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第11話 わけあり新学期

二学期が始まり、転校生・新保千夏がアイドル部に入部。一方、歌恋はプロの世界にスカウトされていたが…

 九月になり有分高校の二学期が始まった。アイドル部も新たな活動を開始するところだ。

 アイドルフェスで出会ったアイドル・新保千夏は自分が所属したグループが解散後、有分高校に転入してきた。

「新保千夏です、今日からよろしくお願いします」

 学年は二年で歌恋や蕾実と同じクラスである。

「よろしくね、新保さん」

 蕾実も千夏に挨拶をする。

「千夏でいいですよ」

「それにしても、フェスで会った頃より肌の色が変わってるわね」

「私、日焼けしやすい体質なんです」

 千夏は初めて会ったときよりも印象が変わっていた。

「転校したらアイドル部に入るんだったよね?」

「ぜひよろしくお願いします!」

 歌恋は千夏をアイドル部へと招待した。


 放課後の部室にはアイドル部部長・大張己太郎が立っていた。

「俺は三年の大張己太郎、アイドル部の部長だ」

「初めまして、本日転入してきました新保千夏です」

「君が新たに我がアイドル部、つまり桜乙女に入りたいというのだね?」

「はい、これからもアイドルをやっていきたいですので、よろしくお願いします!」

「では君は何のために、前のユニットを辞めてまで我が校のアイドル部へ?」

 千夏はこれまでの経緯を話す。

「実は私が所属していたグループが解散して…」

「ああそれならフェスでも話していたな」

「同時に事務所も解散したのです」

「事務所も?なぜに」

「事務所の社長とメンバーの女の子に手を出して、それで内部がゴタゴタになって解散することになったんです」

「何という…色恋沙汰で解散とはひどいものだ」

 己太郎は驚いて呆れた様子だ。

「それでもアイドルを続けたいのか」

「はい、家族や近所の友達や皆さんに喜んでもらいたいからなんです」

 千夏は更に話を続ける。

「父は出稼ぎに行って家にいないし、母は病気がちで弟や妹、祖母が看護しているんです。私は家族を元気づけるためにもアイドルやってるのです!ライブもネット配信で遠くの父も見ていますし!」

「家族のためにアイドルをか、ところで収入の方はどうなるんだ?」

「父からの仕送りがありますし、祖母も体が元気なので働いてます!家族からも部活でやるならアイドル活動も学業と両立できそうだからやってもいいと言ってました。むしろあの事務所で仕事していたのを心配されてました…」

「相当に胡散臭い事務所だったんだな」

「退職金というか手切れ金を渡されたり、社長にあまり目をかけられていなかったのは不幸中の幸いでした」

 千夏は事務所でトラブルがあっても、上手く回避できたらしい。

「我がアイドル部も配信チャンネル持ってるから、ライブやメンバートークなど随時配信してるぞ」

「それなら一家はもちろん、遠方の父も私の活躍を引き続き見てもらえます」

「よし、では新保千夏、アイドル部へようこそ!この部活についての説明をするから、その後でレッスンしよう」

「はい部長、よろしくお願いします!」

 こうして千夏はアイドル部に入部することになった。


 アイドル部員たちは体操着に着替え、部長の己太郎によるレッスンを受けていた。己太郎の躍動するような指導で、皆はリズムに乗って動きを合わせていく。

「よし、今日はここまで!少し休んだら次はミーティングだ」

 己太郎の合図でしばし休憩に入る。千夏は蕾実に声をかける。

「あの、春日野さん…」

「蕾実でいいわ、敬称もいらない」

「そうですか、なら私も千夏でいいです。実は、私は演劇やりたいと思ってます!」

「演劇?アイドルから俳優業に進むの?」

「アイドルも好きですが演劇も好きなんです!それで演技のことでいろいろ蕾実に聞きたいことあって…」

「演技なら演劇部に入れば良かったんじゃない?」

「それもそうですが、せっかくアイドルになって皆を喜ばせてきたところですし、こんなところで諦めたくないんです」

「そうね、我が部でも演劇やろうとか思ってたところだし、相談なら乗るわよ」

「ありがとうございます!」

 それから再び己太郎から声がかかった。

「よし、ミーティングだ集合~」

 己太郎はミーティングで今後のことを語る。

「次の校内ライブは千夏の新入部歓迎ライブでもある。センターは無論ゆかりだが、今回は六人ライブでバランス取るためにセンターをゆかりと歌恋を交互に歌わせようかと思うのだが…」

 己太郎の話を聞いて歌恋は考えていた。

(今回センターを半分ずつ、ゆかりちゃんと分けるのか…私もいつか完全なセンターになりたい)

