前世編5 わけありアイドルの死と役者の旅立ち
姫乃友梨香の突然の訃報…かつての共演者である兄貴分の東里出塁は彼女の死を乗り越えられるか?そして友梨香の魂は…
将来を有望されたアイドル・姫乃友梨香の突然の訃報…自殺報道は世間に衝撃を与えた。塁はドラマ「サイキック少女ひろみ」で出会ってから友梨香を妹分として接してきた仲である。コンサート期間とドラマ撮影期間が被り、休日もなく撮影も8時間休憩がなかったり、時には撮影が深夜に及ぶこともあった。そんな中で友梨香を励まし、相談相手となって支えたのが塁だった。だが塁にとっては、母を亡くして間もなく「妹」も亡くしたことになるのだ。食堂のテレビで友梨香の訃報を知った塁は、自分の下宿先のアパートに戻った。テレビを付けたが、どこも友梨香が自殺したニュースで騒然だった。
「何故だ…なぜ友梨香があんなことに…」
ショックを隠せない塁。その時、電話がかかった。
「塁、俺だ!今は部屋にいるんだな?」
電話は塁の師・神峰竜治からだった。
「は、はい…」
「本当なら夕方から仕事だが、今日はオフだ!良いか、早まった真似するんじゃないぞ!」
「…分かりました」
神峰も友梨香の訃報を知り、塁を気遣ったのか緊急で休暇を与えた。電話を切った後、塁はぐったりと横たわった。
目が覚めると、時計は夜十時を回っていた。テレビは付けっぱなしでニュース番組が放送されていた。ちょうど姫野友梨香の自殺報道が流れていた。間もなくある男のインタビューが写った。
「あれ…竜さん?」
インタビューを受けているのは神峰竜治である。ドラマの共演者である神峰に友梨香について問われていた。その神峰が語るのは…
「正直ものすごいショックです…僕は兄代わりのつもりだったが、彼女にはそれ以上の感情があったのかも知れません」
そのコメントに対して報道陣から「男として責任を感じていますか」と問われ
「彼女にとっての初恋のようなものではないかと…年もかなり離れていますし、自分には既に結婚を決めていた女性がいると伝えたのですが、彼女としての愛を気づかず受け入れられなかったとすれば責任はあると思います」
「そんな…竜さんがそんな!もう結婚はこりごりって言ったはずじゃ…」
神峰のコメントに憤る塁はアパートを飛び出した。そしてセリフの練習の場として使っていた、人気のない公園で叫んだ。
「ちっくしょー!友梨香ー!」
塁の声は空しく響いた。
翌朝、塁は再びテレビを付けた。朝のワイドショーは友梨香の自殺報道で持ちきりである。昨夜の神峰のインタビューで婚約者がいたが、今回の報道で解消されたと語られていた。これを見て再び憤りを感じた塁。そんな時、電話がかかってきた。
「…はい」
取りあえず受話器を取る塁。
「塁ちゃん、テレビ見た?大丈夫?」
その声は女性で、神峰の行きつけのスナック「インティゴ」のママ・ランコである。
「ランコさん…なぜうちのアパートに」
「竜ちゃんから塁ちゃんちの電話番号教えてもらったのよ、今からうちの店来てくれる?」
「…そこに竜さんもいるんですか?」
「もちろんよ、竜ちゃんがかけたら今の時期だと角立ちそうだし、代わりに私が電話したの、今回の件で本当のこと話すわ!」
「は、はい」
通話が終わった後、塁はスナック・インティゴへ向かった。
スナック・インティゴは夕方開店で昼間は閉めていた。店にたどり着いた塁はドアのチャイムを鳴らした。
「いらっしゃい、空いてるわよ」
ママのランコの声がした。塁が店に入ると、カウンター席に神峰がたたずんでいた。
「竜さん…」
「塁、友梨香ちゃんのことは非常に残念だ、その彼女とお前、手紙のやり取りしてたんだな?」
「え…なぜそれを?」
塁と友梨香はドラマ撮影終了後、文通をしていた。その際はお互いに偽名を使って手紙を出しており、塁は事前に友梨香から聞いた実家の住所と母と姉の名前で、友梨香もまた偽名を使い、お互いの事務所宛に出していた。
「偽名を使ったって手紙の内容で分かるぞ、ミタニプロで友梨香ちゃんの遺品集めたら手紙が出てきた」
「ここ一ヶ月くらいは手紙も途絶えたままですが…」
「そこでミタニプロの連中は、友梨香ちゃんの自殺の原因はドラマ共演者の駆け出し役者との実らぬ恋に悩んだ末ということにしたかったそうだ」
「何だって!」
テレビでの報道とはまるで違う事情を聞かされ驚き、困惑する塁。
