第10話 わけありな再会
ゆかりが前世の姉と再会!?残された家族は今…
ゆかりの誕生パーティーの会場である喫茶店ビリーヴに突然の来客。驚く一同だが、それより来客当人の方がより驚いてる様子。
「ユマおばさん、なんでここに?」
「梨香ちゃんがここにいるとお母さんから聞いて、寄ってみたの」
梨香というのはリリカの本名で流里梨香という。
「そっか、今日はユマおばさんの妹の誕生日でもあるんだよね」
「ええ、まさか梨香ちゃんの友達が妹の麻里にそっくりだもんで…それじゃ後でまたお家でね、それでは失礼しました」
ユマという女性は店を後に去って行った。
「おいゆかり、あの女性はまさか…」
己太郎は驚くゆかりに事情を聞く。
「浦木由麻…前世での私の姉です」
明くる日、ゆかりと己太郎と桜乙女のメンバーはリリカの実家・流里家を訪ねてきた。
「わあ大きな屋敷、リリカちゃんすごいところに住んでいるのね」
「リリカの祖父は旅行会社の社長で子だくさん、リリカの母は末っ子でハーフの父は婿養子で舅の会社の社員だそうだ」
己太郎は部長として、アイドル部メンバーの家族構成を把握していた。リリカの父・リョウマはコスプレイヤーでカメラマンだが、本業は会社員だった。
「ボンジュールゆかりん、部長や皆も」
「あら部長さんにゆかりちゃん、その節はどうも。他のメンバーの皆さんも」
リリカと母・友子が出迎えに来た。
「そういやゆかりちゃん、リリカちゃんのお母さんのアシスタントもしてたね」
「ゆかりは漫画家のアシスタントとしては,なかなか出来る子よ」
2年生の歌恋と蕾実は、ゆかりについて軽く話した後で挨拶をする。
「今日は夏休みの勉強会でお邪魔します」
「いえいえお構いなく」
アイドル部は夏休み勉強会と共に、来週開催されるイベント「アイドル・ラストサマー・フェスティバル」への出演が決まり、その打ち合わせも行う。それに乗じて己太郎とゆかりは、リリカの伯母・流里由麻から実妹である浦木麻里こと姫乃友梨香について聞き出すつもりである。流里邸を訪れたと知った由麻は案の定、ゆかりとお話ししたいと誘った。
「お姉ちゃんとは私が姫乃友梨香として芸能界入りしてから、いろいろすれ違っていたから、ここでいろいろお話ししたい…私の前世を隠しつつも」
「俺もお前がゆかりとして生まれてからの16年間、あえて聞かなかったことがたくさんある、これを機にゆかりの前世のことを知っておきたい」
ゆかりの前世は姫乃友梨香で本名は浦木麻里。麻里と姉の由麻はいろんな意味で「どこにでもいる姉妹」だった。そんな姉妹の関係が妹の芸能界入りで大きくすれ違うことになってゆく。
アイドル部員達は流里邸の大広間で勉強会を開く。その中で歌恋がリリカに問う。
「リリカちゃんの伯母さんて、リリカちゃんのお母さんの…」
「ママの一番上の兄のお嫁さんよ」
「何だかゆかりちゃんに対して様子が変だったけど?」
「聞いた話では三十年くらい前に亡くなった妹にゆかりんが似てるみたい」
「その妹さんて?」
「何だかプロのアイドルやってたそうだよ」
歌恋とリリカの会話から蕾実は悟った。
{もしかして…リリカの伯母さんはゆかりが妹だと気付いたのかしら?でもまさか姫乃友梨香の姉がリリカの伯母さんだなんて)
「ところで部長、ゆかりちゃんは?」
「リリカの伯母上がぜひ話がしたいそうだ」
それを聞いた蕾実は思った。
(やっぱり感づいたのかな…?)
