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バレー部のタチバナさん  作者:
家庭科部のタチバナさん
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4 自慢


 2学期中間テストを乗り越えた、10月中旬の昼下り。

 彼氏の外崎くんがわざわざ調べてくれたカフェの窓際の席で、私はキャラメルラテのストローを咥えながら、頭の中で話のネタになりそうな話題を模索していた。


「そ、そういえば、昨日家庭科部でかぼちゃのモンブラン作ったの。かぼちゃクリームの裏ごし、……え〜っと、滑らかにするのが結構大変で。しかもデコレーションも難しかったんだ」

「そうなんだ。美味かった?」


 クールな表情を少しだけ崩した外崎くんは、僅かに口角をあげて微笑む。外崎くんは口数が少ない。だから、基本的に話題を振るのは私の方。


「うん。見た目はお店みたいに上手く出来なかったけど、食べたら美味しかったよ。スマホに写真あるんだけど見てくれる?」


 私がスマホを操作すると、向かいに座った外崎くんは「見せて」と身を乗り出す。


 外崎くんは優しい。


 今日みたいにデート先を色々調べてくれるし、私の話もうんうんと聞いてくれるし、「荷物持とうか?」なんて些細な気配りをしてくれる。

 連絡はマメにしてくれるし、ワイワイ騒がしくないし、「芭奈が好き」ってこまめに伝えてくれる。

 外見だってかっこいいと思うし、スタイルが良いからスタンドカラーシャツにTシャツを合わせているだけでオシャレに見えるスマートな人だ。


 それでも、時折思う。

 外崎くんって、私と付き合ってて楽しいのかな、って。


 私は男の子を喜ばせるような話なんて出来ない、つまらない女の子だから。私は多少の沈黙は気にしないタイプだけど、外崎くんはどう思っているのか分からない。


 外崎くんには、もっと他にピッタリな女の子がいるような気がしてしまうのだ。



 □


 中学の頃から、騒がしい男の子はあまり好きじゃない。


 ただ教室で騒いでいるだけなら、変なことしているなって他人事のように思えるけれど、話しかけられたときは別だ。

 あくまでノリで話しかけただけだから、と言い訳するかのようにちょっかいをかけてくる。急に話しかけてくるからちょっと怖い。


 もっと最悪なパターンは、近くにいたクラスメイトの女の子から「今、白崎さんに話しかけてきた男子なんだけど、私の友達が彼のこと好きなんだよね」と牽制球を投げてこられたとき。嫌われるのが怖い私は、いつもこの返答に頭を悩ませる。


 初めて彼氏が出来たのは、中学1年生の頃だった。

 その人はクラスの中心グループに所属しているものの、ワイワイ騒いでいるというより、仲間の楽しそうな姿を笑って見ているような人で。クラスの女の子の間でも、カッコいい男子として良く名前が挙がるような人物だった。


 何度か告白されたことはあるが、冗談なのか本気なのか分からない告白をする苦手なタイプの男の子や、話したこともなく判断材料に欠ける地味な男の子に告白されることばっかりで。初めて「ちょっとイイな」と思える相手に告白された私は首を縦に振って了承した。


 高校生になった今でこそ交際経験のある人が増えたものの、中学1年生の段階では彼氏持ちはそれほど多くない。

 色々根掘り葉掘り聞いてきては「すごーい」と褒めてくるクラスメイトの女の子が、陰では「芭奈ちゃんって顔で彼氏選んだんじゃないの」なんて言っていたのも実は知っていた。

 けれど、友達を失って孤立してしまうのが怖い私は何も言えない。ただ、ニコニコと笑ってやり過ごすのだ。


 付き合い初めて3、4ヶ月が経った頃。

 男女交際にも慣れ始めた私は、倦怠期というものを実感し始めていた。中学生の交遊範囲である近場のデートスポットは一通り網羅し、彼からの休日の誘いが少しずつ減っていて。

 そのことを少し気にしていた私は、たまたま私と彼の噂話をする女の子の会話を聞いてしまったのだ。


「あれでしょ、美人は3日で飽きるってヤツ」


 あぁ、私って今、飽きられている真っ最中なんだ。

 いつもなら気にしないでおこうと耳を塞ぎたくなるはずなのに、その日だけは妙に腑に落ちてしまった。


 しばらくして、彼の方から別れを告げられた。その後、彼がクラスの男子と話していた「男友達といる方が楽しいじゃん」という言葉に、目に力を入れて涙を堪えながらも、どこかで『ほら、やっぱり』と思えてしまう自分がいた。



 2人目の彼氏は、私の苦手な騒がしいタイプの男の子だった。


 そんな相手からの告白を承諾したのは、その男の子が私の字を見て「白崎さんって字がキレイ」と褒めてくれたからだ。

 中学生の頃書道部に所属していたものの、他の部員に比べると腕前の劣る私にとって、その言葉はすごく嬉しかった。


 本来なら告白を断ろうと思った。けれど、明るいタイプの人と付き合ったら、私も何か変わるかもしれない。

 そう思った私は、一切の恋愛感情を持たぬまま、その相手と付き合い始めた。


 私の新たな交際を知った友達は「ああいうタイプの男子の方が、付き合ったら楽しいはずだよ!」「芭奈ちゃん見る目あるね!」なんて勝手なことを言ってくる。

 私はそれに顔を引き攣らせたまま、思ってもないのに「ありがとう」と返事をする。


 彼との時間は、私にとって苦痛でしかなかった。


 話自体は笑えるけれど、長いし興味のない話も多い。鼻息が荒く、スキンシップを断ると露骨に不機嫌な顔をされる。「字がキレイ」と褒めてくれた割には、書道部の作品を見せても一切興味を持ってくれない。

 そんな不満を抱えるものの、それを相手に伝えるのすら億劫で。

 ただ、我慢というものには容量が存在する。堪えきれなくなったのは、彼が冗談交じりに放った一言だった。


「白崎っていつもヘラヘラ笑ってるだけだよな」


 あぁ、もうムリだ。

 思い切って別れを告げると、案外彼はすんなりとそれを受け入れてくれた。


 結局私は、顔が整っているだけの、特に自慢すべきところがない人間なのだ。

 長期休みのたびに会うリナは「優しくて、気遣いが出来て、ずっと私の友達でいてくれるところ」と言ってくれたけど、長所としてあまりにも漠然としていて。


 つまらない人間だな、って自分でも思う。



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