「実際の相手役である市来徹也とは共演者以上の仲にならなかったのと、バックに大手プロが付いてることからやりにくく、無名の新人で直接交流のある塁を失恋相手もとい自殺の原因にしたかったのさ」
その証言を聞いて塁は言葉にならず呆然とした。続いてランコが語り出す。
「竜ちゃんはね、塁ちゃんの将来を守るために、自ら友梨香ちゃんの失恋相手になったのよ…いもしない婚約者をでっち上げてもね」
「でも友梨香は失恋くらいで自殺するような奴じゃない!現に失恋してもそれをバネに頑張っていたんだし…」
「事務所は…ミタニプロはどうしても自殺の原因を失恋にしたかったんだよ」
神峰はまたも衝撃的な発言をする。
「何故ですか?」
「あの事務所は友梨香ちゃんに休日も与えず、次から次へといろんな仕事をさせてきたそうだ。彼女の意志などお構いなしでね…そして精神的に追い詰められて鬱状態になり、自殺にまで追いやられたんだよ」
付け加えるようにランコママも 語り出す。
「散々こき使った上に精神面でろくにケアもしなかった、要するに管理責任を問われたくなかったのよ。自殺したのは事務所の責任だと認めたくなかったのよ」
「じゃあ…ミタニプロは会社のプライドのために失恋したことにしようとしたのですか?」
「その通りだ塁、ミタニプロが先ず事務所に問い合わせてきたが、お前には将来がある!だから駆け出しのお前よりベテランの俺が友梨香ちゃんの想い人になった方が動じないと思ってな、元々ワルのイメージで売ってたからちょうど良いし」
「婚約者がいるなんてもちろん嘘よ、私もテレビで見たけど一発で嘘だと分かったわ、嘘を言った理由は後から知ったけど」
神峰とランコママから事情を聞いた塁はショックで震える。
「竜さんが俺のために…そんな…」
「ここで本当のこと言ったら、お前は潰されてたぞ?文通しただけとか言い訳にならない、それでも男女の仲だと勘ぐられるだろう」
塁は師匠である神峰が塁自身の将来を守るため、マスコミに嘘の証言をしたことに感謝よりもショックの方が大きかった。
「ねえ竜ちゃん、塁ちゃんも相当ショック受けてるし、もう少し休ませたら?」
「そうだな、次の仕事は付き人でなくマネージャー連れてくか」
「竜さん…」
「何だ?」
塁の表情は思い詰めてる様子だ。
「俺もっと、これからのこと考えてきます。休み明けたら答えを出します…」
「そうか、取りあえず今日はもう帰れ」
塁はスナック・インティゴを出て帰宅した。
翌日の晩、塁は神峰とスナック・インティゴにいた。今後について二人は話し合っていた。
「竜さん、俺…決心しました」
「何だ?」
「俺、大学の劇団に戻ります」
塁は大学に進学してから演劇部に入った。その演劇部は単なる大学の部活動ではなく、本格的な劇団としてクオリティの高い演劇を目指していた。塁は大学の勉強や演劇と並行して芸能界で付き人をしながら、役者として小さな役を得てこなしてきた。最近は母の病気と死も重なり、今は休学中だった。
「芸能界では学ぶこと多かったですが、演技よりも芸能界のしきたりやシステムなど、この世界をどう渡っていくかを学んだ方が多かったと思います」
「まあ下手すりゃ演技の善し悪しより、芸能界をどう生きるかの方が重要になってるところあるな」
「友梨香は…アイドルとして自分がやりたいことあったと思います。でも結局は事務所に商業目的で使われて、自分の意志で夢を叶えることができなかったのではと…それに引き換え俺は、何のために役者目指してたのか、映画やテレビに出て有名になりたかったのか…大学の劇団で一から演技の勉強をして、自分のなすべき事を見直したいという決意に至りました」
「なるほど、つまりもう一度演技の勉強をし直して、もっと自由に表現したいということかな?」
「はい!」
そう返事した時、塁の背後から声をかける人物がいた。
「塁君、芸能界から去るのか?」
その人物はかつてのドラマの共演者で準主役だった市来徹也である。
「市来、お前も来てたのか」
「神峰さん、彼を辞めさせるのですか?」
「だが芝居はやりたいそうだ、塁としてはテレビや映画より舞台の方をやりたいんだろ?」
「はい、より自由な表現と演技を目指し、強いては劇団を立ち上げたいです!」
「それが友梨香ちゃんへの弔いなのか?」
「そうです、彼女が己の意志を貫こうにも貫けなかったことを、アイドルと演劇人の違いはあれど、俺自身が貫いて見せます!」
「そうか、よく一日で決意した…お前の進むべき道を行きな」
