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バレー部のタチバナさん  作者:
バレー部のタチバナさん
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17 第3回文化祭実行委員会


 マズい。合宿での疲れが翌日の午後になっても、まだ残っている。

 睡魔に抗い続けた第3回文化祭実行委員会だったけれど、その終了後思わず目が覚めてしまうような出来事が起きた。

 学年イチの美少女、立花芭奈ちゃんのお迎えにイケメン男子が現れたのだ。


 委員会が開催された視聴覚室の外で、テニスラケットバッグを背負ったまま待機していた彼は、廊下に現れた芭奈ちゃんを見つけてすぐに彼女にかけ寄っていく。その様は、まるで恋愛マンガの実写映画のワンシーンのようだ。


 その様子を見ていた委員会の誰かが「美男美女だ……」とモブすぎる独り言を呟いた。



 ■


 1組の芭奈ちゃんは『隣のクラスの男子に迫られている』みたいなことを言っていたから、恐らく相手は2組の人だろう。ただ、芭奈ちゃんの彼氏(仮)と隣のクラスの一途な男子が同一人物とは限らないけど。


 8組の教室に戻った私は、テニス部の莉子にそれとなく探りを入れてみることにした。すると、絵の具の筆を動かしながら、莉子は慣れたような口調で答えてくれた。


「2組ってことは、もしかしてウィンブルドンのこと?」

「ウィンブルドン……? いや、多分日本人だと思うんだけど……」


 たしかに彫りの深いイケメンだったけど、視聴覚室の外で見た彼は日本人だったと思う。

 混乱する私を余所に莉子は「違う違う」と首を横に振った。


「ウィンブルドンっていうのは女子テニス部内でのあだ名。外崎(そとざき)のことでしょ? 本人はバリバリ日本人」


 どうやら、莉子がテニス部に入部した当初から、外崎くんとやらはテニスの上手い硬派なイケメンだと話題になっていたそうで。人間離れしてるその様に、最初テニス部女子の間でこっそり『宇宙人』と呼ばれだしたのがきっかけらしい。


 そのイケメン宇宙人は、試合のときに他校のマネージャーから連絡先を渡されたそうだけど、彼は『好きな人がいるから』と丁重にお断り。紳士要素も兼ね備えた宇宙人ということで今度は『イギリス人』になったそうだ。

 そして、そのイギリス人さんは、最近他校との交流試合のときに見事上級生に勝利して総合優勝を果たし、今は『ウィンブルドン』のあだ名で統一されているらしい。


「もしかして外崎の好きな人が誰なのか聞いてきてってお願いされた? ウィンブルドンの好きな人は誰も知らないんだよね〜。多分エマ・ワトソンぐらいの美人で魔法が使える人じゃないかって、テニス部女子の中では決着がついたところ。イギリス人だからね」

「そ、そうなんだ……」


 芭奈ちゃんが魔法を使えるかどうかは、おそらく無理だろうけど、あの可愛さだったら十分に納得できる。「一応写真持ってるよ〜」と莉子が見せてくれたスマホの画面を覗くと、たしかにそこに写っていたのは、芭奈ちゃんを迎えにきた男子のご尊顔だった。


 一途なテニス部イケメンからの告白を断るだなんて、芭奈ちゃんはある意味すごい。きっと彼女なりの事情があるのだろうけど。そんな目立つような人が相手なのであれば、同じクラスの友達に打ち明けにくかったのも理解出来る。


「ところで、玲香と有希は買い出し組?」

「そうだよ。私は練習のせいで遅刻してきたから詳しくは知らないけど。そろそろ戻ってくるんじゃない?」


 そういえば、クラス委員の2人と文化祭実行委員の私と山城くん、会計担当の生徒を含めたグループチャットに連絡が入っていたような気がする。

 今更ながら、買い出しに出かけたとの報告のメッセージを確認していると、航太郎から写真が送られてきたとの通知が届いた。教室でペンキまみれの両手をカメラに向けて笑う呑気な写真を見ていると、行き場のない怒りが沸々と湧いてくる。


 夏祭りから2週間経った今も、まだ腰を据えて話をすることが出来ていない。

 相手は私の鬱憤が貯まっていることに気づいているのだろうか。……いや、航太郎ってそういうの鈍そうだし、気付いてる訳ないか。きっと、私の方が彼のことを色々と考えているんだろうな。ちょっとは私のことで頭を悩ませてよ。


 既読をつけた私は無表示のまま、【笑笑】と入力した。



 ■


 8組の文化祭準備の進行度合いは、順調だと言える。


 キツい部活の練習をちょっとサボれる大義名分があるから、という理由で運動部の生徒が結構集まってくれるし、文化部の子も部活で登校したついでに顔を出してくれる。帰宅部の生徒も数人作業を手伝いにきてくれるし、とても有難い話だ。どこかの中学の3組さんにも、これぐらいのやる気があったのなら良かったんだけど。