「俺も様子を見てくる、突然のことだからゆかりも緊張してそうだし」
「いいなあゆかりちゃん、お兄さんに心配して貰えて」
羨ましそうに美夢が呟く。
「ごめんなさいね、突然呼び出しちゃて」
別室でリリカの伯母・流里由麻がゆかりと対面した。
「どうも、ゆかりの付き添いで来ました、兄の大張己太郎と申します」
「わざわざすみません、私のわがままを聞いていただいて…」
「ところで、あなたが姫乃友梨香さんのお姉さんで?」
「はい、三十年ほど前に亡くなった姫乃友梨香こと浦木麻里の姉です、それにしても本当にゆかりさんは妹の麻里にそっくり…」
由麻はゆかりの顔をじっと見つめる。
(お姉ちゃん…)
ゆかりは浦木麻里としての懐かしい感情を抑えて、かつての姉の顔を眺める。
「ところで、麻里さんとはどんな姉妹でしたか?」
己太郎が質問を切り出したところで、由麻は自分と妹について語り出す。
「私と麻里は本当、どこにでもいるような姉妹でした…それがあの日以来、私達は大きくすれ違ってしまったのです」
由麻の言う「あの日」とは、麻里が歌手を目指すと決意した日だった。
「麻里が中学生の頃、知人の紹介で雑誌のモデルをやってから芸能界に興味を示し始め、歌手になりたいと言い出したのです。もちろん家族は猛反対しました。それでも無断で応募してオーディション受けたりと、麻里は本気でした。そこで母は芸能界に入る条件を出したのです」
「ああ、これは有名な逸話だよな」
己太郎が呟いたその条件とは-
一、学年内テストで一位を取ること
二、統一模擬試験で学内五位以内に入ること
三、第一志望の高校に合格すること
深いファンの間ではよく知られたことである。
「ですが麻里は猛勉強の末、その三つの条件を見事クリアしたのです。私も麻里と同じ高校でしたが、何とかギリギリ合格したくらいで。そして両親も祖父母も了承せざるを得なかったのですが…」
由麻は溜息をついて更に語る。
「そうしているうちに家族の関心は麻里に向けられて、一家は麻里を中心に廻るようになりました。私は蚊帳の外で皆は私のことなんて二の次でした。こうして私と麻里はすれ違い、麻里が芸能界にデビューしてから、ますます大きな距離が出来てしまったのです…」
「お姉ちゃん…」
由麻は妹の芸能界入りを巡る騒動に入り込む余地が無く、疎外感を抱いていたのだ。
「母は一転して麻里を応援する側に回り、父も渋々ながら協力するようになりました。祖父母も自身の年齢的なこともありましたので、黙って見守ることにしました。私は麻里の取材とかで一緒になっても、たまに話しても、麻里が遠い世界の人になったのではと感じていました…」
寂しい表情で語り続ける由麻。
「そして芸能界入りしてから二年後、麻里は自ら命を投げ出しました。そうして両親の仲は険悪になり離婚、母は実家に戻り、父は私が受け持つこととなりました」
麻里と一緒に暮らしていた祖父母は父方に当たるがしばらくして他界、父は一人っ子で身寄りは長女の由麻だけとなり、由麻は父を引き取ることになった。
「実家に戻った母は病に倒れ、しばらくして麻里の後を追うように亡くなりました。父と暮らすようになってから、それまでの心の溝を埋めていったのです」
父との関係を修復しつつ、由麻に転機が訪れた。
「ある日、父の友人から見合い話が持ちかけられました。見合いの相手は旅行会社の社長の長男で、梨香の母の兄に当たる方です」
見合いはとんとん拍子に運び、由麻は社長の長男と結婚した。
「私はこの見合い結婚を機に、麻里の分まで幸せになろうと決心しました。幸い夫は誠実でしっかりした方だったので、結婚してから今まで上手くやってこられました。子宝にも恵まれ、新たな家族も出来ました。父も安心したかのように天寿を全うしました…」
(お母さん、お父さんも…やはり今はもうこの世にはいないのね)
ゆかりこと麻里は自らの死で家族がバラバラになってしまったことを悔いた。だが姉の由麻は一念発起し、残された父との絆を取り戻して新しい家族も築いて、父の最期を見届けたことに安心と感謝の気持ちで溢れていた。
(お姉ちゃんは自分には出来ない事を私がやって来たことにコンプレックスを抱いていたんだ…そのお姉ちゃんが私に出来なかった事を成し遂げ、幸せな家庭を手に入れたんだ)
そしてゆかりは前世から今世にかけての自分の生き方を振り返る。
(私は苦しい現実から逃げるように自ら身を投げた、家族や友人そしてファン達が悲しむのを考えもせず…今の時代に転生してからは新しい家族や仲間を得て、自分の本来の夢を叶えるためにスクールアイドルになってファンもついてきたけど、もう私の夢のためだけではなく、残してきた前世の家族や友人、ファンの為にも生きなければ…)
「はっ!あ、あら…ごめんなさい、自分語りしてしまって」
我に返った由麻は謝った。
「私、嬉しかったの。ゆかりちゃんを見たとき麻里が生まれ変わって戻って来たんじゃないかと思って」
「あ。あの私…」
ゆかりは今の自分の思いを由麻に打ち明ける。
「友梨香…もとい麻里さんの分まで生きて夢を叶えます!なので…今度のアイドルフェスを見に来てくれませんか?」
「アイドルフェスというと、梨香ちゃんと一緒に出るやつ?」