「竜さん、今までお世話になりました」
塁は店から立ち去ろうとする。
「待ってくれ塁君!」
市来が塁の後を追いかける。その様子を眺める神峰とランコママが語らう。
「普段は大声張り上げる竜ちゃんも、別れは静かに見送るのね」
「あいつを守るためにしたことが…まさか追い出すことになるとはね、皮肉なものだ」
「でもそれも夢のためであるが故の決意なのよね」
「俺とママで塁の門出にカンパーイ!」
神峰とランコの乾杯で塁の門出を祝った。
「塁君、待ってくれ」
市来は塁を引き留める。
「本当に…辞めるのか?」
「芸能界と竜さんの付き人と事務所は辞めますが、演劇は続けます」
「そうか…舞台を活躍の場にするのか」
「はい、うちの演劇部では本格的な劇団を立ち上げる目的があります。俺にも協力を求められましたが、ドラマやらプライベートやらでなかなかできませんでしたが、これでまた劇団設立に向けて力になります!」
「よくそこまで決心がついたね、僕としては残念だけど」
「市来さんは今の若手では注目株で、俺よりも大切な時期じゃありませんか」
「僕はね…君に期待してたんだよ」
「え?」
「確かに未だ演技は未熟でも光るものがある、ドラマで君と同じ僕の弟分役だった加藤昇君も『生き残る方は俺ではなく塁だ』と言っていたくらいだし」
「そんな、まあ市来さんこそ今は大切な時期なんじゃないですか」
市来と話してるうちに塁はあることを思いついて話す。
「そういやマスコミは俺か竜さんを友梨香の失恋相手にして祭り上げようとして、結局のところ竜さんになったけど、市来さんは相手として噂されませんでしたね?やはり市来さんくらいだと大手プロダクションがバックについて、そういうのをブロックしたりしてるとか?」
「それもあるけど、実は僕は…」
改まったように市来は話す。
「僕は姫野友梨香さんのことは共演者である以上の感情は抱いていなかったんだ」
「え?」
「僕が常に気になっていたのは東里出塁君…君だ!役者として君とは良きライバルになるかと期待していたんだ、そして一人の男としても…」
「一人の…何ですか?」
「い、いや何でもない。もし芝居の上演あったら、うちの事務所の方に連絡してくれ」
市来は自分の所属事務所の名刺を塁に渡す。
「もしまた芸能界でやっていく気になったら、いつでも言ってくれ!じゃあね」
すかさず市来はその場を去った。
「市来さん、俺のこと気にかけてくれてたんだ…それより大学戻って演技の勉強、一からやり直しだ」
塁は友梨香の死を乗り越え、新たな道を歩み出した。
こちらは再びスナック・インティゴ。塁が去った後、神峰とランコママが談話していた。
「ねえ竜ちゃん、市来君の塁ちゃんを見る目、どう思った?」
「どうって…いかにも名残惜しそうな感じだったな」
「市来徹也、彼は東里出塁に惚れている!」
「何?まさか市来は…そっちの方だったのか?」
「ええ、彼も何度かうちの店に来たけど、異性にはまるで興味なさそうな感じだったわ。男同士で話すと目が輝いていたけど…」
「なるほどねえ、そら友梨香ちゃんとは男女の仲にはならなかったはずだよ」
市来の塁への想いに気づいた神峰とランコであった。
大学に戻った塁は演劇活動に一心不乱となり、抜群の演技力を身につけた。やがて演劇部の部長となり演出も手がけるようになった。大学卒業後は劇団「砦」を立ち上げる。東里出塁の名字「とりで=砦」が名の由来で、学生演劇出身者たちが自主的にかつ自由にやりたいことをやるのを目標に掲げた劇団である。主催の塁は当劇団の演劇活動はもちろん、高校や大学の劇団の演出家としても参加する等、エネルギッシュな活動を展開していった。
さて自ら命を絶った姫野友梨香は安らかに黄泉の世界へ入ったのか…
その友梨香の魂は異空間に浮遊していた。その魂は友梨香自身の姿となり、カプセルのようなものに収容されていた。そして友梨香は目を覚ました。
「ここは…死後の世界?」
友梨香の目の前には一人に男性が立っていた。
「ようこそ浦木麻里さん、いやここは本名でなく姫野友梨香さんと言った方が良いかな?」
「あ、あなたは…」
その男性は友梨香が見覚えのある顔であった。
「君、生まれ変わってもう一度夢を叶えないか?」
「え…何ですって?」
男性の正体は?友梨香の今いる世界は果たして…
つづく
一度は命を失った姫野友梨香は生まれ変わってもう一度自らの夢を叶えることに…?そして転生先の現世では!?