「そして…次の議題なんだが」

 己太郎は話を切り替えた。

「この前のフェスでは、いろんなアイドルユニットが各個人のイメージカラーを担当していた。桜乙女でもそれぞれのメンバーがイメージカラーを担当するというのだが?」

「じゃあ私はピンク!」

 すかさずゆかりが希望するカラーを申し出た。

「うむ、この前のフェスの衣装もピンクリボンが特徴的だったな、ではゆかりはピンク担当!」

「なら私は赤かな?」

 歌恋も続いて申し出た。歌恋は私服が赤いのが多く、自分でも似合うと思うくらい好んでいた。

「私は…オレンジはどうかな?」

「みゆみゆはオレンジに髪染めてるからね、ではリリカはイエローで!」

 美夢とリリカは自分の髪色に合わせて申し出る。

「私は黒で…千夏はどんな色?」

 黒を希望する蕾実は、千夏に振ってみた。

「私、前にいたユニットでは青担当だったし、今回も青で良いです」

「よし!決まったな、それぞれの担当カラー決定のPV撮影して配信しよう!」

 桜乙女も各メンバーが色分けされて、ますます賑やかになるところだ。


 ある晩のこと、歌恋の実家の喫茶ビリーヴでは閉店後、歌恋の両親が桜乙女のライブ映像をパソコンで見ていた。

「皆のびのびして歌っているわね」

「メジャーとされるアイドルとは違うよな」

 それから無言で鑑賞する夫妻。そんな両親を歌恋が横から覗いていた。

「お父さんとお母さん、私たちのライブを見てる…」

 しばらくして両親の会話が聞こえた。

「やはりセンターのゆかりちゃんは最高だな」

「本当、まさに姫乃友梨香の生まれ変わりね」

「君もそう思うかい?」

「ゆかりちゃんに出会えて良かったわ」

 二人の表情は生き生きしていた。

「え…?」

 両親の会話を聞いた歌恋は違和感を覚えた

「娘の私よりも、ゆかりちゃんを見ている…姫乃友梨香って確か、蕾実ちゃんの好きな昔のアイドルで、かつて蕾実ちゃんのいた事務所に所属していた…」

 歌恋は複雑な心境に陥った。


 翌日は土曜日、喫茶ビリーヴにて歌恋はウエイトレスとして給仕していた。ある中高年の男にコーヒーを持って来たところ…

「君、桜乙女の娘だよね?」

 男は歌恋の耳元で囁いた。

「はい?」

「これをどうぞ」

 男から名刺を渡された歌恋はポケットにしまい、店の裏に回った。そして名刺を見ると、それは芸能プロダクション名が書かれていた。

「芸能事務所アースステージプロジェクト…」

「ここじゃなんだから近くのファミレスで、お店終わったら来てね」

 コーヒーを飲み終えた男は、そそくさに会計を終えて店を出た。

「歌恋、今のお客さんは?」

「ううん、何でもない」

 歌恋は父に気づかれないように名刺を隠した。

「芸能プロダクションからスカウト?遂に私もスクールアイドルからメジャーアイドルになれるの?」

 突然のスカウトに歌恋の心は踊る。


 仕事を終えた後、歌恋は指定されたファミレスに向かう。店に入ると、名刺を渡した男が席に座っていた。見た目は四十半ばくらいの男である。

「こんばんは」

「改めて始めまして、アースステージプロジェクトのマネージャーをやっている()()(だい)()と申します」

 アースステージプロジェクト(略してASP)とはここ二十年ほど芸能界で力を持つ芸能事務所である。

「今は次世代のアイドルをスカウトしたいところで、ネットとかインディーズとかで活動してるアイドル達を見てきてるんだが、その中でも君という輝ける原石を見つけたのだよ」

「私が…原石?」

 木戸の言葉に驚く歌恋。

「スクールアイドルという新しい分野で、君を見つけたんだ」

「でもセンターはもうひとりの子でゆかりちゃんじゃなくて…」

「彼女もすごいけど、君はもっとすごい!君には未知数の魅力を秘めている、それに…」

「それに?」

 一息おいて木戸は語る。

「僕もいろいろ君のこと調べたんだ、君のお母さんもかつては将来を有望されたアイドルだったと」

「はい、その話は母から聞いてましたが」

「ところがとある雑誌記者と恋仲になり、結婚して引退した」

「それが父…母はアイドル辞めた理由は話してはいませんでしたが」

「君ならお母さんの果たせなかったアイドルの夢を叶えられる」

「でも私、今はスクールアイドルに…」

「スクールアイドルか、部活動のアイドルで満足かい?」

「それは…」

 言葉を濁した歌恋。

「高校野球とプロ野球ではレベルが違うように、プロのアイドルもまたスクールアイドルとはレベルが違う。君ならプロとしての素質がある!そのルックス、その歌唱力ともに!」

