前世編6 わけありアイドルの転生
黄泉の国に迷い込んだ友梨香は意外な人物に再会する。そして転生する話を持ちかけられ、友梨香は再び自分の夢を叶えるのか?
人気アイドル・姫乃友梨香はその人気故に多忙と酷使によって精神的に追い詰められ、自ら命を投げ出してしまった。その魂は黄泉の世界に入ったかと思われた。そうして目を覚ましたところ、そこは天国でも地獄でもなかった。友梨香はカプセルのようなものに入っており、謎の異空間に浮遊していた。
「ここは…死後の世界?」
友梨香の目の前には一人に男性が立っていた。
「ようこそ浦木麻里さん、いやここは本名でなく姫野友梨香さんと言った方が良いかな?」
「あ、あなたは…」
その男性は友梨香が見覚えのある顔であった。以前、友梨香が一度事務所を抜け出し、彼女の行方を追っていた芸能誌の記者二人組の一人、辰馬三郎だった。
「何故…芸能誌の記者のあなたが?」
「芸能誌の記者は仮の姿、実は私は時空管理局のエージェント・タツマなのさ」
「時空管理局…何なのそれ?」
「時空管理局とは、時空に散らばる各世界線のバランスを調律する組織なのさ。君たちの住んでいる世界に芸能誌の記者となって生活し、時空のバランスを脅かす現象が起これば、それを上手く修正し調律してゆくのが私達の役目、言うなれば『調律師』なのさ」
「まさか…そんなことが」
かつて自分と関わった雑誌記者・辰馬の思わぬ正体を知って驚く友梨香。
「実はだな、君が死んだことで大きな現象が起こったんだ」
「え?私の?」
「人気アイドルだった君の死で、君の住んでいた世界は大きな悲しみに包まれた。君の後を追って命を投げ出したのも数多く…」
「私の死で…皆が…」
友梨香は自分の死が重大な影響を及ぼしていたことに気付く。
「君はそれだけ数多くの人々から慕われていたのだよ。そしてその悲しみが集まり、壮大な現象を…ビッグ・バンを起こしたのだよ」
「ビッグ・バン?」
「そのビッグ・バンで幾つもの世界が生まれた。君が死を回避し生きている世界、君を死に追いやった元凶を断罪する世界、君が生まれ変わって夢を叶える世界など様々なルートの世界がね。全て君への想いで作られた世界なのだよ」
姫乃友梨香を慕い、その死を悲しむ感情の集合体がビッグ・バン現状を起こし、多くの世界線が誕生した。そして友梨香の本体の魂は、時空の狭間でなぜかさ迷っていた。
「まさか…そんな…」
自らの死によってその悲しみで、多数の世界線が作られた。友梨香は困惑しつつも自死によって与えた現象から、その重大さを痛感していった。
「さてここからが本題だが…君、生まれ変わってもう一度夢を叶えないか?」
「え…何ですって?」
辰馬の意外すぎる言葉に更に驚く友梨香。
「いろんな世界で不慮の死を遂げたり心残りのまま亡くなった人間の魂を、異世界、未来世界、別世界線に転生させ人生のやり直しを手助けしている、これも管理局の調律師としての使命でもあるんだ」
「で、でも私は…」
友梨香はこれまでの自分の人生について語り出す。
「私は自分の夢を描くために家族の反対を押し切ってまで芸能界入りした…でも自分のやりたいことよりも事務所の言うことをよく聞いて、決められたことに従って与えられた仕事をこなすこと…私の描いた夢とは違っていたの」
夢を抱いてアイドルになった友梨香だが、実際は事務所の管理下で決めた通りに働かされ、自分の意志など二の次であった。
「そうやってるうちに自分はどこに居るんだろう?何もかもが苦しくて逃げ出したくなって…」
「そして君はあの時、逃げ出した」
「そう、そして辰馬さん達に出会い、美沙と再会して一君に…」
友梨香は業界から抜け出した自分を助けてくれた一やモデル時代の親友である美沙と日常を過ごして安らぎを覚え、いつしか一に思いを寄せるようになった。しかし友梨香は美沙の一への恋心を知ってしまった。そして自分の帰りを待っているファンの事を思い出して、アイドルとして戻る決意をした。
「やっぱりファンを大切にしなければいけないと思い戻ってきたの、親友の美沙やファンになってくれた一君や宮乃ちゃんのためにも…だけどそれからは二度と逃げ出さないように事務所の管理が厳重になり、これでもかと仕事を入れられ休みなんか一日もなかった。心のよりどころはドラマで共演した神峰竜治さんの付き人の東里出塁君…私のお兄ちゃんになってくれた人なの。その彼といろいろ連絡取ってたけど、お母さんが病気で実家に戻ってからはそれっきりになって…」
