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バレー部のタチバナさん  作者:
バレー部のタチバナさん
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26 拗らせ


 2学期の始業式と文化祭の準備、部活の練習をこなした私は、同じく部活終わりの玲香とファミレスのソファに身を沈めていた。


「人を好きになるのは、その人の勝手だと思うよ?」


 ステーキの刺さったフォークを、玲香が私の方に突き出してクルクルと宙で小さな丸を描く。


「でもね。だからといって誰かに迷惑かけるのが許される訳じゃないでしょ。文化祭の委員会のペアに対して、公私混同しないでほしいんだけど!」


 ジュウ、ジュウ、と切り分けられた肉が、怒りをぶつけるかのように熱したペレットに押しあてられる。そこから煙がフワッと立ち上り、テーブルの向かい側にも香ばしい匂いが一気に広がる。


 玲香がご機嫌斜めなのは、ここ数日の山城くんのせいだ。


 当初は『山城、香里()が好き説』は、私と玲香と莉子と有希の4人の中では、なかったことにされたものであった。明確な根拠がある訳でもないし、勝手にそういう判断を下してしまうことこそ山城くんに対する侮辱だろう。


 とはいえ、8組の教室に航太郎が来てからというもの、山城くんは私を避けるようになった。

 シフト表を制作してくれたときなんて、わざわざ報告してくれたのに、最近なんて担任の先生や、クラス委員など他のクラスメイトと話し合った結果の事後報告がLINEで送られてくるぐらいだ。

 正直、私も気を遣うので仕事がやりにくいんだけど。


「……山城くんについては、私が1週間後の文化祭まで辛抱すれば良いだけだもん。それに、文化祭の仕事は一応こなしてくれてるから文句言いにくいんだよね」


 そう。あくまで私への対応がおかしくなってしまっただけ。

 むしろ、私以外の人に積極的に意見を聞くようになったから一概に悪いこととは言えないのだ。


「山城くんの異変に気づいてるのは『山城、香里が好き説』を知ってる私達だけだもんね……。変にことを荒立てたくないし」

「その『説』が仮に本当だったとして、私はどうすることも出来ないし。山城くんだって私の彼氏の存在知ってるんだから、これ以上何かしたところで傷つけるだけでしょ」


 眉間にシワを寄せる私に、「もし例の相手(山城くん)から告白されたらどうする?」と玲香が冗談交じりに尋ねてくる。それに私は何の躊躇いもなく「ナイ」と首を横に振った。

 彼氏の有無に関係なく、山城くんは私にとって恋愛対象外の相手だ。……こんなこと言ったら失礼だから絶対口にしないけど、見た目もタイプじゃないし。


「てか、仮に山城くんが私を好きだったとしたら、何でなのか理解出来ない。むしろ軽く揉めたことすらあるんだけど」

「……そりゃあ、委員会一緒だから、的な? ケンカするほど仲が良い理論みたいな?」

「別にケンカした訳じゃないんだけどな。ふとした瞬間に山城くんがキレて、私が『黙って』って言い返しただけだよ? 好きになる要素ある?」


 私は玲香に、覚えているかぎりの当時の状況を説明した。

 テニス部の顔見知りとすれ違って挨拶したこと。その子が山城くんと同じ中学出身だったけれど、山城くんの存在には気づいてなかったこと。

 そしたら急に山城くんがキレ始めたこと。なぜか立花芭奈ちゃんの名前を挙げて、『顔だけの性格悪い女』呼ばわりしたこと。


 ハンバーグの横に添えられたエビフライをしゃくりと口にした私に、玲香は「う〜ん」と頭を悩ませる。


「説明聞いても、未だに良く分かんないや。山城くんって、色々拗らせてるのかもね〜」

「そうかもね。山城くんの中では色々考えてるのだろうけど、私には理解出来ないや」


 水分が少なくなり、大きいブロックの氷だけになったお冷のコップを傾けながら、つい苦笑してしまう。


 山城くんには悪いけど、私は山城くんの苦悩を受け止める立場にはないのだから。私達は委員会が同じであるだけのクラスメイトだ。冷たい人間だと思われるかもしれないけれど、山城くんに寄り添わなければいけない理由の方が分からない。



 ■ □ ■



 文化祭を2日後に控え、放課後にも関わらずほとんどの生徒は校舎に残っている。

 いつもは部活動に熱心な野球部の姿が、晴れの日の運動場で見られないのは、ある意味この時期だけだろう。


「僕がこの高校に入学したいと思ったきっかけは、部活動で――」

「高校に入学して思ったのは、中学に比べて生徒の数が多いから――」

「――生徒会の先輩方のオススメの学食メニューを教えてください」


 私が今いる運動場では、文化祭実行委員会と生徒会で開催される、文化祭のステージ発表のリハーサルが行われている。1年生の私は高校紹介のステージ担当だが、手元にはカンペが用意されているので非常に有り難い。



 問題なくステージ発表のリハーサルを終えた私は、クラスメイトが作業を続ける8組の教室へと戻ることにした。


 ガラガラと教室の引き戸を開けたそこには、クラスメイトが数人しか残っていなかった。沢山の段ボールに埋もれながら、ワイワイ騒ぐクラスメイトが「香里ちゃんだー」と出迎えてくれた。


「もしかして、委員会終わり?」

「そっ。今日はもう作業終わったの?」

「ほとんど出来てるから、明日でも良いんじゃないってなったの」

「8組めっちゃ順調だもんねー。うさぎのジュース屋楽しみ〜! てか、かおりんも写真撮ろ?」


 その辺に転がってたうさ耳のカチューシャを手渡され、それを付けた皆で自撮り動画を撮る。他の教室はまだまだ作業が追いついていないのだろう、廊下を忙しなく行き交う生徒の声がこちらにも響いてくる。


「香里ちゃんも一緒に帰る?」

「うーん、ごめん。私他のクラスの子と約束あるんだよね。誘ってくれてありがと」

「そっか、全然気にしないで〜! 部活の友達とか?」

「うん、そんなところ」


 思い出作りという名の写真撮影に満足したクラスメイトを見送り、1人残された教室でふぅと深呼吸をした。

 机と段ボールで仕切られた教室内は、風船や色紙で彩られて写真映えする可愛らしい雰囲気になっている。さっきまで残っていたクラスメイトの女の子達が、積極的に準備に参加してくれた賜物だろう。男子も男子で、文化祭特有の異質な空間を楽しんでいる。クラスのグループチャットのアルバムには、男子達が少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにうさ耳を付けた写真がたくさん載せられている。


 一緒に帰る予定の航太郎からは【あと10分以内には頑張って教室出る】と連絡が届いていた。【ゆっくりでいいよ】と返事したメッセージには既読がついていない。1組も今頃は準備で忙しいのだろう。もうしばらくはかかるだろう、と私は気長に待つことにした。


 近くの椅子に腰掛け、さっきまで頭に乗せていたカチューシャを手に取り、スマホのカメラを構える。ポートレートモードで撮られた写真は、手元のカチューシャにピントが合わされ、賑やかな背景がぼんやりと写っている。

 我ながら良い写真が撮れた、と自画自賛しながらうっとりとスマホを眺めていたとき、ガラガラと扉が開けられる音がした。


 教室に1人しかいない私と目が合い、扉を開けた人物は顔を強張らせる。


 そこにいたのは、ギターバッグを背負った山城くんだった。



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