第1話 わけあり五人の少女
アイドル志願の少女・緒方歌恋は転校先の高校でアイドル部を立ち上げようとする大張己太郎に出くわす。興味を持った歌恋は様々な少女達と出会い、学校でアイドル活動するスクールアイドルに足を踏み入れる。
第1話 わけあり五人の少女
東京のとある学校――有分高校
この学校に転入生がやってきた。名は緒方歌恋という少女で高校二年生。以前通っていた高校が廃校となり、親の勧めで転入してきたのだ。
「ここが私の新しい学校…」
歌恋はアイドルになるのが夢だったが、オーディションでは落選続きで、その上で廃校問題のゴタゴタで高校の一年を終えてしまっていた。
「オーディションは選考止まりで、学校もなくなって、けれどここからまた私は再スタートして、アイドルの夢を叶えるんだ」
転校初日、歌恋はクラスで自己紹介をする。
「みなさんはじめまして、緒方歌恋と言います。親の転勤でこの学校に転校しました!」
さすがに前の学校が廃校になったからとは、ちょっと恥ずかしくて言えなかった。
「将来の目標は?」
生徒の一人から質問が出たので歌恋は思わず…
「アイドルになることです!」
教室内はどっと笑いがこみ上げた。
「あーやっちまったな~あの反応だと私が無謀なバカに見えたんじゃ…」
転校デビューで自己紹介に失敗したと歌恋は後悔していた。
「あの反応だと、私ってアイドルになるには物足りないってことなのかな…」
そんな中、突然耳を疑う声がした。
「アイドルにならないか!」
その瞬間、歌恋が振り向くと、そこには長身眼鏡の男子生徒と黒髪の美少女がいた。
「えっ学校内でスカウト?まさか…それにあの女子、どっかで見たような…確か同じクラスだった」
黒髪美少女は何やら嫌がってる様子で。
「馬鹿なこと言わないで下さい、学校でアイドルだなんて」
「君なら出来る!子役時代から培ったスキルがあれば」
男子の方は熱心に説得している。
「子役?もしかして…そうか!」
歌恋は黒髪美少女が誰かを思い出した。かつての人気子役・春日野蕾実だった。
「最近、レギュラーのドラマが終了してから、余り見なくなったけど…まさかの同級生?」
人気子役として活躍していた春日野蕾実は、長寿ドラマ「大人の事情はろくでなし」で子役時代からレギュラー出演していた。だがそのドラマは脚本を書いていた作家が去年亡くなり、番組も終了した。
「今フリーなんだろ?なら俺と一緒にアイドルしよう!」
「フリー?そうか!」
歌恋は気付いた。春日野蕾実の所属事務所・ミタニプロは数年前に前社長が亡くなり、息子が後を継いだが芸能界の熾烈な競争で後れを取り、その上社内では方針を巡って内部分裂を起こしていた。審議の結果、事務所の解散が決定した。
「まだフリーになるなんて決めてませんし、ほっといて下さい!」
蕾実は突っぱねてその場を去った。
「俺は諦めないぞ春日野蕾実!」
「ハア…有名人は辛いな」
二人のやり取りを見た歌恋はため息をついた。
「蕾実ちゃん、子役卒業したら声優になるのかな?」
「えっ?」
歌恋は自分の側で呟く女子に気付いた。自分より少し背の低い、ツインテールの少女である。
「何で彼女が声優に?」
「子役上がりの声優って結構いるんよ、シャアの人とかそうだし」
ツインテールの少女は流暢に語り始めた。
「蕾実ちゃんも劇場アニメとかで声優経験あるし、演技も好評だったそうだよ」
「てか…あなた誰なの?」
ツインテ少女が自己紹介する。
「あ、初めまして!有分高校一年、流リリカと申します!」
「後輩か…」
「私声優目指してますが先輩は?」
「私は…アイドルかな」
「アイドルになってしばらくしたら、声優に転じますか?」
「何で?」
「元アイドルの声優もいるんですよ、南ちゃんの人とか」
「アイドルだと!?」
さっきの眼鏡男子が二人に声をかけた。
「一年の流リリカです」
「私は二年の緒方歌恋と言います、春日野さんとは同じクラスです」
二人を見つめた眼鏡男子
「ふむ、二人とも話をしよう」
男子は二人を連れて外に出た。
「俺は三年の大張己太郎、スクールアイドル部を作ってプロデュースする者だ」
「スクールアイドル?」
「学校でアイドルをやるものだ」
歌恋は考え込んだ。
「学校でアイドル…ものは試しでやってみようかな?」
「ほう、君はアイドルになりたいのかね?」
「はい、でもなかなかオーディション通らなくて…」
「なら学校でなら今すぐにでもアイドルできるぞ!」
己太郎は次はリリカに問う。
「後輩、君はどうかね?」
「そうね、声優になる前にアイドルで修行してみるか」
「よし、二人とも採用!」
いきなりの入部することになった歌恋とリリカは驚く。
「ところでスクールアイドル部は具体的にどういうことやればよろしいんですか?」
「アイドルが自分達で考えて作った衣装や歌で活動するものだ、プロとしてのしがらみに捕らわれず自由意志で出来る!
