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第3話 わけありスカウト

蕾実を実家の喫茶店へ招待することになった歌恋。スカウト第2ラウンドで、蕾実の出した答えは…

3話 わけありスカウト


「なるほど、春日野蕾実を今日の放課後に説得するのか」

 校舎裏にて己太郎は歌恋とゆかりから蕾実を喫茶店に招待することを聞いた。

「春日野さんはやはり迷っていました、私としては彼女が自分でやりたいことが何なのかを探すのに手助けしたいと思ったんです。その方法として、お兄ちゃんが立ち上げたアイドル部で何か見いだせないかと、私もそう考えています!」

「そうか…ゆかり、春日野蕾実が入部するか否かは、お前と緒方にかかっている」

「それでお兄ちゃん、歌恋さんの喫茶店には…」

「分かってる、俺は遠慮しろというのだろう?二人に任せるよ」

 三人の話がまとまったその時、校舎裏にもう二人の姿があった。

「歌恋先輩もゆかりちゃんもずるーい、私達だってアイドル部員なのに」

 そう言う一人は流リリカであった。そしてもう一人は同じくアイドル部員の樹咲美夢。

「私、緒方先輩の店知ってるわよ」

「えっそうなの?」

 美夢は歌恋の実家の喫茶店を知ってるそうだ。

「うちの社長やマネージャー達の行きつけの店よ、私も連れられて緒方先輩の顔なら知ってたわ」

「ああ、そういや何度か見かけたわ」

 歌恋は美夢が顔見知りだったことに気付いた。

「確か先輩のお父さんて元芸能誌の記者で、うちの社長とも知り合いなんだってね?」

「そうね…」

 歌恋の表情が曇る。

「どうかしたの?」

「実は…お父さんもお母さんも私がアイドル目指すの快く思ってないの」

「それまたどして?」

「お父さんが元芸能記者で、お母さんが元アイドルなの」

「元アイドル?まさかのサラブレッド!」

「それはちょっと言い過ぎだって、お父さんとお母さんとで共に親しかったアイドルが亡くなってから芸能界に嫌気がさして、辞めてから結婚して喫茶店を立ち上げたのよ」

 歌恋の父・(とも)(のり)は芸能誌の記者で母・()(おり)は駆け出しのアイドルだった。ある取材で知り合い、沙織の憧れのアイドルの話で意気投合するが、そのアイドルが自ら命を絶った。彼女を慕っていた沙織は芸能界に不審を抱き、智紀と相談の末に引退を決意。智紀も親しかった同僚が退社したこともあり、後を追うように智紀自身も退社した。それからしばらくして二人は結婚し、智紀はフリーライターとなり沙織は夫の収入と実家の支援で喫茶店を開店したのだ。

「それからお姉ちゃんを産んで、何年かして私が生まれて現在に至るのよ」

「お姉さんがいるんだ~お姉さん何やってる人?」

「お姉ちゃんはアイドルよりもロックやフォークの方が好きだったのよ、まあそのミュージシャンの中でもアイドルに曲を作ってた人もいたし、そういう話でよく盛り上がってたわ」

 歌恋の姉・()(のん)はロックやフォークをこよなく愛し、高校では軽音部で活動し、大学に入ってからは路上ライブで歌うようになった。両親が芸能界に行くのを反対されるのを理解してか、あくまでアマチュアとして好きな曲を歌い、時には自作の曲も披露していた。

「そういや歌恋先輩のお姉さんは見かけたことないけど、今どうしているの?」

 美夢は歌恋の姉の存在が気になった。

「ある日、お姉ちゃんがいつも通り路上ライブしてたらスカウトされたのよ」

「えっまさかプロのバンドデビュー?」

「そうじゃないのよ、ライブハウスやってる人に『うちの店で歌わないか』て誘われたの」

「どんな店?」

「コスモスよ」

「コスモスって、あのコスモス?」

 コスモスとはガールズバンド専門のライブハウスで、出演バンドはもちろんオーナーや従業員まで全て女性で統一している。

「女性ばかりのライブハウスで、バンドメンバーとファンとの過度な接触もガードしたりと、かなり健全なところだと知ったら、お父さんもお母さんも許してくれたわ」

「確かにコスモスは安全なライブハウスで知られてるわね」

「今のお姉ちゃんは専属バンドメンバー兼店長やってるのよ、自室もあって殆ど住み込みで働いたりバンド活動してるの。ちなみに私もバンドボーカルとして呼ばれることもあってね」