「はい、私はアイドルユニット『桜乙女』のセンターやってます、めいっぱい謳いますので!」
ゆかりは熱い意志を由麻に伝える。
「ではこちらがそのフェス、アイドル・ラストサマー・フェスティバルの案内です」
側にいた己太郎は由麻にフェスのチラシを渡す。
「ありがとう、主人や子供達にも話してきっと見に来ますね」
笑顔でチラシを受け取る由麻。
「実は…姪に梨香と名付けたのは私なんです。麻里の芸名である姫乃友梨香から下の『梨香』をもらってね」
「そうですか、それがゆかりや仲間達との縁を結ぶおまじないにになったのですね」
己太郎もまた笑顔で応える。
「今日はゆかりちゃんと話せて良かったわ、フェスがんばってね」
「はい、がんばって歌います!」
ゆかりは満面の笑みを浮かべた。
別室のリリカの部屋ではアイドル部メンバーが勉強会をしているところで、部屋の中はアニメキャラのポスターやフィギュアで彩られていた。
「リリカの部屋って思ったより片付いてる、と言いたいけど部屋のインテリアが騒々しいわね」
「つぼみんにとっては未知の世界ね」
「私の部屋もアイドルのポスターで張り巡らされてるよ」
「美夢ちゃんも?私の部屋も推しのアイドルのポスターやアクスタでいっぱいだよ!ちなみにお姉ちゃんは推しのバンドのポスターだよ」
そんな話をしながら勉強も一段落して、フェスの打ち合わせに移ろうとする。
「それより部長とゆかりちゃん長いよね」
歌恋が己太郎とゆかりのことに気付く。
「ユマ伯母さん話が長いよねえ」
「ちょっと様子見てくる」
蕾実は席を立って己太郎とゆかりを迎えに行く。
「二人ともどうしたのかしら…」
蕾実が出迎えようとしているところで、ある部屋で泣き声が聞こえた。蕾実が耳を澄ませて聞くと、その泣き声はゆかりであった。
「やはりお姉さんに会えて嬉しいか?時を超えて」
優しく問いかける己太郎。
「うん、でももの凄く申し訳ない気持ちなの。私があの世にいなくなってから、それ以前に芸能界入りしてからのお姉ちゃんはとても辛い思いで生きてきたんだって。お姉ちゃんだけじゃない、お母さんもお父さんも…お祖父ちゃんやお祖母ちゃんも、私、家族に対して勝手なことばかりしてたんだって」
「そのお姉さんの様子はどうだった?」
「お姉ちゃんは苦しくてもがんばって自分の幸せをつかんだ、お父さんとも仲直りした、お姉ちゃんは立派だよ、本当にお姉ちゃんには償いたい」
「今度のフェスのステージで、お前の想いを歌にしてぶつけろ」
「お兄ちゃん…」
己太郎の温かい言葉を受けて、更に泣き出すゆかり。
「俺の胸の中で思いっきり泣け、そして明日からはまた大張ゆかりとして生きていくんだ」
部屋の外で二人の会話を聞いた蕾実は涙ぐみながら呟く。
「ゆかり…一緒にフェスがんばろう」
アイドル・ラストサマー・フェスティバル当日、会場は広大な公園のステージで開催される。天候は快晴である。
「それではここで今注目の学校の部活でアイドルやってる、いわゆるスクールアイドルのグループ・桜乙女のステージです!」
司会者の紹介で登場する桜乙女。
「皆さん初めまして、桜乙女です!」
今日もセンターは大張ゆかりで元気に挨拶をする。
「今日はメンバーの蕾実さんが詩を書いて、歌恋ちゃんが曲を付けてくれた新曲を歌います!タイトルは『ビリーブ・イン・ドリーム』です」
ゆかりは桜乙女のメンバーで作った曲を歌唱する。その歌詞は夢を信じて前に進むという内容で、ゆかりは自分の思いを歌にして伝える。
「麻里…」
客席にはゆかりの前世である姫乃友梨香こと浦木麻里の姉・由麻がいる。ステージで歌うゆかりの姿こそ、アイドル姫乃友梨香としてステージに立つ妹・麻里の姿に見えるのだ。
「やはりあの娘は…麻里の生まれ変わりだわ」
由麻は歓喜の涙を浮かべながら、ゆかりのステージを観賞する。
桜乙女は他に三曲ほど披露してからステージがを終了し、メンバーは楽屋裏に回った。
「みんなよくやったな、この調子で次のライブにも参加するぞ!」
部長の己太郎がメンバーに労いの言葉をかける。
「ありがとうございます部長、ところでゆかりちゃんは?」
「由麻さんのところへ挨拶に行ってるよ、すぐ戻ってくる」
「ユマ伯母さん、喜んでたな~きっとゆかりん推しだよ」
そんな談話をしていると、一人のアイドルが話しかけた。
「あの…桜乙女の皆さん」
声をかけたアイドルはショートカットのやや褐色の少女であった。
「はい、確かあなたはシュガーアイランドの…」
彼女はユニット名・シュガーアイランドのメンバーだった。
「シュガーアイランドの新保千夏といいます、実はうちのグループが解散することになって…」
「ええ、ステージでも今日がラストと言ってましたね」
「そして私自身も有分高校に二学期から転校することになりました!それで…」
千夏は間を置いて打ち明けた。
「桜乙女に、アイドル部に入りたいのですが」
「何だって!?」
己太郎とメンバー達は驚いた。千夏がその後どうなるかは、二学期が始まってからの話だが、もう一波乱起きることに…
つづく
二学期が始まり、転校生・新保千夏がアイドル部に入部。一方、歌恋はプロの世界にスカウトされていたが…




