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バレー部のタチバナさん  作者:
家庭科部のタチバナさん
38/38

8 タチバナさんとシゲムラくん


 体育大会後の運動部には、『体育大会の後片付け』と称した大掃除が待っている。私達バレー部には、校舎周辺の草むしりという、体育大会に無関係とすら思われるミッションが課せられてしまった。


 私の隣にしゃがみ込んだ航太郎はせっせと草を抜いている。男子ってこういう作業を面倒くさがってサボるのかな、なんて思っていたけど彼は「根っこから抜けよ」とイチイチ注意をしてくる。ちょっとウザい。


 体育大会中はお互いクラスが離れているので、大して喋る機会がなかった。部活動リレーは男女別で固まって応援していたため、すれ違ったときに軽く挨拶を交わして、バレー部1年の男女全員で集合写真を撮ったくらいだ。

 掃除が始まった途端に、航太郎の方から構ってほしそうに接近してきたため、部活の友達が全員気を遣って離れていってしまったのだ。


「最後のリレー見てくれた?」


 シャベルで地面を掘る航太郎が振ってきた話題に、私は冷や汗をダラダラと垂らす。

 彼が午後の最終種目であるクラス選抜リレーに出たことは知っている。2走で走るのも前から聞いていた。トラックの内側で待機している姿を見つけだし、『いた!』と思ってはいたのだけれど。


「え、えっと……。実は、その……」


 キラキラとした目で私の方を覗き込む彼に、思わず口角がピクリとひきつる。


「ごめん、クラスの方応援してたら夢中になって……」


 だって、仕方ないじゃないか。

 1走で玲香が走って、5走の有希なんて400mも走って。

 8組の応援席もすっごく盛り上がっていた。100mリレーが一緒だった莉子と声を張り上げてクラスの応援をして。

 ……正直、他のクラスである航太郎のことは頭から完全に抜け落ちてしまっていたのだ。


 気まずくて目をそらしていると、草抜きの手を止めた彼は「……そうだよな。普通そうなるよな」と明らかに落ち込んでしまった。


「……航太郎は私の走るところ見てくれてたの?」


 こんなこと尋ねたのは、ただの気まぐれで。彼だけ私のことを見てくれてたのなら、本当に申し訳ない。

 そんなことを思っていたのだけど。

 しばし黙り込んでから、彼はおずおずと口を開いた。


「……ごめん。正直に言うと、俺もクラスの方応援してた……」


 航太郎は酷く情けない顔をしていて。私はポカンと口を開いたまま、その顔を眺める。

 しばらく見つめ合った私達はこらえきれなくなって、ほぼ同時に吹き出してしまった。


「アハハ。何それ、結局お互い様じゃん」

「よく考えたら俺も悪いじゃんか、ハハっ」


 口を開けてケラケラと笑う私達の元に、少し離れたところで草抜きをする男子バレー部1年の男子が「あいつらイチャついてんなー」とボヤく声が聞こえてくる。その言葉すらも、今の私達にとっては笑いのタネになってしまうだけだ。いたずらっ子みたいな笑みを浮かべた航太郎が「草抜きの続きしますかぁ〜」と意気込んだのに、「そうしますかぁ〜」とノリよく言葉を返した。



 模範的な彼女なら『リレー見てたよ!』なんてウソでも言えるのだろう。私自身もそう答えるべきか一瞬迷った。


 でも、航太郎にはそのウソは言いたくなかった。相手をがっかりさせるかも、と懸念する一方で、彼ならちゃんと受け止めてくれるという自信があった。



 あぁ、きっと私が航太郎を選んだのはそれが理由だったのだ。

 航太郎となら、ちゃんと向き合える。

 航太郎になら、思ったことが伝えられる。


 告白してくれたときから、彼はそうだった。

 私に思いをちゃんと伝えてくれて、告白の返事に関わらず私の答えを受け止める気でいて。

 きっと無意識に私はそういう人を求めていたのだろう。

 私が彼に惹かれていった理由が、何だか分かってきたような気がする。


「……手止まってるけど、どした?」

「ううん、なんでもない。まぁ、ちょっと考え事」


 言葉を濁す私に「ふぅん」とだけ返した彼は、きっと『何考えてるんだろ、コイツ』なんて思っているのだろう。悪いけど今考えていた内容は、恥ずかしくてさすがに言えない。


 でも、彼になら、いつか伝えることが出来るのだろう。

 ……あえて秘密のままにしておくのも、良いかもしれないけどね。



第2章8話をもって、この物語は完結となります。

ご愛読ありがとうございました。


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