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バレー部のタチバナさん  作者:
バレー部のタチバナさん
23/38

22 プレゼント調査


 日曜日の朝、全ての身支度を済ませたはずの私は全身鏡を上から下へと睨みつけていた。

 鏡の中の私は、オフホワイトのTシャツにロングのキャミワンピを重ねていて、コテで巻いた髪をおろしている。


 コーディネートが普通すぎる気もするけれど、髪巻いてるから良いかな? いや、今から考え直したところで、どうせ同じように頭を抱えることになるだけだ。


 雑念を振り払うように、ストラップサンダルを履いた私は家の玄関から飛び出した。



 ■


 私が初めて計画した、今日のデートプランは至ってシンプルだ。

 ショッピングという名目で色んな店を回りながら、さり気なく相手の欲しいものを調査し、誕生日プレゼントとして渡す。


 完璧だったはずの私のデートプランは、開始10分で呆気なく綻びが見えてしまった。


「香里は何か食べたいもんある?」


 人の多い繁華街の中、手を繋いでいない方の手で日差しを遮りながら航太郎が周囲を見渡す。黒のTシャツの裾から白いTシャツをのぞかせ、カーキ色のチノパンを合わせた彼の服装は、相変わらずの普通オブ普通スタイルだ。


 誕生日に気を取られていた私は、自分で誘っておきながらお昼ご飯のことなんて一切考えていなかった。

 横断歩道の電子音が、まるでクイズ番組のカウントダウン音のように聞こえてくる。解答を絞り出すことを諦めた私はギブアップのフレーズを口にした。


「……何でもいいよ。航太郎は何が良い?」

「うーん。こっから見えるのは、カフェっぽい洋食の店と、カレーのチェーン店と、ハンバーガー? カフェはめっちゃ並んでるっぽいし、カレーかハンバーガーのどっちかで良いんじゃないかな。香里はどっち派?」


 中学の友達と遊んだときや、クラスの友達と遊んだときにハンバーガーショップを利用したため、今月だけで既に2回もハンバーガーを食べている。

 とはいえ、カレーだけは絶対に避けたい。というのも、昨日の夜がカレー1日目だったから、今日の夜も家に帰ればカレーが待っている。


「……その2択だったらハンバーガーかな」

「マジ? 俺もハンバーガーの気分だったんだよな!」


 目をキラキラさせて喜ぶ彼に、少しだけいたたまれない気分になる。

 ……本当はカフェに並びたかったな。

 でも、航太郎が嬉しそうだから、別に良いっか。



 ■


 ガヤガヤと騒がしいゲームセンターの中で、私と航太郎は揃って「うわぁ〜」と落胆の声をあげた。


「今の絶対落ちたと思った!」

「だよな! 滑り止め渋すぎるだろコレ」


 彼が操作したUFOキャッチャーの弱々しいアームはお目当てのぬいぐるみを掠めただけで、少しだけ揺れた景品は落ちる気配が一切しない。

 ガラスの箱の中で小生意気な表情を浮かべる流行りのキャラクターのことなんて見捨ててしまった私達は、通路の狭い店内を練り歩くことにした。

 規則正しく並べられたゲーム機から鳴り響く不揃いな電子音や店員さんが話すマイクの声、何かの景品が当たったのをお祝いするベルのカラカラ音が店中にこだまする。


「日曜だからめっちゃ人多いな。レースゲームもホッケーも並んでるし」

「何だかんだ、ゲーセンって楽しめるから寄っちゃうよね。あ、私アレやりたい!」


 ピンと指差しした方向には、大きな箱のようなものが10台近く並んでいる。中央部分に設置されたカウンターでは、若い女性の集団がキャッキャ盛り上がりながらハサミであるものを切り分けている。


「……プリクラ?」

「うん! 航太郎撮ったことある?」

「中3の打ち上げでクラスの皆で撮ったけど、ほとんど見切れてたし、結局女子だけで盛り上がってたから、ちゃんと撮ったことない」

「そうなの? 嫌だったら止めとくけど、どうかな?」

「良いよ、せっかくだし俺も興味湧いてきた」


 ドアップで写されたプリ機のモデルの目をブスブス指で刺しながら「人並んでないし、コレで良いんじゃないの?」なんて航太郎は言うけれど、そんなのは一蹴してやった。あのプリ機は写りがあまり良くないって話をよく聞くのだ。


