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バレー部のタチバナさん  作者:
バレー部のタチバナさん
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28 彼のコンプレックス

今回も山城くんについての話です。


 あの日以来橘さんに近づくのを止めたものの、文化祭は刻一刻と迫ってきている訳で。

 臆病者の俺は、文化祭実行委員の責務から逃れる程の勇気がない。

 ストレスではあるものの、仕方なく他のクラスメイトと文化祭の仕事を進めていると、普段交流のない、とあるクラスメイトがまじまじと俺の顔を眺めながら言ったのだ。


「お前って、こういうの苦手そうなのに頑張ってるよな」


 そのクラスメイトは、普段教室でバカ騒ぎしている野球部の一員で。そんな相手が真剣な顔で言うものだから、俺は呆気に取られてしまった。


「正直、俺山城のこと不安だったんだよな。大丈夫かな、って。でもお前真面目にこなしてくれてスゲェな、って本気で思ってる」


 それだけ言って、彼は他のクラスメイトの元へと去っていった。


 今まで『真面目』だなんて散々言われてきた。それは、地味なヤツを上手く形容するための言葉だと思っていた。それが、これほどまで他人を評価できるものだったのか。目からウロコとは、まさにこのことだった。


 この感覚、どこかで味わったことがある。

 あぁ、思い出した。橘さんと初めて文化祭のホームルームの司会をやらされたときだ。


 もしかしたら、俺が色々と決めつけていたものは、別の視点から見ると違って見えるのかもしれない。『物事を色んな視点から観察する』なんて陳腐な言葉は、今まで散々聞かされてきた。けれど、初めてその意味が少し理解出来たような、そんな気がしたのだった。



 ■


 その日の放課後。

 文化祭の設営担当の打ち合わせを終えた俺は、戻ってきた教室の扉を開けたとき、1人教室に残って椅子に座っている橘さんと目が合った。


 あの日の橘さんは、本当に俺をバカにしていたのだろうか。そんなこと、今では分からない。


 けれど、俺は、そうではない方を信じてみたくなったのだ。


 ここ1週間程、橘さんを避けていたことに彼女は気づいているのだろうか。備品のカチューシャを小さく振りながら「お疲れ様」と俺を労う彼女は、気づいてないようにも見えるし、気づいてないフリをしているようにも思える。


 俺は緊張を悟られないように「お疲れ様」と返事をすると、橘さんは優しく微笑みながら「山城くんも委員会終わり?」と尋ねるのだ。設営担当の話をすると、彼女はステージ発表のリハーサルでのことをポツポツと話す。

 文化祭実行委員に所属して、何度も橘さんと話してきたのに、どうしてだろう。初めて彼女と対等に話せているような気がするのだ。


 とはいえ俺はコミュニケーション能力が高くないので、気の利いた返事が出来ない。きっと橘さんの彼氏のシゲムラという男なら、橘さんのことを楽しませることが出来るのだろう。


 そんな俺は、脈絡がないにも関わらず、つい尋ねてしまったのだ。


「……橘さんは、文化祭実行委員のペアが俺で良かった?」


 口に出してしまったことを酷く後悔した。

 橘さんは目を丸くして、パチパチと瞬きする。俺は彼女を困らせてしまったのだろう。とはいえ、聞いてしまったことは取り消せない。


「うーん、そうだね……」


 顎に手を添えたまま、彼女は申し訳なさそうに、眉を下げる。


「相性が良かったとは言えないかもね……」


 あぁ、彼女は俺のことをそんな風に思っていたのか。


「でも、私はそれでも山城くんが同じ委員会で良かったよ」

「……え?」

「山城くん、真面目だから仕事が丁寧で助かったもん。ここまで順調に準備出来たのは、山城くんのおかげだと思うな。文化祭は明後日からだから、残りの期間お互い頑張ろうね」


 ヘヘ、と橘さんが照れくさそうに笑った。

 その顔を、俺はきっと、一生忘れないのだろう。


 何を言おうか迷うより早く、橘さんは席を立った。


「ちょっと用事思い出しちゃった。鍵は後で担任の先生が閉めてくれるらしいから、そのままで良いって」

「あ、……うん。分かった。それじゃあ、また明日」

「うん、またね」


 橘さんが手を振って出ていったのを見送った俺は、教室の真ん中まで足を踏み入れた。


 最初は女子の趣味だと内心軽蔑していた内装も、何だか愛着が湧いてきた。スマホを操作して数枚写真を撮る。

 ついでにLINEを確認したとき、軽音部1年のグループチャットを開いた。そこにアップされていたのは、部員が感想を求めて送ってきた演奏動画だった。


 ワイヤレスイヤホンを取り出して再生すると、流れてきたのは俺が散々バカにしてきた『ラスティピスタチオ』の最近の曲で。本家と比べると演奏は拙いし、肝心のサビでボーカルが音を外している。


 でも、何でだろう。

 陳腐だったはずの、失恋ソングも悪くない気がするのだ。



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