「母が元アイドルで姉がガールズバンド…歌恋先輩やっぱサラブレッドじゃないの?」

「だからそんなこと…それより春日野さんを我が家に誘って説得しなきゃ」

 アイドル部のメンバー達はいよいよ実行に移すこととなった。


 ここは歌恋の実家である喫茶店『ビリーヴ』

「お母さんただいま~あれ、お父さんも」

 カウンターには母・沙織と、カウンター席には父・智紀がいた。

「お帰り歌恋、お父さんは原稿の打ち合わせで忙しくて、やっと一段落付いたところよ」

「歌恋、アイドル部とかに入ったって?」

 アイドル部について先ず智紀が問う。

「うん、学校の部活でアイドルやるなら、お父さん達も許してくれると思って」

「…まあプロの世界に行くのでないなら良いが、それにしても部活でアイドルなんて聞いたことないぞ」

「でも面白そうじゃない?歌恋も歌音も歌うのが好きで、プロの芸能界とは違う安全な環境で活動できるんだから」

「私も賛成!」

 そう言って入ってきたのは歌恋の姉・歌音だった。

「お姉ちゃんお帰りなさーい」

 姉に抱きついて出迎える歌恋。

「お帰り歌音、お店の方は?」

「オーナーが見てくれてるよ、それより歌恋がアイドル部に入ったんだっけ?メンバーは…」

「もうすぐ来るよ」

 そうして間もなくアイドル部のメンバーが入ってきた。

「こんにちはーアイドル部でーす」

 アイドル部の三人と春日野蕾実が入ってきた。真っ先に声上げたのが流リリカである。

「有分高校アイドル部の流リリカです」

「同じく樹咲美夢です」

「同じく大張ゆかりです」

 三人があいさつを終えるが、歌恋の両親がゆかりの顔を見て驚くような目をしていた。そしてゆかりも何かに驚いたような表情であった。

「ん、どうかしたの?」

 歌恋が両親とゆかりに尋ねた。

「い、いえ何でもありません」

「ああ、すまない…で、そちらが春日野蕾実さんだよね?」

 父・智紀が蕾実の方を向いた。

「初めまして、春日野蕾実です」

「ようこそ、歌恋の母です、オトロク見てましたよ」

「ありがとうございます」

 沙織にあいさつした蕾実は席に座る。

「それでは先ず、お話しましょう」

 歌恋達が蕾実をアイドル部へ入部させる交渉が始まった。


 歌恋の家族は交渉するところを眺めていた。

「ほう~あれが『大人の事情はろくでなし』略してオトロクの名子役だった春日野蕾実ちゃんか、身近で見るとやっぱ美少女だわ、うちの歌恋と良い勝負?」

 蕾実を見た歌音はそう呟く。

「お姉ちゃんたら…そういうのはいいから」

「あら聞こえてた?」

「あの…それより私、大張さんとお話ししたいんですけど」

 蕾実は交渉側から大張ゆかりを指名した。アイドル部に蕾実を推薦したのが、部長となる大張己太郎の妹であるゆかりだからだ。

「はい、私ですが…」

「あなた…あの人に似てるわね」

「え?」

 ゆかりの顔がこわばった。

「だ、誰似でしょうか…」

(ひめ)()()()()という、かつて私と同じミタニプロに所属していたアイドルなの、私がこの世に生を受けるかなり前に亡くなったけど」

「ああそれ親から聞いたけど、確か失恋して自殺したんだよね?」

 同行した部員の一人・流リリカがそう言った時…

「失恋なんかじゃありません!」

 ゆかりが突然、大声を張り上げた。それに周りが驚き、特に歌恋の両親が青ざめた表情だった。

「大張さん…どうしたの急に?」

「あ…ごめんなさい、ところでその姫乃友梨香がどうか?」

 気を取り直して蕾実が語る。

「私も中学に上がった時期に、自分の先輩達のこと知りたいと思ってネットで調べてみたの、松樹留美子さんを始めいろんなタレントのことを…その中で私が気になったのが姫乃友梨香さんなの」