 結局普段からよく利用する機種を選び、1組分だけ待機してから、100円玉を5枚投入し、セット背景を選択した。

 目当てのプリ機のカーテンをくぐり、白い証明の焚かれた内側を、彼は興味津々に眺める。「天気予報のクロマキーってヤツ?」とグリーンの背景をペタペタ触る。


「ちょっと、目線ズレてるじゃん! カメラ上だよ」

「えっ、画面じゃないの? あ、ここか……」

「アハハッ、カメラガン見で真顔とか怖いんだけど! もしかして写真初めての人なの?」

「んなことないって、俺ちゃんとスマホのカメラ使いこなしてるから! パノラマ撮影とかめっちゃ上手いし。むしろプリクラが難しすぎんだよ。てか、そんな笑わなくてもいいじゃんか! ……あ」

「……あ、笑ってたら知らない間に撮られちゃってた」


 何とか後半3枚はピースや流行りのポーズで撮れたものの、前半3枚は微妙な写り具合だ。

 それでも、落書きコーナーで拡大された画像を見た私はその考えを改めた。カメラのことは一切無視して、お互いの方を見ながら爆笑している、3枚目のプリクラが1番自然体に写っている気がしたのだ。


「お、その写真良いじゃん。2人共カメラ全然見てないけど」


 何を書いていいのか分からず、適当なスタンプを連打しては消してを繰り返して遊んでいる航太郎が私の方を覗き込む。


「だよね、私もそう思う。これが1番お気に入り」


 結局、そのプリクラには特に何も書き込まなかった。何かを落書きしてしまうのさえ、勿体ないような気がしたからだ。

 印刷されたシールは、長財布の中のプリクラコレクションの中に大切にしまっておいた。


 ゲームセンターを出た私達は人混みに流されながらも、気になったお店にちょくちょく立ち寄っていく。


 航太郎が1番最初に興味を持ったのは、文房具屋に売っていたシャープペンシルの替え芯だった。さすがにそれを誕生日プレゼントとするつもりはないので、レジで会計を済ませる彼を黙って見届けた。

 早くも秋服に移ろいつつあるアパレルショップの店内に入るものの、航太郎は何かを物欲しそうにしている訳でもない。「これ良いじゃん」とか「オシャレな人が着てそう」と時折興味を示すものの、ハンガーに吊られた服を手にとってはすぐに元のレーンに戻してしまう。


 手を繋ぎながらキョロキョロと店内を眺めていると、不意にポスンと頭に何かが乗せられた。頭の上に乗せられた物の形状を片手で触りながら確認すると、どうやら帽子のようだ。

 航太郎の指に誘導されながら鏡の中を覗くと、紺色のコットン素材に、白の刺繍のワンポイントが入ったキャップを被せられている。


「……どう? 似合ってる?」


 片手でキャップのツバを押さえながら、彼を見上げて可愛いこぶるように首をコテンと傾けると、デロデロに溶けそうな程の笑みを浮かべながら「可愛い」と褒められてしまった。

 この男は表情が分かりやすいので、一緒にいる私の方が小っ恥ずかしくなってくる。照れくさくなってしまったのを誤魔化すように、近くにあった同じものを航太郎の頭に被せた。大人しくそれを受け入れた彼は、キャップを被り直してから鏡を覗く。


「お、イイじゃんこれ」

「そうだね。航太郎に似合ってるよ」

「マジ? やったー」


 シンプルでスタンダードなそれは、たしかに彼に良く似合っている。チラリと内側の値札を確認すると、1100円と表示されているので、予算的にも都合が良い。

 よし、そうと決まればこれを航太郎への誕生日プレゼントにしよう。


 レジへと帽子を持っていき、お金と引き換えに商品をゲットした。あとはどこかのタイミングでこれを航太郎に渡すだけだ。


 そう意気込んでいた私だったけれど、なぜかレジの方から出てきた彼が同じサイズの同じような膨らみのショッピングバッグを持っているのを確認して、嫌な汗がダラダラと流れ出るのを感じた。


「俺も香里と同じの買った。良いな〜って思ったから」


 私の彼氏は、びっくりするくらい、誕生日プレゼントを用意するのに不向きな人間らしい。

 お揃いにしてしまったら、今買った意味ないじゃないか。


 そんなこと言えない私は「お揃いだね」って作り笑いを浮かべた。




最近のプリ機、ブースの外で背景選択する機種が主流みたいですね。

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