表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バレー部のタチバナさん  作者:
家庭科部のタチバナさん
32/38

2 女友達

今回は、タチバナ ハナちゃん視点です。


 私は橘香里ちゃんが、羨ましい。

 私がもし香里ちゃんだったら、きっと誰とでも上手くやっていけたのだろう。


「ねぇ、芭奈ちゃんはこの中だったら誰が推し?」


 2学期中間テストの1日目を乗り切った私は、下校前のホームルームが始まるまでの間、近くの女子の輪へ加わりにいく。クラスメイトが見せてきたスマホ画面には、最近アルバムを発売したアイドルの集合写真が写されている。


「う〜ん、ベタだけどセンターのタイヨウくんじゃない?」

「アハハ、芭奈ちゃんやっぱり面食いだ!」


 正直、私は男性アイドルより、可愛い衣装を着た女性アイドルの方が好きなんだけどなぁ……。もちろんそんなことは言えないので、とりあえず1番人気のメンバーを指しておいたらこの言われよう。

 気づいたときには、話のネタは今期のドラマに出演している2番人気のメンバーの話題に移っていて、私はそれに「うんうん」と相槌を打つだけ。


 高校で出来た友達とは、そこそこにやっていけている。

 皆優しいし、私にもたくさん話しかけてくれる。

 彼氏が出来たときも、僻まれるようなことはなく「おめでとう」と祝ってくれた。

 それでも、私は心から彼女達を信頼出来ていないのだ。


 香里ちゃんと私は、同じ苗字の読み方であるはずなのに全然違う。

 夏休みで香里ちゃんと駅で会ったとき、彼女が私にくれたアドバイスはクラスの友達からの受け売りだった。きっと、香里ちゃんはクラスの友達を恋愛相談をする程に信頼しているのだろう。

 文化祭実行委員会のときもだ。男の子からの冷やかしも上手く対応して、周りの状況を見てサッと面倒事を引き受けて。

 身長も高いし、運動部に入っている香里ちゃんは、チビで運動音痴な私とはまるで真逆みたい。

 どうせ『タチバナ』になってしまうのなら、香里ちゃんみたいになりたかった。



 お母さんには悪いけど、『立花』って苗字は好きじゃない。誰かから「立花さん」なんて呼ばれると、どこか他人事のような気がしてしまう。そもそも、『たちばな はな』って似たような音が連続しているのが正直気に食わない。



 通学カバンにしまった私の教科書の裏表紙には、間違って記入してしまった『白崎(しらさき) 芭奈(はな)』の文字を修正した跡が残っている。



 □


 今思えば、小学生の頃が1番楽しかった。


 親友のリナと毎日一緒で、土日の夜にはお父さんが帰ってくる。休みの日には優しいおばあちゃんの家へと遊びにいける。

 そんな私の日常は、徐々にボロボロと崩れ去っていくのだ。


 ファッション雑誌を眺めながら、リナと好きなモデルさんの話をしていたのを今でも覚えている。モデルの応募条件には『身長153cm以上』と書かれていて、私の身長がそこまで伸びたら一緒に応募しようね、なんて話をしてたんだっけ。

 結局リナが中学受験をして私立の女子校に通うことになったから、自然とその話は立ち消えてしまった。(そもそも、私の身長が151cmで成長が止まったせいでもあるのだけれど。)


 地元の中学校に進学した私の隣は、大切な親友がいない。

 小学校より人数の増えた学校で、私は周囲の同級生から「可愛い」と持て囃されることになる。幼い頃から言われ慣れていたのもあって、この手の対処法には慣れている。


「……そうかな? でもそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう」


 鼻に付くような返答はダメだし、謙遜し過ぎもあまり良くない。可愛いもの目当てで近づいてくる女子生徒は、私という存在が損になるのか否かを瞬時に嗅ぎ分ける。

 中学を卒業した今だから言える。

 当時仲良く話をする友達はそれなりにいた。けれど、それはクラスが一緒の間だけ。

 クラス替えのあと1学期も終了しない間に関係が希薄になって、インスタのイイネを押すだけの関係性に落ち着いてしまう。

 広くて、浅い交遊関係。始まったばかりの中学生活は、私にとって毎日が綱渡りのようだった。



 何とか中学1年生の1学期を乗り越えた私だったけれど、突如両親から「大事な話がある」と伝えられた。


 お父さんとお母さんが離婚すること。

 私はお母さんと2人で暮らすこと。

 中学校では『白崎芭奈』のままだけど、戸籍上は『立花芭奈』に変わってしまうこと。


 両親の仲が良くないことは何となく気づいていた。

 仕事が好きなお父さんにとって、家庭とは『蔑ろにしない努力をしなければいけないもの』という認識であることにも気づいていた。


 でも、なぜ離婚しなきゃいけないのだろうか。

 これを期に、お父さんは数年後には海外の方へ異動することが内定したそうで。それなら別居じゃダメだったのだろうか。

 思ったことを口に出来ないまま、ただ涙だけが流れる。そんな私を痛ましそうに、お父さんが大きな手のひらで私の頭を撫でた。


「例え、家族の形が変わってしまっても、芭奈は大事なおばあちゃんの孫だよ」


 そう言ってくれたおばあちゃんだったけれど、その優しさが逆に辛かった。今までは月に1度の頻度で会っていたのにも関わらず、なんだか怖くなってしまった私は中学校の勉強を理由に、おばあちゃんを避けるようになってしまった。



「う〜ん。○○女学院は……」


 中学校2年生の三者懇談で、対面に座った担任の先生は渋い顔をする。

 私が進路希望調査に書いたのは、高校生になった私が通うことになる公立高校の名前と、リナが通う私立の女子校の名前だった。

 勉強はそれなりに頑張っているけれど、もしかして学力が足りないのだろうか。

 先生が渋った理由は、決してそこではなかった。


「○○女学院は、高校受験で入学してもあまり実績が良くないですから。授業料も高いのであまりオススメとは言えませんね。とはいえ、白崎さんがご家族で話し合って決めていただくことですので。念の為、奨学金の方も検討してみてはいかがでしょうか」


 奨学金、ってたしか借金だったっけ。

 お父さんが大学時代に借りてた、って話を聞いたことがある。


「お、お母さん……。私の家って、その、お金……。あんまり、ないの……?」


 恐る恐ると尋ねた私に、お母さんは「違う違う」と小さく笑った。


「うちなら大丈夫よ。お父さんも芭奈の学費は払うって言ってたし、お母さんも頑張って働くから気にしなくていいの。ただ、○○女学院は昔お嬢様学校だった名残で、ここだけ特別高いだけ」


 担任の先生が「条件を満たせば返さなくて良い奨学金もあるから」と付け加えるけれど、私は自分の浅はかさに思わずスカートの裾をギュッと握りしめた。


 友達が通っているから、というだけで行きたいと願っただけだった。そんな私のわがままは、両親の努力が犠牲になって、やっと叶うもの。


「どうしてもその高校に行きたいって言うのなら、お母さんも腹くくるから」


 そう言って拳を握るお母さんの目元には、うっすらとクマのようなものが見えている。一緒に暮らしているのだから分かる。お母さんは間違いなく無理をしている。

 そんなお母さんにさらなる無理強いなんて出来ない。

 私は力なく首を横に振った。


「ううん、良いの。友達が通っているから、知ってた名前書いただけ」


 そういえば私って、いつの間に、こんなに自分の言いたいことを言えない子になってしまったんだっけ。


 思い出そうとしても、思い出せないや。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