾実が答える。

「確か私の事務所の先輩・姫乃友梨香さんの曲だったわ」

 ゆかりの歌唱をアイドル部一同はじっくり聴いていた。

「すごい、すごいよゆかりちゃん!」

「プロの歌手が歌ってるみたい、女優の片手間にやってた私より上手いわ」

 歌恋と蕾実はゆかりの歌に感心する。

「それではセンターはゆかりで決まりだな?」

「あの部長、もしかしてゆかりちゃんを最後に持ってきたのって…」

「その歌の上手さを知ってたから?最初からセンターはゆかりちゃんに…」

 己太郎に美夢とリリカが問う。

「まあいずれにせよ良いんじゃないの?センターはゆかりちゃんで」

「私も先ずはゆかりさんでよろしいかと思います」

 歌恋と蕾実もセンターはゆかりに賛成だ。

「仕方ないなあ…こうなったらリリカもっと上手くなって、次はセンター取るからね!」

 リリカがリベンジを宣言する。それに続いて美夢が思いついたように話す。

「そういやユニット名はどうするの?」

「それについては、我が家へ行こう!」

「我が家?」

 己太郎に連れられ、メンバー達は向かう先は…


 スクールアイドル部は部長の己太郎の住むアパートに着いた。

「部長、ここは?」

「このアパートは『さくら荘』と言って、俺が管理人を務めるアパートだ」

「部長が管理人?高校生の身分で」

「元々は我が祖父が管理人だったのだが、親戚で不動産業をやっていて、このアパートもその一軒だ。祖父亡き後は俺がここの管理を受け継いでいる」

「え?普通ならお父さんが継ぐのでは…」

「我が父は別のアパートの大家となっているんだ、実はこのアパートを我がスクールアイドル部の合宿所にするのだ」

「合宿所?」

 一同は驚く。

「でも他の住民もいるんでしょ?」

「まあそれでもまだ空きはあるがな」

「合宿所とか、具体的にどういうことするんですか?」

「我がスクールアイドル部は開校した頃から活動している演劇部と違って、新鋭の部活動だ。なのでレッスンに衣装や舞台装置の制作を学校内での部活動の範囲で出来る演劇部に比べ、我が部活動に与えられた範囲は精々レッスンくらいなのだ!」

 己太郎の説明に蕾実が問う。

「つまりレッスン以外の衣装作りや作詞作曲、企画会議は合宿所でやると言うことですね?」

「その通りだ春日野蕾実!他の部員が泊まり込みできるくらいの部屋は用意してあるぞ、家賃はいらんから思う存分使ってくれ!」

「でもお兄ちゃん、私の部屋とお兄ちゃんの管理人室はあっても、開いてる部屋は三つだよ?」

「ふむ、それなら一室くらい二人共同と言うことに…」

 それに対して歌恋が意見する。

「あの…それなら曲作りについての活動では、私の姉が勤めてるライブハウスの『コスモス』を第二合宿所にしてみてはどうでしょう?」

「どういうことだ緒方歌恋?」

「私が作曲で住み込んだり、音に合わせるレッスンとかはライブハウスの環境がちょうど良いかと思います」

「よし、それでいこう!もしうちのアパートで合宿するなら、緒方は春日野と一緒の部屋で過ごすと良い」

 己太郎の意見に蕾実と歌恋は…

「いつの間にか緒方さんと私が組まされてますね?でも異存はありませんが」

「作詞と作曲ですし、私も春日野さんとなら良いと思います」

「あの、思ったんだけど」

 蕾実と歌恋の後にリリカが語り出す。

「学校の部活でもアイドルグループの仲間、つまり同志になったことだし、お互い名前で呼んだ方が良いかと思うんですが?」

「そうだな流リリカ、同じユニットなら先輩後輩でなく同志だ!」

 リリカの意見に賛同する己太郎。

「では私から、美夢、ゆかり、リリカ、そして歌恋」

 蕾実はメンバーをそれぞれ呼び捨てで呼ぶことにした。

「なら私は…蕾実ちゃんに美夢ちゃん、ゆかりちゃんにリリカちゃんね」

「私なら歌恋さんに蕾実さん、ゆかりちゃんにリリカちゃんで」

「私も歌恋さんと蕾実さん、美夢ちゃんとリリカちゃんと呼ぶことにします」

 歌恋と美夢とゆかりは敬称を付けることに。

「リリカだったらつぼみんにみゆみゆにゆかりん、歌恋先輩は…かれんちゃんでいいかな?」

 リリカは歌恋以外はニックネームで呼ぶことにした。

「というかなぜ私だけニックネームではなくちゃん呼び?」

「カレンチャンていうソシャゲのキャラがいるし、実際にいた競走馬だしね」

「よし、それではそろそろ…おい、樹咲は何やってんだ?」

 美夢はさくら荘での飼い犬と戯れている。

「可愛い~このワンちゃん」

「おいおいその犬は人間の年齢だとかなり大人だぞ」

「この子、アパートで飼ってるの?」

「両親が若い頃に飼い始めて、こいつで三代目だ」

「名前は?」

「最初のはシンディって名前付けたから、その孫に当たるのでシンディ三世だ」

「三世って、どっかの泥棒みたい」

 己太郎と美夢の会話にリリカが入り込む。

「ねえ私たちのユニット名、この子の名前とって『シンディズ』なんてどう?」

 ユニット名の件を思い出した美夢が考えた名前に、リリカが異論を唱える。

「えーそれじゃあ死んで~みたいな語呂で何だか…それにリリカは猫派だし」

「オホン!実は既に俺が考えてるのだ」

 部長の己太郎がついにユニット名を発表する。

「ユニット名は『桜乙女』我がアパート・さくら荘に集う乙女達を示す名だ、そして横文字にして“SAKURA OTOME”と表記しよう!」

「お兄ちゃん、私もそれが良い!」

 ゆかりもそのユニット名を気に入ったらしい。

「あの…ゆかりちゃん、シンディズは…」

「却下します!」

 ゆかりは強い口調で美夢に言い放つ。

「だからさーみゆみゆ、やっぱ語呂に問題あるんだよ、ゆかりんだって怒るくらいだし」

「まあまあリリカちゃん、でも私も部長の案に賛成だけど」

「そうね歌恋、そのユニット名で始めましょう」

「よし、本格的な活動は明日から、先ずはレッスンに重ねてレッスンだ!」

「はい!!!!!」

 スクールアイドル部員達は新たな決意を胸に秘め、それぞれ帰宅していった。


 皆が去った後、ゆかりは愛犬・シンディ三世をあやしながら鼻歌を歌っていた。明日からアイドル部活動がスタートするのが楽しみなのである。

「ゆかり、いよいよだな」

「お兄ちゃん、ありがとうね」

「お礼を言うのはまだまだだ、スクールアイドルとして自由に歌を歌っていこうじゃないか!前世でなし得なかった夢をかなえるために!」

「与えられた歌をただ歌わされるのではなく、今世では心から歌っていきたい…」

 己太郎とゆかり、この兄妹のなし得なかった夢とは?果たして…


つづく

ついにアイドル部活動がスタート!部長の己太郎が指導するレッスンは、高校生とは思えないハードな指導で歌恋達はタジタジ。そしていよいよ初ライブへのステージへ…

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