心のよりどころも断たれて仕事にのめり込むが、いつしか鬱になっていく友梨香。
「夢も自由も奪われて、周囲の思い通りに動かされていた、いつしかファンの声も心に届かなくなっていた、もう何もかも苦しくなって気づけば身を投げていた…」
友梨香は心の内に秘めた苦悩を辰馬に打ち明けた。
「ならそれこそ自分の願いの叶う世界に生まれ変わってみないか?」
「どんな世界ですか?」
「君が現世を去ってからだいたい三十年くらい先の未来世界はどうだい?」
「未来の世界…」
辰馬の証言に不可思議な思いを抱く友梨香。
「その頃には思想や表現など多種多様に認められつつある世界になっているんだ、いわゆる多様性の時代なのさ」
「多様性?聞いたことのない言葉だわ」
「例えばアイドルとして活躍するのはテレビやステージだけではない、アイドルだからこうあるべきとか、やってはいけないとか、そんな固定概念なんてぶち壊すような表現が出来るんだ」
「固定概念を壊す…はっ!」
友梨香は自分が兄と慕う東里出塁との会話を思い出した。
「お兄ちゃんと学校の部活でアイドルやれたら良いなって話をしたことがある…それが出来る未来なんですか?」
「二十一世紀に入ってから自主制作で活動するインディーズアイドルが盛んとなり、その中でも学校の部活でアイドルをする時代を君で作ってみないか?」
「私が自主的な活動でアイドル…でも」
友梨香は一つ気がかりなことがあった。
「でもなんだい?」
「私が命を投げ出したことでファンや家族、いろんな人達に迷惑かけてしまった…皆の期待を裏切って命を捨てた、そんな私が人生をやり直す資格なんてあるの?」
「本当に申し訳ないと思うなら、それこそ君の夢を叶えることが償いになると思う」
「夢を叶えることで償える…?」
「そして何より僕も管理局エージェントの使命とか単なる世界のバランスの調律のためではなく、僕自身の願いで君にもう一度夢を叶えて欲しい」
「ここにもまだ私の夢に希望を持った人がいる…」
一息ついて、辰馬はある提案を話す。
「君一人で心配なら、君をサポートする人間も転生させる。この空間では転生して再起を図る魂がたくさんあるから、君との夢を共有して歩んでくれる人間もいるはずだ」
「それが本当なら…あなたは神様だわ!」
「まあこの時空管理局がいわゆる神様の役割を担っているのかな?」
友梨香の心の中では、だんだんと転生する決意を固めてきた。
「今一度問う、もう一度、自分の人生をやってみないか?」
「もし叶えられるのなら…やります、学校でアイドルできるようになります!」
遂に友梨香は転生してもう一度夢を叶える決意をした。
「ところで未来世界ではどのように部活アイドルを全国に披露できるのですか?テレビは難しいし、舞台だと活動範囲が限られてるし…」
「未来にはテレビや舞台よりも全国に披露できるインターネットというものがある、詳しいことは実際にその世界に転生してから学ぶと良い」
「インターネット?聞いたことないけれど、それが未来の言葉なのね」
辰馬は更に話を続ける。
「転生するには記憶をリセットしてゼロからスタートするのが本来のやり方だったんだが、近年は前世の記憶を持ったまま転生するのも可能になった。君ならどうする?」
友梨香は考え込んだ。そして答えが出た。
「私は…記憶を持ったまま転生します!」
「そうか、それでいいんだね?」
「はい、お願いします!」
「ではこの扉を開けて」
そう決心した友梨香の前に扉が出現する。
「この扉の向こうは君の住んでいた世界の三十年後の世界だ。扉を開けてそのまま進めば君は生まれ変わって、もう一度夢を叶える道を進める。全ては君の意志にかかっている」
「私はもう自分で命を捨てたりしない、今度こそ夢を叶えてみせる!」
そう言って友梨香は扉を開ける。
「さようなら、そしてありがとう!」
未来へ転生に踏み切った友梨香の見た世界は…
「ほら、己太郎。見てごらん」
「己太郎の妹ちゃんですよ~」
転生して赤ちゃんになった友梨香が目を覚ますと、そこには父と母、兄とおぼしき二歳くらいの幼児が目に入った。
(これが私の新しい世界でのお父さんとお母さん…その子はお兄ちゃんなのかな?あ…でもこのお父さんとお母さんの顔、もしかしたら…)
転生した世界の友梨香の両親はどこか見覚えのある顔だった。
(お父さんの顔、どこかで見たと思ったら…一君?)