「どういうところが気になりましたか?」

「アイドル歌手としては松樹留美子さんの路線を継承しながら、彼女独自の魅力も表していたわ。ドラマでの演技も殆どNGを出さなかったという…」

「私あのドラマ好きじゃありません」

 ゆかりがまたも謎めいた発言をする。

「え…あのドラマは今では『呪われたドラマ』として視聴不可能なんだけど…私は事務所で録画したビデオで見せてもらったけどね」

「あ、ああ私もとあるルートで…」


「お父さん、その『呪われたドラマ』て何?」

 蕾実とゆかりの話が耳に入った歌音が父・智紀に聞く。

「姫乃友梨香の連続ドラマ初主演作『サイキック少女ひろみ』超能力少女の主人公が過酷な運命の中で戦う内容なんだ」

 智紀に続いて母・沙織が語る。

「でもドラマ終了後の数ヶ月後に友梨香ちゃんは所属事務所のビルから飛び降りてしまったのよ…そのドラマで共演したベテラン男優に失恋したのが原因と言われてるけど」

「でも俺はそう思わない、姫乃友梨香は失恋で自らの命を投げ出すような娘じゃない」

 両親の表情が暗くなっていく様子を見て歌音は…

「お父さんもお母さんもどうしたのかしら?一体あの頃に何が…」


「ところで大張さん、何で姫乃友梨香は失恋で自殺したんじゃないと思うの?」

 改めて蕾実は、ゆかりに問い出す。

「…彼女はきっと、自分の描いた夢を叶えるためにアイドルになったんだと思います。けれど実際にデビューしてみれば、事務所で決められた通りのことしかさせてもらえなかった、自分の意志なんて初めから度外視されていたんですよ…」

「つまり自分が思っていた世界とは違っていた、事務所に良いように操られ、不本意な仕事も押しつけられ、最後には鬱状態になって自らの命を…というのがあなたの推測ね」

「はい」

「推測でここまで考えるのも呆れるけど、あながち間違いとも言えないのよね」

「と言いますと?」

「私も子役から使命感を持ってやってきたけど、要するに周囲の思い通りに扱われただけだった…それに気付いたときには虚無感に陥ったわ」

 蕾実は自分のそれまでの生き様を振り返った。

「私の状況も実のところ姫乃友梨香と同じだった、でも私はそもそも自身の夢なんて持ってなかったんじゃないかと今は思う」

「そこで蕾実さんも、自分のやりたいこと見つけるためにも、先ずはアイドル部でそれを探しませんか?」

「そうね…取りあえずやってみようかしら?分からないことだらけだけど」

 ようやく蕾実がアイドル部に入部する決意をした。

「こちらこそよろしくお願いします!蕾実さん」

 ゆかりは感激して蕾実の手を握った。


「何だかゆかりちゃんだけで話を進めてしまったわね」

 蕾実が入部を決めたことに一安心する歌恋。

「私たち何のために来たのかな…」

「いいじゃないリリカちゃん、本命の入部を見届けるのもアイドル部の役目よ」

「そういうこと、それに美味しいコーヒー飲めたじゃない、常連の私がお勧めのコーヒーとかさ」

 何度かこの喫茶店『ビリーヴ』に訪れた樹咲美夢が諭す。

「それではお父さんとお母さんにお姉ちゃん、私、緒方歌恋はアイドル部に入部しまーす!」

「そ、そうか…まあ頑張れ」

「学校の部活なら安心ね」

 硬い表情で答える両親に歌恋と歌音が不思議がる。

「どしたの二人とも?何だか不安そう」


「そうか、ついに春日野蕾実のスカウトに成功したか」

 ここは大張家が経営するアパート『さくら荘』管理人は大張家の長男・己太郎である。

「私、どうしても蕾実さんが他人事とは思えなかったの…何とかして手を差し伸べたくて」

「ゆかりは優しいな、これからはアイドル部で俺たちが前世ではなし得なかった夢を叶えるんだ!」

「はい、お兄ちゃん!」

 大張兄妹の目的とは、前世でなし得なかった夢とは、アイドル部を通じて二人が目指すものとは一体…


つづく

蕾実の入部でアイドル部が正式に設立。だが今までにない部活で、しかも部員は曲者揃いで前途多難…

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