「私にそんな素質が…でも何でオーディションの応募は落ち続けたんだろう?」

「それはだね、この話は僕がそのオーディションのスタッフとして聞いたことなんだけど…」

 木戸はASPが協賛した新人オーディションの審査スタッフとして派遣されたことが何度かあり、その中で歌恋が応募したのもあった。もちろん木戸も目を通していた。

「実は君のお父さんから、オーディション辞退を事前に入れられていたんだ」

「えっまさか…」

「やはり親としては自分の娘を手元に置きたいんだね、でも僕としては君の才能をそのままにしてはおけない!君はプロのアイドルとなってステージに立つべきだよ!」

 呆然とする歌恋を前に、木戸は話を続けた。

「君が決心したら、名刺の連絡先までお願いするよ!じゃあまた会おう」

「は、はい…」

 こうして歌恋は家に戻った。


 帰宅した歌恋は父・智紀に問い詰めた。

「お父さん…私、芸能プロからスカウトされたの」

「何だって?」

「そしてその人から聞いたの、お父さんが私に黙って勝手にオーディションの辞退を申し出たって」

「ギクッ!」

「何で私の邪魔をしたの!

「…」

 智紀は黙っていた。

「こんなやり方して…どうしてなのよ、お父さん!」

「歌恋…」

 側から母・沙織が話しかけた。

「お父さんはね…歌恋が姫乃友梨香みたいにならないかと心配してたのよ」

「何で?」

「姫乃友梨香さんはね、お母さんにとっても憧れのアイドルだったのよ。あの人は夢いっぱいの心でアイドルとしてがんばっていたの。でも現実は彼女の思いとは大きく違っていた…彼女の心は疲弊して、思い詰めた結果、自ら命を絶ったのよ…」

「歌恋、現実の芸能界はお前が思っているより厳しく険しい世界なんだよ。なかなか自分が思い描いた夢を実現できるようなものじゃない、仮にスターダムにのし上がったとしても、それが自分の願うアイドルの夢とは違ってたということだってあるんだよ。結局は周りの大人の都合で動かされるに過ぎないんだよ」

「だからって私、自殺なんかしないし、そんな例も少ないし」

「自殺までにならなくても、心身共に崩して失意のまま舞台から降りることだってある。芸能界で生きていくには、お前が思ってる以上に芸能人は心を削っているんだよ」

「あなたが学校の部活でアイドルをやるのを許したのも、プロの世界より自由が効くと思ったからなの。歌音の場合もバンドするならあくまでインディーズとしてやるならということで許したのよ。それに…」

 母・沙織は歌恋の姉・歌音のバンド活動についても述べた後、自らの過去も話し出す。

「私もある芸能プロダクションのスカウトキャラバンに出場したことがあったの」

「お母さんも…」

 続いて父・智紀も語り出す。

「お母さんはそのオーディションに準優勝まで上り詰めたが、グランプリは容姿も歌唱力も並以下の少女だった。俺も何で?と思ったが後から聞いた情報筋だと、その少女がグランプリを獲るのは最初から決まっていた、それに彼女はオーディションを主催したプロダクション社長の隠し子だったんだよ。容姿も歌唱力も優れてるお母さん…沙織を差し置いて、社長の血縁というだけでグランプリを決めた出来レースだったんだ」

 もちろんこの情報は表沙汰にはならなかった。主催のプロダクションが業界でも大手で、圧力でもみ消したのだ。それを突き止めた雑誌記者時代の智紀とその相棒は、出版社を辞めざるを得なくなった。

「そんな…私、どうしていいか分からない!」

「どうしたのよ、何か揉めてるの?」

 このタイミングで姉・歌音が帰ってきた。

「お姉ちゃん…」

 歌恋と父母は、歌音にそれまでの経緯を話した。


「こんばんは~」

「ああ歌音さん、こんばんは」

 変わってここは『さくら荘』である。歌音から連絡を受けた己太郎は玄関まで出迎えた。

「どうなさったのですか?」

「実は歌恋が親と揉めちゃって…今夜こちらに泊まらせてもらえませんか?ほら歌恋、こっちきて」

 歌音は荷物を持った歌恋を連れてきたのだ。

「うちは構いません、ここはアイドル部の合宿所でもありますし」

「妹をよろしくお願いします、部長さん」

 歌音はさくら荘の管理人でもある己太郎に妹・歌恋を託した。

「お兄ちゃん、歌恋さんがどうかしたの?」

 奥からゆかりも出迎えた。

「ゆかりちゃん…」

 歌恋は己太郎とゆかりの前で泣き崩れた。

「やれやれ明日が休日で良かった、こうなればアイドル部の緊急会議だな」

 そう呟きながら己太郎は明日、アイドル部の面々に緊急会議の連絡を入れた。


つづく

歌恋がプロのアイドルとしてスカウトされたことに驚き動揺するアイドル部「桜乙女」のメンバー。己太郎は真相を探ろうと、とある人物に相談を持ちかける。

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