父は友梨香がアイドルの頃、逃亡中に出会った想い人・大張一だった。
「これで念願の女の子が生まれたわ、己太郎、お兄ちゃんとして妹のゆかりを頼んだわよ」
(お母さんは…美紗だわ!)
母は友梨香のかつての親友・美紗だった。
(そうか、一君と美沙は無事に結ばれたんだ。その二人の娘として転生できるなんて…)
友梨香は嬉しさと不可思議さが入り交じった思いである。
「それにしても生まれた日が、あの姫乃友梨香と同じだなんて運命じゃないか?」
「そうね、だから私は友梨香…麻里がかつて使った偽名の『ゆかり』て名付けたの」
友梨香が度重なる仕事の苦悩から逃亡した時に美紗に助けられた友梨香だが、今の自分の名前となった「ゆかり」は、逃亡中に友梨香が名乗った偽名で、それを美紗は自分の娘に名付けた。こうして姫乃友梨香こと浦木麻里は大張一と美沙の娘・大張ゆかりとして新たな人生を開始するのであった。
その後、ゆかりは兄の己太郎と二人きりになった。
「友梨香…待ってたよ」
「友梨香?今の私はゆかりだけど…」
現在二歳であるはずの兄の二歳児らしからぬ口調に驚くゆかり。
「僕だよ、東里出塁だよ!」
「お、お兄ちゃん…」
友梨香の生前にドラマで共演して義兄妹の関係となった東里出塁が、友梨香=ゆかりの本当の兄として転生していた。
「で、でもどうして…」
「事故で足滑らせて、気がつけば死んでいたんだ…そこで辰馬という時空管理局の人、というか神様か天使みたいなのに、君の兄になってサポートしてくれって言われたんだ」
舞台役者をしていた塁は不慮の事故で命を落とすも、時空管理局の辰馬の導きで友梨香と兄妹になって転生したのだ。
「私、お兄ちゃんと本物の兄妹になれたんだ」
「友梨香…いや、ゆかり!生前に語った学校の部活動でアイドルをやろう!そのためには数多くの勉強や今世の学習をすることだ、学校での勉強はもちろん今世の知識や常識や価値観を受け入れ、アイドルになるための基礎や経験を積んでいこう!」
「そうね、前世では叶わなかった私の夢…しがらみに捕らわれず、私の描きたいアイドルになって皆に伝えたい!」
「そうだ、今世こそ学校でアイドルをやろう!学校を拠点のステージとして、理想のアイドルを広めていこう!」
姫乃友梨香は想い人と親友の子・大張ゆかりとして生まれ変わり、兄・己太郎として生まれ変わった東里出塁と共に、新たなるアイドル像である部活でアイドル…スクールアイドルを目指すのであった。
そして現世、大張ゆかりから前世の話を春日野蕾実は聞いていた。ゆかりが姫乃友梨香として芸能界に入ってからの活動と所属しているミタニプロからの扱い、思いあまって逃亡してからの出会いと再会、芸能界に戻ってからの苦悩と新しい出会い、苦悩の末に命を投げ出し転生するまでの経緯を語った。転生後は自分の兄として生まれ変わった東里出塁もとい大張己太郎と共に現世の世情や価値観を学び、アイドルについて研究し、そのための訓練を重ねていった。
「そういうことだったの…ミタニプロって昔はそんなに酷かったのね」