「レシートはここにあるので全部か?」

「そうだね。あと、ネットで発注したやつぐらい」

「それならスクショ取ってる!」


 クラス委員の生徒2人と、文化祭実行委員の私と山城くんの4人で1つの机を囲みながらスマホの電卓を操作したり、計画用紙に書き込みを増やしていく。


 部活の午前練を終え、お弁当を食べてから委員会に出席。準備を進める教室に少し顔を出してから、部活の午後練に途中参加し、再び教室に戻ってきたのは午後5時過ぎ。

 文化祭実行委員会がある日のスケジュールはかなりハードだ。


「橘さん、指にぐるぐる巻いてるけどどうしたの?」


 クラス委員の女の子が、プリントを抑える私の左手を心配そうに覗き込む。私の中指にはベージュのテーピングが巻かれている。最近ちょっと練習中に張り切りすぎたせいか、今日のブロック練習中にボールを弾いてしまったのだ。


「軽く突き指しちゃったの。しばらくしても痛かったら病院行くんだけど、多分これなら大丈夫そう」


 あまり心配をかけないように努めて明るく説明し、「それより早く作業終わらそ!」と無理やり話を切り替えて誤魔化した。


 4人で協力した甲斐あってか、集まって15分も経たないうちに作業が終了した。

 教室の鍵を職員室に返却するのはクラス委員、計画用紙を担任の先生に提出するのは文化祭実行委員、と役割を分担して、帰りは下駄箱で集合して4人で帰ろうと話し合った私達はすっかり人気の少なくなった南校舎3階を後にした。


「実行委員の担当振り分け、山城くんは設営で良かった? この前の委員会、山城くん休んでたから空いてるところに勝手に決めちゃった。とりあえずステージ以外なら大丈夫かな〜、って」


 最近でこそ、クラスの話し合いの場で色々と意見を述べてくれるようになったものの、多分山城くんは人前での発表だとか、そういうのが苦手そうだ。

 けれど「あ〜、うん」と答えた彼の声はどこか戸惑いがあって。設営は朝早くからの準備担当だし、もしかしたら彼はそれが嫌だったのかもしれない。勝手に最善の選択だっだと思いこんでいた自分に少し呆れてしまった。


 山城くんと担任の先生のいる国語科準備室へ向かっていると、テニスラケットバッグを持った女子生徒が部屋から出てきた。

 あの子は莉子の部活の友達で、莉子と一緒にいるときに一度話したことがある。彼女も私のことを覚えてくれていたみたいで、すれ違い様に軽く挨拶を交わした。


「橘さんってさっきのテニス部の女子と知り合い?」


 国語科研究室での用を終わらせて、山城くんからされた質問に既視感を感じた。たしか初めての文化祭実行委員のとき、立花さんと話した後に似たようなことを聞かれたんだったっけ。


「……友達の友達って関係だからそんなに詳しく知らないよ。何でそんなこと聞くの?」

「さっきの女子、同じ中学出身なんだよね。話したことないから、向こうは多分俺のこと気づいてないけど」

「……そっか。まぁ同じ中学でも挨拶するか困っただけかもしれないよ」


 あくまでも、最後のはフォローのつもりで発した言葉だった。私だって顔見知りの関係でしかない、喋ったことない人に対してはどういう対応を取ったら良いか困るし。


 けれど、それの何がいけなかったのだろう。足踏みを止めた山城くんは、その場に立ち尽くし、拳を握りしめ、俯きながら、ブツブツと呟きだした。


「……それは橘さんみたいな、誰とでも話せるような人だから言えることなんだよ。僕みたいなのは、空気のような扱いされてさぁ」

「……はぁ? 急に何言ってるの?」

「1組の立花とかいう顔が良い女子もそうじゃん。顔だけの性格悪そうな女は結局顔で男を選ぶし! 結局人間関係みたいなものって、努力なんか一切関係ないんだよ! 結局は、顔とか、運動神経とか、コミュニケーション能力とか! そういうので判断されておしまいなんだよ!」


 静寂な廊下に、彼の独白のような叫び声が響き渡る。

 声を張り上げた山城くんは、肩で息をする。


 早口で捲し立てた彼の言葉は、理解が追いつかずほとんどが右から左へと流れ落ちてしまったけれど、1つだけカチンと頭に来たフレーズが存在した。

 私は人生で、こんなに人を思いっきり睨んだことがないという程、目の前の人間を睨みつける。


「……『顔だけの性格悪そうな女』って何? どういうこと?」

「実際そうじゃないの? 中学でもあぁいうタイプの女子って影ではめちゃくちゃ悪口言ってんじゃん」

「それ立花芭奈ちゃん関係ないでしょ。もう黙っててくれない?」


 自分でもびっくりするぐらいの冷淡な声が出て、ビクッと震えた山城くんは口を閉ざしてしまった。


「……私、部室に用事あるから山城くんはクラス委員の2人と一緒に先帰ってて。待たなくていいから」


 このまま山城くんといても、疲れてしまうだけ。

 ふぅ、と深呼吸した私に山城くんが「本当にごめん……」と取り繕うけれど、もうムリだ。

 作り笑いを浮かべて、出来るだけ冷静に、私は山城くんを突き放した。


「ちょっとでも悪いと思ってるなら、お願いだから、先に帰って。そしたら今日のことは水に流すから」


 コクコクと壊れた人形のように首を縦に何度も振り、駆け出した山城くんを見送ってから、私はその場に膝から崩れ落ちてしまった。



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