「それ面白そう、まるでアニメのような展開!」
リリカが目を輝かせる。
「早速だが君たちにはやってもらいたいことがある」
「どんなことですか?」
「部員をあと二名スカウトして欲しい」
「二名?」
「部活動をするには五人いなけらばならない、残り二名を君らにスカウトして欲しいのだ」
「え…まだ正式に設立してなかったんですか」
呆気にとられる歌恋。
「いいじゃないですか先輩、ゼロから始める部活なんてワクワクするぜ!」
リリカはネタを混ぜ込んだような台詞を語って、とてもやる気満々である。続いて己太郎が話を進める。
「では先ず春日野蕾実をスカウトしてきてくれ」
「え?私たちが!?」
「男の俺だとなかなか受け付けてもらえないらしく、女同士で話し合うならまだ交渉のしがいがある」
「は、はい」
もののためしに二人は明日、春日野蕾実から話を聞くことにする。
明くる日の休憩時間、歌恋はクラスメイトの春日野蕾実といよいよ話をすることになる。歌恋のクラスは二年A組である。
「あの、春日野さん」
「何?」
「私、緒方歌恋といいます」
「ああ、転校生ね」
「あの…実を言いますと」
歌恋は緊張していた。何しろ相手は子役から活動している女優・春日野蕾実だからだ。目の前にテレビで活躍していたスターがいるのだ。
「お、オトロク見てました、母と一緒に」
オトロクとは蕾実が子役の頃からレギュラー出演していたドラマ「大人の事情はろくでなし」の略称である。
「見ていてくれたのね、ありがとう」
蕾実がほくそ笑む。
「春日野さん歌も出したことあるんでしたよね?」
「アニメの主題歌もやってたわ」
「そうですか、あの、それで…」
「スクールアイドル部に入る話?」
「は、はい」
「悪いけど私、フリーになったばかりだから、これからどうするのか自分で考えてるところなの」
「そ、そうですか…」
「だから部活でアイドルやろうと言われても、何が何だかよく分からないし」
歌恋は蕾実が現在、今後のことで悩み迷ってる最中で、故に誘われても気乗りしないと悟った。
「なるほど、もしかして蕾実ち…春日野先輩も子役から声優に転じようと考えてるんですか?」
「えっ?」
横からリリカが割り込んできた。
「な、流さん…」
「リリカでいいよ、歌恋先輩」
「緒方さん、その娘は?」
歌恋はリリカを紹介する。
「あ、彼女は一年の流リリカさんです、私とともにスクールアイドル部に入りました」
「スクールアイドル部…何だか得体の知れない部活だし、今のところ警戒しているの」
「まあ確かに学校の部活でアイドルやるなんて…」
そんなとき、歌恋に声がかかった。
「ねえ、部活でアイドルやるの?」
「はいっ、あなたは?」
歌恋に声をかけたのは、端正な美少女だった。
「あーエッチな水着を着てる人?」
「何ですって、この娘が…」
その美少女は自己紹介する。
「一年の樹咲美夢です、ジュニアモデルやってました」
「確か『みゆ』という名前で写真集や円盤いっぱい出してたよね?」
「よく知ってるね」
「流…リリカちゃん、この娘どういうことやってるの?」
リリカは説明する。
「うちのお兄ちゃんが彼女のファンで雑誌に写真集に円盤と買いそろえてるの、小学生の頃から小っちゃいビキニとか時には下着姿にもなってたんだって」
「えーそれってヤバくない?」
側にいた蕾実は怪訝そうな顔して去って行く。
「あ、春日野さーん!」
「うーん、やっぱかつての名子役にとって、私みたいなタイプは受け付けないのかな?」
そう呟く美夢に歌恋が尋ねる。
「あの…うちの部活に入りたいって本当?」
「うん、私もグラビアの仕事が一段落したらアイドルやりたいなと思って、でもうちの事務所はあくまでモデル系で歌って踊るアイドルに関してはまだ手を付けてないというか、企画すら立ってないのよ」