「夢を叶えるためではなく、事務所の駒となって働けばそれで良かったのよ…私が自殺したときは管理責任を追求されるのを恐れて、私のお兄ちゃん…東里出塁との叶わぬ恋に悩み苦しんだのが原因にしようとしたの。お兄ちゃんからその話を聞いて怒りがこみ上げてきたわ。でもドラマで共演してお世話になった神峰竜治さんが失恋相手だと名乗り出たの、もちろんお兄ちゃんを守るための嘘なんだけどね。お兄ちゃんはマスコミの餌食にならなくて済んだけど、この件で芸能界に嫌気がさして一度引退し、自主的に劇団で活躍する舞台役者になったの…」
「部長も前世は役者だったのか、道理でやってることが高校生とは思えないような大人びたところがあるはずだわ」
蕾実はゆかりの転生前の話を受け入れていた。蕾実自身も俳優研究施設で天才俳優になるため人工的に作られた、いわゆる人造人間なのであるから。
「そういえばアニメやドラマにもなった漫画で、あるアイドルのファンが殺されて何とそのアイドルの子供として転生するのがあったわ。でもそのアイドルも殺されて、アイドルの子が真犯人を追い求めて復讐する話だけど…」
「私を死に追いやり、お兄ちゃんを犠牲にしようとしたミタニプロに復讐?でもそのミイタニプロも今は解散して存在してませんよ」
「そうね、社内の内紛で事務所としての機能を失いかけたから、解散に至ったのね。こうなったのも因果応報かしら?ところでゆかりはミタニプロは憎くないの?」
ゆかりは一息おいて自分の思いを語る。
「憎くない…といえば嘘になるわ。復讐心もあったかも知れない。でも私はそれよりも自分の理想のアイドルになる夢があるの!もしかしたらそれが私にとっての復讐かもしれない」
「憎しみよりも夢と希望を実現することを目指す…ゆかり、あなたは素敵なリベンジャーだわ!」
「やれやれ、ここで俺たち兄妹の秘密を話してくれるとな」
「お、お兄ちゃん!」
「部長!いつの間に…」
突如、己太郎が現れた。どうやら二人の話を聞いていたそうだ。
「ごめんなさい、二人の秘密を話しちゃって…」
「まあ蕾実もまた特殊な出生だし、天才的な感性の持ち主である蕾実なら話しても分かってくれるとは思っていたが」
「天才だなんて…アイドルとしてはまだまだ凡才よ、ゆかりには敵わないわ」
今度は己太郎が前世について語り出す。
「俺も前世ではミタニプロに復讐してやろうと思ったことがあって、そう言う有志が集まって姫乃友梨香の事件をモチーフにしたプロジェクトを立てたことがあるが、結局上手くいかず犠牲者まで出してしまった…そんなことは二度と起きないように、せっかく生まれ変わったのなら復讐よりも新たなアイドルを目指した方が最高の方法だと思ってな」
「部長にもそんなことが…」
「まあ俺の話はまた今度だ、それより全員でミーティングだ」
「はい部長!それにゆかり…」
「何ですか?」
「私たちでスクールアイドルになって、歌やパフォーマンスを広めましょう!」
蕾実はいつしかゆかりと共にスクールアイドルとして理想のアイドルになる夢を追い求めることを決心していた。ゆかりは前世の辛かった頃を乗り越え、アイドル部の仲間達と夢に向かって歩いて行くのである
前世編 完
前世編は一旦終了し、次回は現世での物語。スクールアイドルとしての活動にグラビア撮影が持ち上がる!?