樹咲美夢が所属するクリエイトフォースという事務所は、モデル事務所としては老舗だが数年前にジュニア部門を設立。小中学生の水着グラビアで美夢は人気を博し、次第に過激な水着も着たり、下着姿も水着と称して掲載するようになった。最近はその小中学生グラビアの過激化に規制がかかってきたところだ。
「ああいうグラビアやってきたから、プロの世界で改めてアイドルやるのは厳しいかなと思って、けどアマチュアもとい部活なら何とかいけるかなって?その点は先ず、衣装とかは良い相談役もいるし」
「そうか…樹咲さんも一応プロの世界にいたからね」
「美夢で良いですよ、お二人は?」
「私は緒方歌恋、二年で転校してきたばかりなの」
「私は一年の流リリカでーす」
「よろしく、歌恋先輩にリリカちゃん」
「ふう、これで二人ゲット!大張先輩に紹介しなきゃ…春日野さんは無理に誘わないでおこう」
歌恋は二人を大張己太郎に会わせることにした。
「大張先輩、部員希望者二人連れてきました」
リリカと美夢を己太郎に紹介する歌恋。
「流リリカ、アニメ大好き一年生です」
「樹咲美夢、ジュニアアイドルやってた一年生です」
「うむ、スクールアイドル部へようこそ」
己太郎は新入部員を迎え入れる。
「あの、確か部活は五人からなんですよね?もう一人は…」
「皆さん初めまして」
「誰?」
己太郎の側から少々小柄で長めのボブカットの少女が現れた。童子に己太郎が紹介する。
「紹介しよう、俺の妹のゆかりだ」
「大張ゆかりです、学年は一年生です」
ゆかりが礼をする。
「こ、こちらこそよろしく、私は二年で転校生の緒方歌恋です」
「実はこのスクールアイドル部は妹が企画したんだ」
「え!?」
「プロの世界だといろいろしがらみがあるから、いっそ学校の部活でアイドルやったらどうかと?野球で言うところの高校野球のようなものだ」
どうやら妹・ゆかりが抱いていた夢を叶えるために、兄の己太郎が始めた部活ということだ。
「ほーかなり天才的発想の妹ちゃんですねえ、おまけにおっぱい大きいし」
「ホント、グラビア方面でも活躍してそう」
リリカと美夢はゆかりの胸に注目して呟く。
「ちょっと、あんまり見ないで下さい」
「そうよ女同士でもセクハラよ、それよりこれで五人揃ったから部活始められますね?」
「いや、まだだ」
歌恋の問いに答える己太郎。
「え?でも大張先輩と妹さん、リリカちゃんに美夢ちゃんと私で五人だし」
「部長となる俺を除いて五人だ、つまりもう一人の女子部員が欲しい」
「そんな、でも…」
困った歌恋にリリカがなだめる。
「良いじゃないですか歌恋先輩、部長だっていろいろ拘ってると思いますよ」
「はあ、そういうものなのかな?」
続いて美夢が言うには。
「そうなると…あの元子役の女子をスカウトするしかないと?」
「でも美夢ちゃん、確かにプロの世界にいた美夢ちゃんや春日野さんがアイドルの部活にいてくれたら、いろいろノウハウも教えてくれそうだけど、本人にも事情があると思うし」
その時、ゆかりが意見を出す。
「あの…でしたら私が春日野蕾実さんに掛け合ってみます」
「えっでもなんでそこまで…」
「私…蕾実さんを放っておけないんです」
ゆかりの言葉にリリカが反応する。
「ははーん、もしかして春日野蕾実の大ファン?」
「というより今の蕾実さんを見てると他人事とは思えないんです!」
強い口調になるゆかりに、歌恋達は驚く。
「他人事…ではない?」
「緒方、ゆかりと一緒に春日野蕾実を交渉してくれないか?春日野は君のクラスメイトだろ?」
「は、はい…」
なぜスクールアイドル部に春日野蕾実を入れることに執着するのか?しかもそれは己太郎より妹のゆかりの要望らしい。取り合えず歌恋はゆかりと共に春日野蕾実と話し合おうと思った。
「かつての名子役とお話しするのか…何かドキドキする」
つづく
アイドル部を設立するために元子役・春日野蕾実をスカウトしようと、歌恋は己太郎の妹・ゆかりと春日野邸へ。そこで蕾実の秘密を知ることに…!?